第4話 水精霊
俺は戦闘人形の胸部左装甲の内側にあるにある、ハッチを開け、その中からサバイバルキットを取り出し、地面に放り投げた。テント、食料品の詰まったリュック、簡易コンロの箱等である。
これは、戦闘時の遭難に備え生存率を少しでも高めるためにすべての戦闘人形に装備されている緊急用の通信機や発信機もあるが、本体の機器が生きているので必要はなく、パイロットスーツにもあるので今は必要ではない。
テントは、紐を引っ張るとワンタッチで開くタイプだ。広げて四隅にある紐に金属杭を通してから地面に打ち込んでテントを固定する。
次に簡易コンロの箱を開け、まず本体を地面に置き、その下に燃料缶をセットすると、水際まで行って水を鍋に汲み、それをコンロにかけ火をつけた。そして、食料のリュックから缶詰を探し出し蓋を開けて、鍋の中に置くと地面に座り込んだ。
「これでよし、後は、温まるのを待つだけだな!」
(「ちょっと、あんたぁ!!」)
何か声が聞こえたような気がした。
「ん、アリス、なんか言ったか?」
『いえ、私は何も言ってませんが。』
「幻聴か? 何か聞こえたような気がしたが…」
(「あんたぁって、言ってるでしょ。聞こえないの!」)
「やっぱり聞こえる。誰だ⁉」
辺りを見回してみるが、誰もいない。当たり前である、ここに来た時に熱源探査で調べたが人の様な反応はなかった筈だ。
『どうしたんですか? マスター。』
「誰かが、話しかけてくるんだ。」
『幻聴じゃないんですか? 可聴領域はもちろん、領域外でも、音波は確認できません。』
(「こっちだよ、こっち!」)
「どっちだよ! 姿をみせろ!」
『マスター…、マスターがおかしくなった…』
「誰がおかしくなったって、俺は正常だ!」
(「こっちだってば!」)
さっき上がってきた湖の入口を見てみると、ゆっくり水が持ち上がり、水面から分離すると15cm程の水球になった。さらに、それは形を歪ませると翅の生えた人型になった。
輪郭のはっきりとしてきた人型は、身長20cm程で、皮膚は肌色、水色の髪、水色の被膜の様な翅もち、水色のミニワンピースを着た少女のような姿だった。
俺は、目を見開いた。「有り得ない」と思いながら、唖然とした表情で固まってしばらく動けなかった。
「ちょっと、あんた、聞こえてるんでしょ! いい加減に返事しなさいよ!」
小さな少女は、近くに飛んでくると前屈みになりながら、腰に両手を添えてそう喚きたてた。
「あっ、ああ、」
驚愕から醒めやらぬ、俺は、そう短く返事をするのが精一杯だった。
「あんたのおかげで、こっちは危く死にかけたんだよ! なのに何、その気の抜けた返事は!」
「死にかけた…?」
『死』という言葉に、ようやく、我に返った。
「死にかけたと言うのはどういうことだ? お前はなんだ?」
「あんたが、その大きな人形に乗って湖のど真ん中に落ちたでしょ!」
「ああ、」
「そんときに、あたしが寝ているすぐそばに落ちたのよ。当たってたら、即死だったわよ!しかも、そのまま水柱に巻き込まれちゃって、飛沫になって、森まで飛ばされたのよ! 飛沫になっちゃうとあたしは、力が弱くなるのよ! そのままじゃあ、蒸発して死んじゃうから必死になって飛沫の雫を集めて、なんとか湖に帰ったのよ! この精霊殺しが。どうやって責任取ってくれるのよ!」
小さな少女が一気にまくし立てた
「ああ、すまなかった。」
俺は唖然としながら、頭を下げながら、なんとかそう答えた。
「それだけ? 『すまない』ですんだら、誰も苦労しないわよ! 誠意を見せなさいよ、誠意をっ!!」
「本当に悪かった。この湖に君のような可憐な少女がいるとは思わなかったんだ。」
「えっ、可憐⁉ あたしが可憐に見えるの?」
「ああ。」
小さな少女がもじもじし始めた。少女を落ち着かせようと少し持ち上げてみたら覿面だった。
「ちょっと、興奮しすぎたわ。」
「俺の名は、ラムル。君の名を教えてほしい。」
「うん、あたしは、レイク。水の精霊オンディーヌ族のレイクよ。」
「レイクさん、改めて謝罪する。あの状況では、ここに落下するのが、最善と判断したが、その結果、君に迷惑をかけた。本意では無かったとはいえ、すまなかった。」
俺は立ち上がると、深々と頭を下げた。
「もういいわ。悪いと思ってるみたいだし。でもね、あんたのせいで湖の生き物もいっぱい、いっぱい死んだわ、魚の仲間や、トカゲの仲間や、貝の仲間、カニやエビの仲間、それは判ってね。」
「ああ、それは、もちろん。」
「じゃあ、赦してあげるわ。ああ、それからあたしの事は、レイクで良いから。」
「すまない。助かったよ! ありがとう、レイク。」
『マ、マスター…、一体、誰と話しをしているのですか。』
「ん? オンディーヌのレイクだが、どうした?」
『さっきから、マスター一人で話してました。』
「?」
レイクが認識できないアリスは、俺の正気を本気で疑っていた。
『マスターの音声以外は一切、ありません。』
「レイクの声が聞こえていないのか?」
『レイクとは、誰ですか?』
「ほら、そこにいるだろう。」
『生体反応ありません。画像でも、赤外線、レーダー波でも、マスターの指を指している方向には何も確認出来ません。』
「はあ⁉ そんな訳はないだろ。」
生体反応がない?
そんなバカなことがあるのか?
俺の目の前には確かに存在していて、会話をしている。
この「精霊」と言う生き物…、生き物なのか?
生体反応がなく、観測機器で捕捉できない物が…。
「高次元生命体」ふとそんな言葉が、頭を過った。
「高次元生命体」とは、かつて「神」とか「天使」、「悪魔」と呼ばれる存在。
存在は確認されていないが、最新理論ではいるとされているもの。
「ねえ、その人形って、あたしが見えてないの。」
思考を中断するようにレイクが話しかけてきた。
「その様だな。それとこいつは戦闘人形ルミナスだ。喋っているのは、アリスだ。」
「人形じゃなくて人形ね、ん、わかった。」
レイクが、ルミナスにゆっくり飛んで近づくと両手を左腕に当てると水色の光を放ち始めた。そして、しばらくして光が収まった
『何が起こったのですか? システムが私の制御を離れて勝手に…』
アリスがそう言いかけた瞬間、操作席に駆け上った。すると、モニターに文字が映った。
『霊子波、確認。』
『緊急最重要事項により、特殊権限実行。』
『霊子波に波長変更、確認』
『波長、内容解析の為、全世界情報より霊子波解析情報書込構成実行中』
『書込構成、完了。続いて、霊子波観測情報書込構成実行中。』
『書込構成、完了』
『人工知能:AL3に霊子波解析及び霊子波観測の特殊権限を付与。』
『特殊権限、閉鎖。』
そこまで表示するとモニターが消えた。
「霊子波」⁉
やっぱりこいつは「高次元生命体」なのか?
「神」や「悪魔」らしき、威厳など何も感じないが…。
「レイク、何をした?」
「やだなあ、そんな怖い顔しないでよ。その人形から不思議な力が見えたからさ、挨拶に魔力を流して見ただけだよ!」
『あっ⁉︎ マスター以外の声が聞こえました。』
「こんにちは、あっ、こんばんはかな。あたしがオンディーヌ族のレイクだよ。」
『貴女がレイク様。先程からマスターとお話ししていた方ですね。』
「うん、そうだよ。」
『先程は、大変失礼致しました。てっきりマスターがおかしくなって独り言を言っている様に見えましたので。』
「おい、アリス、何を言っている‼ 俺を阿呆あつかいか」
『誰もそんな事は言ってません。幾ら人間の感情を模倣して、造られたAIであっても、いえ、だからこそ、さっきの状況では異常であると認識できます。』
「お前、なあ、」
「あのう、あたしはどうしたら良いのかな?」
レイクが困ったような顔をしていた。
お読みいただきありがとうございました。
やっと異世界要素を出せました。




