第44話 門前
俺達が宿に入ろうとしていたその時、警鐘の音が街に響き渡った。
それを聴き、ホノカが突然慌てだした。
「ラムル殿、すまない。緊急事態が起こったようだ。私はこのまま請負処へ行く。宿の方は、そなた達で行ってくれまいか?」
「それはいいが、何があった? あの鐘のせいか?」
「ああ、魔物の類が近づいているようだ。状況を聞いてからすぐにその対処に向かう。」
「何か手伝えることはあるか?」
「いや、客人に手間をかけさせる訳にはいかない。我々に何とかする。」
「ホノカさん、ラムルなら大丈夫だよ。勿論、わたしもね。ラムルは私なんかよりよっぽど強いんだよ。後、私も薬師だから、きっと役に立つよ。」
「リンの言う通りだな。鐘を鳴らして町中に警戒させるほどのものが近づいているのなら一人でも戦う人間が多い方がいいはずだ。」
「確かにそうなのだが・・・。私たちは、萬請負処に所属する仕事人なんだ。」
「仕事人?」
「まあ、何でも屋だな。仕事を請けて報酬をもらうわけなんだが、今回はお上から緊急依頼になっているだろうから報酬が出るはずだ。しかし、貴殿らは仕事人ではないから報酬が出ないんだ。」
「ああ、なるほどな、冒険者みたいなものか。これから泊まる街が無くなったら困るから報酬は気にしなくいい。あんたとこの責任者に顔だけ通してくれ。邪魔者にされるのもいやだからな。」
「ならいっそのこと、仕事人に登録しないか?」
「いや、やめておこう。只の通りすがりの旅人だからな。」
「そうか、残念だな。それなら、今回限りの臨時での登録ならどうだ。」
「臨時か! リンはどうだ。」
「ん〜ん、いいと思うよ。路銀も必要になってくるし、多少でも報酬は欲しいかな。」
こうして、俺達は魔物の討伐への参加と仕事人の臨時登録をすることになり、萬請負処へ向った。
萬請負処に入ると奉公人と呼ばれる職員や仕事人がざわついていた。
そんな中、ホノカが「父上!」と奥にいる厳ついおっさんに声を掛ける。
おっさんはどうやら頭目と呼ばれているらしい。ホノカにそう呼べと言っていた。
そのホノカの父、改め、頭目によれば、100年以上山を出たことがない飛竜が街に近づいており、外で迎撃するため、仕事人や武士たちが卯門と呼ばれるところに集まっているという。そこへホノカと共に俺達が向かい迎撃することになる。
俺達は、萬請負処をでてから、急いで卯門へ向かった。
飛竜は竜とついているが、実際は亜竜に分類される。四肢二翼、一対の翼と前腕、後脚を持つものが本来の竜であり、二肢二翼、一対の翼と後脚の飛竜は厳密には竜ではない。
卯門へ着くと俺達だけでなく多くの仕事人らしき者たちが集まっていた。
「ホノカぁ!」
「スズカ!」
門の方へ近づいていくと巫女姿の少女が手を振りながら駆けてきた。
白い小袖に緋袴、腰まである長い黒髪は、背中の辺りで一纏めに括られていた。
「やっぱり、ホノカも来たんだ。」
「当然だ。飛竜が来たというのに放っておくわけにはいくまい。コンゴウも一緒か?」
「そうだよね。ゴンっちもいるよ。」
なんかちょっと違う。そう思ったのは俺だけじゃないはずだ。一言でいえば、「軽い」。目方ではない。言動が軽い。見た瞬間の神秘的な雰囲気が一瞬にして蒸発した。と思った時。
「ゴン!!」
「いたっ!?」
鈍い音があたりに響いた。スズカの頭に大きな拳が落ちた音だった。
「誰が、『ゴンっち』だ。俺の名はコンゴウだ。いい加減その呼び方はやめろ。」
坊主頭の大男がスズカに名前を訂正しながら文句を言う。名前はコンゴウと言うらしい。
頭襟をつけ、鈴懸を着て、結袈裟を付け、錫杖を持っていた。所謂、修験道の山伏の様な格好をしていた。
「痛いよ〜う。ホノカ~、『ゴンっち』が怒ってきたよ~。」
「それは、お前が悪い。嫌がっているあだ名で呼ぶな。」
「だって、かわいいじゃない。顔がごついんだから、名前ぐらい可愛くしようよ。」
「俺はかわいい名前なぞいらん。そんなこっぱずかしい名前で呼ばれたくないわ。」
(なんか、漫才見たくなってきたな。)
「話に割り込んで悪いが、彼らは?」
放っておくといつまでもやっていそうなので無理やり話に割り込んでホノカに彼らのことを聞いた。
「ああ、騒がしくて済まない。」
「ごめんね〜。わたしはスズカだよ。ご覧の通り巫女術師をやってるよ。ホノカとは腐れ縁? 幼馴染?」
「なんで、そこで疑問形なんだ。」
「拙僧は、コンゴウと申す。密法僧兵だ。」
「ラムルだ。一応、剣士かな。」
「リンだよ。薬師をやってます。」
お互い、挨拶を交わして一緒に門へ向かった。巫女術師というのは霊力を用いて広域結界術、治癒術、除霊術を行使する、後方支援が主な役割の様だ。そして、密法僧兵は法力による身体強化術と防御結界術による近接防御を主体に錫杖を使った棒術で攻撃するそうだ。
門に至るまでの間に大まかな作戦を聞いた。飛竜の襲来まで時間がない為、満足な策を練る間もなく迎撃せねばならない。太守麾下の旗本が率いる部隊は、斬込隊、弓兵隊、呪兵隊、それに後方の支援部隊に別れていて、仕事人達がそれぞれの能力によって各隊の指揮下で行動することになるそうだ。
俺とホノカは近距離も中距離もこなせるので中央付近で斬込隊、弓兵・呪兵隊の支援、リンとスズカは回復要員として支援部隊、コンゴウはその防御力をいかして斬込隊に参加する。
飛竜の攻撃は、翼を使った突風、急降下しての爪による直接攻撃等がある。作戦内容としては、飛竜を墜とすことから始めなければならない。上空からの攻撃を許せば、こちらの被害は甚大なものになる。なのでまず手始めに、攻撃弓兵隊の弓、呪兵隊の攻撃呪術による遠距離攻撃で撃墜、撃墜できなければ、俺達の斬撃や中距離呪術で落す。その後、斬込隊による波状攻撃で飛竜の体力を奪う作戦だ。
「ホノカ、本当にこんな作戦で大丈夫なの?」
スズカが不安そうにホノカに聞いた。普通はそう思うよな。飛竜の強さがどの程度かわからないが、街を守る全戦力で迎撃しようというのだ。つまり、それ程の脅威が飛竜にはあるということになる。時間があれば、作戦を練れば、何とかなるというのなら、撃退できる可能性はある。雰囲気的にここにいる全員が怯えているようにも見える。士気が高いとは言い難い。
「大丈夫だ! 我らが飛竜を倒さなくて誰が倒す!」
ホノカがそう断言する。それは正しい。弱気になればそれだけで士気が落ちる。自分の気持ちを高めるためにも強気の姿勢を崩す訳にはいかない。たとえやせ我慢であってもだ。
「むう、ホノカの言う通りだ。飛竜ごときこの俺に任せておけ!」
コンゴウもそれに乗るが、俺には只の脳筋にしか見えない。話を聞いた限りではコンゴウは防御特化だ。耐久力のある敵には攻め手にかけるはずだ。
「ところでリン殿。見たところ回復薬などは持ってないようですが・・・?」
俺もリンも荷物は持っていなかった。リンは腰に小さなポーチを付けているだけで手ぶらだし、俺に至っては、完全な手ぶらだった。
「大丈夫だよ。このポーチは収納袋になってて、この中にいろんな回復薬が入っているんだよ。」
「そうだったのか。なら、安心だ。回復薬も大量に用意しているから、それを使うことはないと思うが、万が一の時はそれを使ってくれると有りがたい、使った分は請負処で補てんされるはずだ。」
「怪我人を放置したりしないからそこは安心して。」
「すまない。」




