第42話 城下町
ホノカを先頭に俺とリンは、ゴノジョウへ着いた。
街の周りは、巨大な堀と塀で囲まれていた。堀は幅5メートル程で水が張ってあり、底は見えない。堀の向こう側は塀になっており、水面から2メートル程の高さまで石垣が積まれ、その上に高さ3メートル程の漆喰の壁が築かれていた。壁には四角や丸型の穴が規則的に並んでおり、城壁と一体化した2階層の物見櫓が約50メートル間隔で造られ、瓦葺の屋根が乗っていた。
ホノカが言うには、ゴノジョウは穀倉地帯含めた全体を守る外環壁、住宅商業地域を守る中環壁、行政府や上級居住区を守る内環壁の三重の城壁に守られており、外周は約15キロメートルにも渡る巨大な回廊になっているそうだ。
今はその一番外側の城壁の午門と呼ばれる大門の前にいる。大門は三つあり、南に午門、西に酉門、東に卯門があるが、午門は街道へ直結しており、正門として機能している。
堀を跨ぐ様に石橋が掛けられ、その向こうに塀から続く高さ7メートルの門が存在感を醸し出し、大木から切り出した柱が立ち上がり、瓦の屋根を支えていた。木の板と太い梁を組み合わせた巨大な扉が解放され、その向こうに穀倉地帯がのぞいていた。
「おう、ホノカ。お手柄だったみたいだな。」
襷袴の門番がホノカの顔を見るなり、声をかけてきた。
「いや、私は雑魚を倒しただけだ。頭を倒したのはこのお二方だ。」
ホノカがそういってこっちに視線を送った。
「そうか、あんたら強いんだな。」
「俺は、何もしてないぞ。リンが一人で倒したからな。」
「へへっ~、そんなにたいして強くなかったよ。」
門番がおれを見ていたのでリンに話を振るとリンが照れながら謙遜をする。
「いや、そんなことはないぞ。あいつらにはうちの連中が何人もやられているんだ。嬢ちゃんが強くなければ、うちの連中が泣くぞ。」
「そうかな~。」
「ああ、リンは強くなったよ。頑張っていたもんな。」
「へへっ~、ラムル達のお陰だよ。」
何やかんやあったが、俺達は無事にゴノジョウの町に入ることができた。
外環壁から入るとそこは広大な穀倉地帯になっていた。道幅は広く、大部隊でも通れるようになっているのだろう。両端には柵が設けられ、道と農地の境となっていて、所々に道をふさぐよう可動式の柵で侵入者の直進を防ぐようになっている。
穀倉地帯を越えると中環壁があり、その門を潜るとゴノジョウの町だった。
千年以上前の地球の日本にあった江戸城下の様な町並みが広がっている。俺の世界の古い歴史書に載っていた写真を思い出しながら、その景色を眺めていた。
木造の瓦葺や板葺の建物が並び、布簾を広げた商店らしきものや暖簾を掲げた飲食店らしきもの、住居と思しき長屋などがあった。その街の中を着物を着た人たちが元気に行き交っている。
「みんな、生き生きとしていますねぇ。パルミエルも活気があるけどここも負けていないよ。」
着物を着た町の人々が威勢よく行き交っているのを眺めながらリンが俺に話しかけてきた。
「そうだな。俺はパルミエルしか知らないが、施策がうまくいっているのだろうな。」
俺もリンに同意する。
「二人ともパルミエルから来たのか。てっきり王都から来たと思っていた。」
それを聞いていたホノカが少し驚いたように俺に聞いてきた。
「そうだが。そんなに王都からの来訪が多いのか?」
「いや、そうでもないが、パルミエルとは逆方向から来ていだろう。」
「あ~、そうなのか?」
「ん?」
そうだった。俺達はパルミの渓谷を抜けてきたから、逆方向、王都方面からゴノジョウに入ってきたのだ。人跡未踏と言われるパルミの森の奥から渓谷を抜けてきたなどと言えば不審がられるかもしれないな。
「ああ、悪い。余り地理に詳しくないものでな。森の様子を見に行ったら、方向がわからなくなって、あの城の天守を目印にここへ来たんだ。なあ、リン。」
「えっ、う、うん。そ、そうだよ。」
(あやしいぞ、リン。)
一応、ごまかすための言い訳をホノカに言い、リンに振ったら、しどろもどろで同意していたが・・・。
(嘘のつけないタイプだな。)
「?・・・そうか。」
「ところで、あれ、天守閣だよな。立派なものだな。」
ホノカが不自然さに気が付いたが、納得してくれたようだ。
街並みの向こうのゴノジョウ山脈を背景に巨大な天守閣が聳え立っているのが見えたので、それを見ながら、を見ながら、俺は話をそらすために天守の話題を振った。
「あっ、ああ、そうだ。良く知っているな。この町の者以外で天守を知っているのは珍しいぞ。」
「昔、そういう資料を見たことがあるんだ。もちろん、本物は初めてだがな。」
「へ~え、ラムルって良く知っているね。」
「たまたまだ。」
軍学校時代に日本の歴史に興味を持ち、結構、本を読み漁ったからなあ・・・。言えないがな。
「むう、どんな資料を見たか知らないが、見ただけで覚えられるものでもないだろう。」
「まあな。」
「天守を知っているのならわかると思うが、天守を含めた内環壁の内側がすべてゴノジョウの城になる。そこに御館様、太守のカートク・ショーグーン閣下がおられる。」
知ってる奴もいるだろうが、天守閣は城の一部だ。城の中には行政区画、軍事区画、役人や武将の居住区画などがあり、それらを堀や塀で囲った部分が全て城である。ゴノジョウではその塀を内環壁、その外側の城下町を中環壁で囲い、さらにその外側の穀倉地帯を外環壁で囲っている。
(そんなことより・・・、『御館様』って、どんだけ、江戸・戦国ナイズなんだ。それにショーグーンって将軍のことか? ナンチャッテ日本人みたいな変な名前を付けるなよ。)
「ん、どうかしたか?」
「いや、何でもない。それより、良い宿を知らないか?」
妙な突っ込みを入れられる前に、宿を紹介してもらうことにしよう。
「そうだな。この通りを行った所に犬鷲宿というとこがある。良心的な料金で泊まれるし、併設している酒場の食事もおいしいぞ。食事だけでも出来るしな。それに近くに色々と店もあるし、私の所属する萬請負処もすぐ近くだ。用事があれば来てもらえれば連絡が取れる。」
「助かる。じゃあ、そこに宿を取らせてもらおう。リンもそれでいいな。」
「まあ、紹介されるぐらいの宿なら、大丈夫だろうから、いいよ。」
「よし、リンの了解もとれたし、早速、宿に向かうとしようか。」
大通りを進んで中心部に近づくにつれ、賑わいが益々盛んになってきた。八百屋、肉屋、魚屋、武具屋、反物屋、小物屋、様々な店が並び、人々が出入りしたり、店先で値引き交渉をしていた。
「えっ!!」
そんな賑わいの一角で軒下に吊るされたとある看板が目に入った。なんとその看板には行書体の漢字で『宿』と書かれていた。
(何故、漢字? いや、わかるよ・・・。和服に日本瓦、漆喰、木造、ここまで日本ナイズしていたら、漢字があっても不思議じゃないよ。でも、でもね、何故、ここだけ漢字? 『宿』だけ漢字? ここに来るまで漢字っぽい屋号のマークは見たよ、でも、文字は全部、現地語だったよ。)
「ん! どうかしたのか?」
変な顔をしている俺に気が付いて、ホノカが声をかけてきた。
「ん、いや、あの看板、あれ宿だよな?」
「ああ、そうだよく判ったな。」
「ああ、なんとなくな。」
「あれが宿の記号だ。」
「記号? 文字ではなくて?」
「!? ラムル殿にはあれが文字に見えるのか?」
「あ、なんかどっかであんな文字を見たような気がしただけだ。」
(そうか。ここでは、文字としての漢字は使われていないんだな。)
俺はホノカとのやり取りで漢字が使われていないと気が付いた。確かにここまで現地の文字ばかりで漢字を見ていなかった。なぜ、漢字の文化がないのに漢字の文字だけが存在するのか? また、謎が増えた。
その時、『カーン、カーン、』と警鐘が鳴り響いた。
「なんだ?」
「なに、なに?」
「!?」




