第3話 湖内洞窟
湖に墜落した戦闘人形が、一度水面に顔を出すと、その後、よっくりと沈み始めていた。
「痛たたた、アリス、もう少し、優しく降りれなかったのか?」
俺はコックピットの座席の上で首を押さえながら、アリスに問い掛けた。
『マスター、贅沢は、敵ですよ。』
「それは、違うんじゃないか?」
『違いません。衛星軌道上から落ちて、丸焼けにもならず、地面に激突してぺちゃんこにもならなかったですよ。』
「まあ、それもそうなんだが…」
『そんなことより、この子に無茶させたせいでかなり深刻な事になってます。』
「どの程度なんだ?」
『機体の被害状況です。まず、メインスラスターは、着水前の最大噴射でファンごとシャフトが吹っ飛んで使用不能です。』
『サブスラスターも80%が使用不能です。』
『電気系統も60%が使用不能、このままでは、生命維持に支障が出るのも直の問題でしょう。』
「再び、命の危機か。」
「二つ程、質問だ。」
『はい。』
「一つ目は、浮上が可能かかどうか。二つ目この星の大気組成が、どうなっているかだ。」
『浮上は、不可能です。生きているサブスラスターを使っての微速で移動は可能ですが。メインスラスターを始めほとんどが使えない状態ですし、浮力を確保する手段がありません。』
『大気組成ですが、窒素77%、酸素20%の外、アルゴン、CO2等が含まれます。一応、生存環境は満たしています。』
「わかった、とりあえず。水上に出れば、ハッチを開けられると言うことでいいな。」
『はい、そうです。マスター』
「湖の地形は、把握できているのか?」
『はい、既にソナー測定により、湖の約90%の地形データを作成し終えています。』
『その結果、3時の方向、距離500m付近に空洞らしきものがありますので、そのに避難するのが最善だと思われます。』
「近くの湖岸に移動、上陸するのは?」
『この辺りの現住生物等の状況が不明の今、あまり姿を見せない方が良いかと思います。』
「わかった。その洞窟に行って退避できるか、確認だな。」
『ラジャー。』
戦闘人形の頭頂部の左右にあるライトを点け、ゆっくりと水中で移動を始めた。サブスラスターが頼りなく微弱に噴出し、機体を動かしていた。
やがて、洞窟の入口に辿り着いた。洞窟の入り口は、縦横7m程の大きさで奥に続いていた。
「アリス、行けそうか?」
ライトの灯りだけでは、奥を見通せないのでアリスに聞いてみた。
『大丈夫そうです。ソナーでは深部までは判りませんが、ほぼ、観測できる限り、通過に問題はありません。』
「分かった、行けるところまで行ってみよう。」
機体を伏せる様に傾けると洞窟に侵入し、奥へ進んだ。
上下左右に蛇行する洞窟を100m程ゆっくりと進むと、行き止まりの壁をライトが照らした。
「ここで、行き止まりか?」
『いえ、上方に洞窟が続いています、マスター。』
「ジャンプすれば水面まで届きそうだな。」
戦闘人形のカメラアイが、壁の上を見上げると、それに伴いライトの灯りも水面まで這った。水面までは40mくらいの高さがありそうだった、又、壁はその上まで繋がっていた。
戦闘人形が膝を一度ひざを折り、勢いよく伸ばすと、一気に飛び上がり、スラスターの補助も受けて水面にでた。
水際の取っ掛かりを両手でがっちりとつかみ、機体を安定させた。
「広いな。」
『半径約30mのドーム状の空間が、広がっています。正面には約1500平方mの平地があります。』
『洞窟内部は空気があります。気温15℃、湿度60%、外部より、やや、酸素濃度が高いですが、問題はないです。』
「機体を隠すのに丁度いい場所だな。外に出るぞ。」
そう言いながら、機体をその平地に引き上ると、程よい場所を見つけ、膝をついて降りる体制を整えた。
『後、小動物らしき赤外線反応がありますが、危険はないと思われます。毒や病原菌をもっている可能性もありますので気をつけてください。』
「了解だ!」
『プシュー』と音が鳴り、エアコンプレッサーが解放されると、まず胸部装甲が開き、続けてコックピットハッチも開いた。
ヘルメットを繋いでいるロックを外し、ファスナーを開けてヘルメットを脱ぐとシートの横において、コックピットから出た。
そのまま、胸部装甲の開いた部分に立つと、、と空洞内を見渡たした。壁面一面にヒカリゴケの様なものが、薄っすらと全体を照らし、頭頂部のライトも、戦闘人形の視線方向を照らしていたが、全体を見るには、光量が足らなかった。
「よく見えんな。アリス、全天照明を使えるか?」
『ラジャー、全天照明オープン。』
頭部の小さなハッチが開き、中から電球のついたポールが伸びてきて、照明が灯った。
空洞全体を照らす急激な明るさの変化にトカゲやネズミのような小動物が、慌てて岩陰に隠れた。
「まるで、誂えたような、空洞だな。」
思わず、俺は呟いた。
そう、あまりにも都合がよすぎた。戦闘人形を隠すのには、たしかに丁度と良い地形といい、広さといい、そういう都合のいい時はまず疑えと教官や隊長が常に言っていた。
「だが、今はどうしようもないな。」
疑うことを諦めた。都合がよすぎるのは事実だが、他に選択肢はない。エネルギー切れで原住民や現地生物に機体を蹂躙されたら、帰還もままならなくなる。。
「アリス、サバイバルキットは、無事か?」
『多少、浸水による影響はありますが、大丈夫です。』
「テントを張る場所もあるようだし、今日はここで野営をするか。とは、言っても時間は判らんが。」
『現在、22時25分45秒です。』
「誰が、宇宙時間を聞いたぁ!」
ボケか何か判らんが、アリスの返答に思わずツッコんでいた。
『全世界記録の情報です。現地時刻です。今日は皇暦1546年4月6日です。』
「ボケじゃ、なかったのか…。にしても一体何なんだその全世界記録っていうのは?」
『この世界の記録のようですが、情報が整理されていないので不明な点が多いです。』
『それと、モニターメニューに新しい項目が追加されています。』
「なんだって⁉」
あわてて座席に戻り、タッチモニターを操作した。
そこには、見慣れない項目が並んでいた。
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現状情報
名前 ラムル
年齢 18歳
職業 第三銀河帝国 防衛軍軍人
人形使い
階梯 1
身体状況
体力 10/10
気力 10/10
魔力 10/10
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「これは⁉」
『これは、マスターのステータスです。』
『右側のメニューをタップしてみてください。』
「メニュー? ああ、これか、」
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メニュー
装備
魔法(使用不可)
特殊能力
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並んでいるメニューから[装備]をタップする。
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装備
オリオス電工製 宇宙服
(パイロット仕様)PS320-P2
第三銀河帝国 防衛軍 宇宙部隊
標準パイロットスーツ
スバルメ重工製 コスモパイソンMP387
大気圏内外で使用可能な軍用レーザー拳銃
アタレス重工製 コスモセイバーSC209
大気圏内外で使用可能な伸縮可能な光剣
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[装備]の項目が展開した。
「俺が身に着けている装備か!」
[魔法]はグレーアウトして展開で出来なかったが、
他の[特殊能力]は展開できたのしてみた。
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特殊能力
倉庫 階梯1
流動体以外なら何でも収納する事ができる。
流動体(液体、気体、砂、粉等)でも容器に
入れていれば収納可
生きている生物及び付属物は、収納不可、
時間経過有。
階梯が上がると時間経過は遅くなる。
サイズは80mmから1000mmまで
収納数は50
武器庫 階梯1
銃、砲、刀剣等の武具、ヘルメット、
パイロットスーツ、兜、鎧等の防具、
及びその関連品を収納する、時間経過有。
サイズ指定は特にないが手にもって扱える物、
収納数は10
壊れていても可
格納庫 階梯1
車両(馬車、馬等の生物は不可、戦車、乗用車)、
航空機、宇宙機、船舶等を収納可
サイズは1mから10m、収納数は5
損壊している場合、程度によって、収納不可、
時間経過有
異常状態耐性 階梯1
弱毒、呪術、混乱に一定程度の耐性がある
機神召喚 階梯1
機神召喚(使用不可)
機神を召喚することができる
消費魔力 30 維持するのに毎分 5
部分召喚
腕、脚、頭を個別に召喚できる
腕召喚
脚召喚(使用不可)
頭召喚(使用不可)
消費魔力 各 10 維持するのに毎分 2
武器召喚
機神用の携帯武器を召喚できる。
消費魔力 3+n
維持するのに毎分 1×n
nは、武器のサイズ・エネルギー量に
応じた係数
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「装備は判るが、他はさっぱりだな。」
『そこに表示されていること以外は、私にもわかりません。』
「全世界情報の影響だと思うんだがな。」
『そう、思いますが解析が終了するまでは何とも言えません。』
「解析はそのまま続けてくれ、野営の準備をするから、サバイバルキットを出してくれるか。」
『了解です。』
判らないことをいつまでの考えても仕方がない、出来ることをして、判るようになってから考えるしかない。
俺はそう考えながら、野営の準備を始めた。
湖の中で移動するだけで終わってしまった…(汗!)