第41話 街道
「ぐわぁぁぁぁ! 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、」
「やかましい、静かにしろ!!」
深く斬られた方の膝を抱えて喚いている男に剣士の少女が鬱陶しそうに甲懸の付いた足で鳩尾を容赦なく蹴りあげる。
「ぐえっ!」
蹴られた直後、男は息ができなくなり真っ青になり、「ゼェ、ゼェ」と微かに喉をならしていた。
「「(うわあ!)」」
悪党とはいえ、怪我人を容赦なく蹴り飛ばす少女に心の中で引いた二人だったが、言葉に出すことはなかった。
「ああ、世話をかけてすまない。おかげで助かった。」
少女はそういってリン達の方を向き、大太刀に手をそえ背筋を伸ばして軽く頭を下げた。
「いえ、盗賊なんかは、許せないですから。当然のことをしたまでです。」
リンはさも当たり前のようにそう答える。
「貴女は、強いな。それにそちらの御方もただならぬ気配を纏っておられる。」
少女はリンに向けていた目線をリンの横へ並んだラムルに向ける。その目は何かを言いたげだったが、
「あっ、初対面の方にこのような物言いしてしまって申し訳ない。」
慌てて、謝罪をし、気を取り直して改めて自分の名を名乗った。
「私は、ホノカと申しまして、このコノジョウに住んでいる者です。」
ラムルとリンもそれに答えるように名乗る。
「気にしなくていいよ。わたしはリン。こっちはラムルだよ。」
「ラムルだ。あんたも中々の腕のようだな。遠目に見ただけだがかなり強いな。」
「大したことはない。うちの父に比べればまだまだだ。」
その時、大橋の方から数人の衛士達がやってくるのが見えた。衛士達は武骨な槍を持ち、袴和装に襷を掛けて動きやすくしていた。
「ホノカぁ、大丈夫か?」
衛士の中の一人が近づくとホノカに声をかける。
「ああ、イチロウか。問題はない。ご覧の通りだ。」
ホノカはそういって足元の盗賊に視線を送る。
「あ~、こりゃひでえな。太ももがぱっくり言ってやがる!」
倒れたまま膝を抱えて口をパクパクしている男を見ながらイチロウが呆れた声を出す。
「あ、はははは・・・。」
「こちらの方のお陰で取り逃がすことなく捕まえることができたのだ。後は頼む。」
リンがごまかすように笑い、ホノカがイチロウに簡単に説明する。
「おお、任せておけ。おい、踏ん縛ってしまえ。詰所に連れて行くぞ。着いたら、治療して取り調べだ。洗いざらい全て吐かすぞ!」
イチロウが他の衛士に指示を出すと、衛士たちは手際よく、縄で縛って担架にのせて帰って行く。
イチロウはそれを見送りながら、ラムル達に再度声をかけようとするが・・・
「さて、ホノカとそちらのえっと・・・、」
「ラムル殿とリン殿だ。」
ラムル達の名を知らずに言い淀んでしまい、ホノカが補足する。
「ラムル殿方は後程、事情聴収を行いたいが、よろしいかな?」
「ああ、どうせゴノジョウに向かっている所だ。構わない。」
「いいよ。」
名前を確認したイチロウはラムル達に聞き取りをしたいようで、ラムル達はそれを快諾する。
「では、道案内をかねて私と一緒に行くか?」
「ああ、構わない・・・、というか、むしろ頼む。」
「おねがい、ホノカさん。」
町のことがわからない二人にとってホノカからの申し出は、丁度よりよかったのでお願いしたのであった。
「ホノカ、ラムル殿、リン殿、助かります。では、また後で。」
そういってイチロウは軽く頭を下げると先に行った衛士たちを追いかけて行った。
「さて、我々も行くとするか。」
ホノカがラムル達にそう言い、三人でゴノジョウに向かい始めた。
◇◇◇◇
時は数日前にさかのぼる。
俺とリンは、毒大蛇を退治した後、湖の拠点とその周辺で三日ほど過ごしていた。
その間、どこに行くのかリン、レイク、コーガ、シェンラン、それにAL3-アリスを含めて話し合う。
パルミの森から抜けるには、パルミエルを通って北東の平原にでるか、大河沿いに下り南西の渓谷を通るしかなかった。それ以外は、三千m級の山々が連なる巨大な山脈によって遮られ、とてもではないがそれを超えることは不可能に思えた。
結論から言えば、南西の渓谷ルートで行くこととなった。渓谷の先にはゴノジョウがあり王都や港町への要所となっており、この世界を見て回るにはその方が良いと判断する。
コーガ達もついていきたがったが、渓谷は人が一人通れるほどの道しかなくガタイの大きい魔虎や魔狼では通れないため、又、この森から出るとそれはそれで大沢になっても困るので、俺とリンだけで行くことになった。
そこで一つ問題が発生した。リンは色々と準備をしていたが、森の薬草を精製した大量の回復薬類や自身の着替え、食料、飲料など持ちきれない分量になっていた。俺は、武器庫などの収納があるため手ぶらで問題ないが、リンはそういう訳にはいかなかった。
それを解決したのはシェンランだった。以前俺がもらった偑月刀のあった所に武具と一緒に様々なアイテムも山積みになっていた。その中の一つに収納袋があり、これに収納することにした。これなら嵩張らずに持ち歩くことができた。
「ボス、ついて行くのがダメなら、せめて、渓谷の入口までお供させてください!」
それでも何とか役に立ちたいコーガ達がそう言うので湖から渓谷の入口まで乗せて行ってもらうことにした。
渓谷では時折、鳥型の魔獣が近づいてきたが、光銃で威嚇するとそれ以降は近づいてくることはなかった。
渓谷を抜け周辺を見渡せる高台まで出ると、そこにはパルミの森より遥かに広い見渡す限りの森が広がっていた。そして、その真ん中を横切るように街道が通っているのが見える。
魔獣を警戒してか、街道付近の舗装から外れたところも幅広く木が伐採され見通しが良くなっており、簡単に街道を見つけることができた。
「あれがゴノジョウへ行っているんだな。」
「うん、たぶんそうだと思うよ。」
俺達は街道を目指して再び歩き始める。幸いなことにこの渓谷に街道をつなぐ小道が整備されていた。恐らくこの渓谷に足を踏み入れる者がいるのだろう。
街道に入り、ゴノジョウ方面へとのんびりと歩みを進める俺とリン。街道では時折、商人や冒険者らしき者たちとすれ違う。
やがて、一頭の馬に引かれた馬車が俺達の横を通り抜ける。
「あの馬車、目いっぱい荷物をつんでいるね。」
荷台には幌がかぶっており、外からはわからない。だが、馬の動きと車輪のひく轍から、かなりの量の荷物を積んでいるとリンは思ったのだろう。
俺はそれよりも周りの妙な気配の方が気になっていた。
「俺達に向けてではないが・・・・・・」
「ん? なに?」
「たぶん、いや、なんでもない。」
はっきりと断言できないため、言いかけて否定する。リンが不思議そうに首を傾げ、こちらを見てくるが、余り不確かなことを言わない方がいいだろう。
先程追い抜いて行った馬車が見えなくなった頃、街道に人気が無くなり移動しているのが俺達だけになった。すると微かにだが怒声の様な声が前方から聞こえた。
「何かあったのかな?」
リンにも聞こえたようだ。
「さっきの馬車かもしれん。行ってみよう。」
俺はリンにそういうと二人で駆けだした。
「リン、気をつけろ。何が出てくるかわからないぞ!」
そういって200メートルほど行くと車輪の壊れた馬車を数人の男が漁っていた。
「ラムル、あれ。」
「ああ、怪しいな。賊かもしない。警戒しておけ。」
「うん。」
俺達は小声で打ち合わせるとリンを後ろに庇い、何があっても対応できるように警戒しながらゆっくりと近づいて行った。
「おい、どうしたんだ? なんかトラブルでもあったのか?」
俺が男達に声をかける。男達はこちらを見ると返事をすることなく襲い掛かってきた。
「おいおい、問答無用かよ!!」
俺達は素早く武器を取り構えた。
俺は正面から来た男の剣を躱し、抜刀した偑月刀を切り上げる。偑月刀が男の手首を切り飛ばした。
「ぐわぁ!!」
斬り飛ばされた手首が剣を握ったまま宙に舞う。男は手首から大量の血を噴き出しながらその場で転げまわった。
別の男が、先程の男の陰から現れるが、剣が振り下ろされる前に袈裟懸けに切り捨てる。
もう一人の男は俺をよけてリンの方に向かう。リンが双剣を構え、男の一撃を躱す。
「はあっ!」
相手の懐に入り、二本の双剣を揃えて胸当てを避けるように横薙ぎに振るうと腹を斬り裂く。
「ごぉ!」
二筋の斬り傷から真っ赤な鮮血が迸り、その場に倒れ込む。
「ふう、まったく、いきなり襲い掛かってくるとは、余程、後ろめたいようだな。」
俺は偑月刀を一振りして血糊を飛ばすと鞘に納めた。
「これ、さっきの馬車だよね! ってことは、やっぱりこの人たちは盗賊だよね。」
リンも同じように双剣の血糊を飛ばしてから鞘ね納めながら言った。
「馬車の壊れ具合から、三人ということはないはずだな。」
「まだ、どこかに仲間が隠れているの?」
「どうだろうな。御者をしていたおっさんもいないなあ。・・・逃げたのか・・・、ん・・・。」
俺はそう言いかけた所で、遠くから声がしたような気がしたので耳に手を当てて澄ませてみる。
「どうしたの?」
「誰かが戦っている。あっちか!」
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この後、俺達はゴノジョウの大橋でホノカと出会い、街へ向かうことになる。




