第37話 水機神
「きゃぁぁぁぁっ! きぃ、機神召喚・水!」
上空から可愛らしい悲鳴と共に女の子の声が聞こえてきて、俺は思わず空を見上げた。
するとそこに水が集まり、球形状に渦を巻いていた。
◇◇◇◇◇
リンは移送装置で探査機の真下の空中に転送された。
「ひゃあ!」
空中に放り出されたリンは落下し始め、スカートが捲れ上がりかけたので慌てて手で押さえながら落ちていった。
「きゃぁぁぁぁっ!」
(マスター、リン。慌てないでください!)
「そ、そんなこと言ったってぇぇ!!」
『あたしもいるから大丈夫だよ、リン!』
腕輪からレイクの声も聞こえ、リンを励ましていた。
(私をお呼び下さい。すでにその為の言葉は貴女の内にあります!)
「わ、わかったわよ、ウォーテス、レイク!」
リンはウォーテスの言葉に少し切れ気味に返事をすると、胸の前で手を合わせ目を閉じて自分の内にあるその言葉を探した。そして、落下しながらその言葉を叫ぶ。
「ど、機神召喚・水!」
「戦闘服飾装!!」
言葉が終わるとリンの体が淡い光を放ち始め、同時に腕輪からレイクの分身が飛び出してきた。
「いっくよ~!」
レイクの分身がリンの回りを水の尾を引きながら飛び、リンを中心に球形の水の膜を形作っていき、水の膜がリンを包み込んだ。その中でリンの服が光の粒子に分解され、水が体に纏わりつき、シャツ、肩当て、長手袋、フレアスカート、スカート下のパニエ、膝下ブーツが次々と実体化していく。次いで髪の毛が頭の高い位置でツインテールに纏められ、レース付きのリボンが、最後に胸に大きなリボンが実体化した。
全身が水色系で統一され、アクセントに各パーツの縁に淡いピンクのフリル、同じピンクの胸のリボン、そして、その中心にハート形のサファイアブルーの宝玉が輝いていた。
リンの飾装が終わると水の膜が解除され、背後に水が集まり巨大な人型になっていく。その人型は、水の波紋に揺れる装甲を持つ巨人、水の機神ウォーテスだった。
リンはウォーテスを背後に胸で合わせていた手を左右に広げ、体全体で十字の形を作る。水の機神ウォーテスも同じように十字の形になり、リンの後光の様に二重写しとなった。
そして、リンが叫んだ。
「機神装甲装着!」
(ナノマシン、形状変換!)
(モード、アーマード!)
ウォーテスの輪郭が崩れ、ドレスの上から水塊となってリンの体に纏わりつく。水塊はそれぞれの部位で装備に変化していく。
(原子配列変換!)
(装甲基部固定!)
両腕は手甲に、上半身は肩当て、胸当て、背中の装甲に、脚は脛当てに、腰はスカートの広がりに合わせたプレートに、最後は頭の上でティアラとなった。ティアラの中心には胸の宝玉より小さめの同じ色の宝玉が埋まり、全ての装備が銀の縁取りに水の波紋の波紋が揺れていた。
自由落下するリンの体はゆっくりと速度を緩め、やがて、空中に静止した。リンはゆっくりと目を開け、空中に浮かんだまま辺りを見回した。
「ひどい…、遠見で見るより、こんなにひどいなんて。」
毒と腐食により壊滅した森を見て、アリスは思わずつぶやいた。
そんな凄惨な森の真ん中でラムルが重装盾の陰に隠れて腐毒矢を防いでいるのが目に入った。
「ラムル!」
そして、ラムルに向かって飛んでいくと水の防護膜を張った。
「水流防御!」
機神の装甲を纏ったリンがラムルの目の前に降り立ちった。
◇◇◇◇◇
空から現れた少女が、盾を背にした俺の前に立ち、水の防護膜を張った。
大蛇の腐毒矢が防護膜の表面に当たって次々と消えていく。
「誰だお前は?」
俺はその少女に話しかける。どこかで見たような気もするがこんな派手な衣装と装甲を身に着けている少女は知らない。
「私だよ、私、リンだよ!」
『あたしもいるよ』
膨れっ面をして少女はリンと名乗り、リンの腕輪から、レイクが現れ緊張感なく自己主張していた。
「リン…、まさか薬師のリンか? それにお前レイクか」
「そうだよ。」
『はいは~い。』
「リン、なんでそんな恰好をしている?」
「う~ん、なんでって言われても、機神を召喚したらこうなっちゃった。」
「はあ!? おまっ、機神が召喚できたのか、っていうかそれ機神なのか?」
「どうもそうみたい。アリスとレイクに頼んだら、私に水の魔力があるから、機神を召喚できるっていったの。それで…。」
『すごいでしょ~』
「まったく、アリスもレイクも、俺がいない間に何をやっているんだ。」
その時、腐毒矢が防がれた業を煮やした大蛇が咆哮を上げた。
「GYAAAAA!!!」
「そんな事より、今は、ここを浄化するね。」
「リン、何を…。」
「まかせて、レイクもウォーテスもサポートしてくれるから大丈夫だよ。」
「ま、まて…」
俺の言葉をまたずにリンが水の翼を広げて、空に上がった。
「レイク、ウォーテス、お願い。」
『まっかせて!』
『御意!』
『水霊循環機起動!』
背中の左右にある甲虫の外殻の様な部分が立ち上がり、そこに水の小精霊が集まってくる。
『回復薬生成開始!』
『追加効果、解毒および腐食中和!』
『効果範囲最大!』
『回復効果最大!』
『回復薬生成完了!』
『水霊出力最大!』
リンの全身に青い光がオーラとなって光り始めている。
『準備完了!』
『リン、行けるよ~!』
「うん、わかった。」
リンが魔力制御を行い、ウォーテスが回復薬を生成、レイクが魔力タンクとして術が発動される。
「星屑回復大雨!」
空に浮かぶリンの足元に魔法陣が展開され、左右に広げた掌に星形の魔力塊が現れた。星形が弾けて分裂し、新たな星形になって四方に飛び散り、更に飛び散った星形が弾ける。
それを何度も繰り返しながら、どんどん広がっていき、広がった全ての星形から、雨のような回復薬のシャワーが腐毒に侵された森の大地に降り注ぐ。
キラキラと輝く雨に毒霧が浄化されていき、大地の毒も消えていく。
「これは、回復薬の雨か。広域の回復薬散布、これがリンの機神の力か。」
俺の体もその雨を浴び、体の毒素が抜け、脇腹の傷も次第に消えていく。
「おお、傷が治って、活力が戻ってくるぞ。」
シェンランともう1頭の魔狼も傷が癒され、血毒に侵された魔狼も回復し、立ち上がれる程になっていた。
「これは凄いぞ。さっきまでの気怠さが嘘のようだ。」
コーガも又、その回復力に目を見開いていた。
一方、大蛇の方は、毒が浄化されたのを見て忌々し気に吠えた。
「GYAAAAA!!!」
大蛇の傷も治ってきていたが、身に纏っていた毒素が消え、苦しそうにもがいていた。
大蛇はもがきながら、腐毒矢をリンに向かって放ち、いくつもの腐毒矢がリンに迫る。
「水流槍!!」
リンも水の槍を打ち出し、腐毒矢を迎撃していく。
「ラムル、私がひきつけるから、お願い!!」
「わかった!」
俺は、機神の腕の除く全ての物を送還した。宇宙服も重装盾も防御障壁杭も機神の脚さえも送還することで魔力消費を抑えた。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
瞬間的に大蛇との間合いを詰め、リンに気を取られている隙に大蛇へ攻撃を再開した。
渾身の力を込めた機神の拳が、大蛇の頭部に炸裂し、鱗に罅が広がっていく。リンの回復大雨で体で体を強化していた毒素が中和され、鱗の強度がかなり落ち確実に攻撃が通るようになった。
大蛇が地に伏し、腐毒矢も撃つ余裕はなくなったとこで、大蛇との距離を取った。
「武器召喚、光子衝撃砲!!」
2門の光子衝撃砲の砲身が光と共に顕現した。六角柱を二つに裂いたような電磁収束加速器の砲身、本来は機神に接続されるエネルギージェネレータを内蔵した砲台。それが、ラムルの肩の上に浮いていた。
「ジェネレータ始動、出力最大!」
「エネルギーチャージャー始動!」
「光子加速器圧縮率上昇!」
「照準器、展開!」
「電磁レール、フィールド展開!」
「自動追尾装置セットオン!」
「目標、腐毒大蛇!」
「光子圧縮、100%!」
「光子衝撃砲、異常無し!」
「これで止めだ!!」
「発射!!」
砲身の周りにプラズマが纏いつき、光の粒子が、砲口に収束し、その輝きを増していく。限界に達すると轟音を伴い、二つの軌跡を引いて大蛇に向けて放たれた。
放たれた光の条は一直線に大蛇に向かい、着弾すると大蛇が爆炎に包まれ、同時に爆音と衝撃波が、辺り一帯に広がった。
俺は、両足で踏ん張り、機神の両腕を目の前で交差させて衝撃波に耐えていた。
「「「うおっ!!!」」」
シェンラン達とコーガは、地面に伏せて耐えている。
「きゃあ!!」
リンは、水流防御を前面に展開して空中で耐えている。
爆風が収まり、土煙が晴れて行くと大蛇がいた場所は、巨大なクレータになっていて、大蛇も含めてそこにあった全ての物が消滅していた。クレータの中では溶岩状になった土がぶすぶすと煙を上げていた。
あれ~、なぜかリンが機神ウォーテスを纏っている。予定では機神に乗るはずだったのに…。




