第35話 大蛇進化
その戦闘の様子をシェンランは瞬きも出来ずに見ていた。
(なんなのだ、あれは…、儂は夢でも見ているのか?)
1カ月ほど前に突然、魔虎を引き連れて森に現れ、光る武器とゴーレムの腕を操ってシェンラン達と戦い、その後、魔狼達と共に鍛え上げた。ラムルの機神召喚とやらの詳細は分からんが、脚は召喚できなかったはずだ。それにあの攻撃力、あいつを圧倒しているではないか。
シェンランは、目の前で起きた一瞬の出来事に唖然としていた。
だが、大蛇はまだ倒してはいない。地に伏してはいるが、その目はまだ死んでいない。
大蛇の目が赤く光ると全身から毒を含んだ瘴気と共に禍々しい黒い光があふれた。
「GYAAAAA!!!」
先程の咆哮より、怨嗟の念を込めた咆哮があたりに響いた。それと同時に大蛇に変化が現れ始めた。黒い光が激しくなり、傷がふさがり、鱗が盛り上がり、頭には鋭い角が生え、全身に大きな棘が並んで生えてきた。大蛇はより凶悪に変異をしていた。
「なにぃ!! 進化したのか。」
シェンランが驚愕の声をあげた。
「どういうことだ? シェンラン!」
「魔獣は、魔素の濃いところに長いこと居たり、命の危険に会ったり、戦闘を重ねて強くなったりすると、より上位の種族に進化することがまれにある。」
「ちっ! つまり、あいつは、今までより強くなったてことだな!」
「そうだ!」
「くそ、厄介な。」
「GYAAAAA!!!」
大蛇が吠えると空中に紫の球がいくつも浮かび、そこから紫色の棒状の物が俺めがけて飛び出してきた。
「腐毒矢だと!」
シェンランが驚き、俺は左に飛んで腐毒矢を躱す。俺がいた場所は次々と腐毒矢が砂煙をあげて着弾する。腐毒矢の着弾した地面はジュージューと煙をあげながら溶解していた。
「くそ、溶解液を飛ばしてくるのか。厄介極まりないな!」
俺はそう毒づくと、腐毒矢を躱しながら大蛇に近づいた。
「螺旋破壊拳!!!」
大蛇の頭めがけて跳躍し、右拳に展開した局所光壁がドリル状に変形させて拳を打ち込む。
ドリル状の光壁と大蛇の頭が激突し、火花が散るように光の粒子が飛び散った。一瞬、大蛇の頭が揺らぎ、蠅でも振り払うように大きく頭を振り回した。
俺は大蛇の頭の動きに合わせて頭を蹴って飛び下がった。そこへ再度腐毒矢が襲い掛かった。
「くっ、武器召喚! 重装盾!! 半展開!!」
避けきれないと思った俺は重装盾を召喚した。現れた重装盾を地面に固定すると盾面が横と上にスライドして半球状になる。そこへ腐毒矢が殺到し、表面が腐食し始めた。
「対艦砲でも防ぐこの盾を溶かすのか!」
盾面に次々と腐毒矢が着弾する。その度に腐食が進み、端の方から徐々に削られていく。
「くそ、長くはもたないな。」
その時、気絶していたコーガが目を覚ました。大蛇に受けたダメージがまだ抜けきっていないのか、よろけながら四肢で地面に踏ん張っていた。
「あれは、ラムル殿なのか?」
機神の腕で重装盾を支え、機神の脚で大地を踏みしめるラムルの姿が目に入った。
「大した傷ではない。大丈夫だ。まだ戦える。」
コーガはそう呟いて、体内の魔力を循環させ、その活力を復活させた。
「あの大蛇が、変異したのか?」
「気が付いたか、コーガ!」
シェンランから声がかかった。
「シェンラン殿! ご無事でしたか。」
コーガは、その声の方を見ると障壁に守られたシェンラン達の姿を見つけた。
「役に立たず申し訳ない。」
「構わん、それよりラムルを助けねばならん。」
「あれはやはりラムル殿でしたか。それにしても大蛇が変異するとは。」
「変異ではない、進化だ。」
「毒大蛇から魔毒大蛇に進化しおった。やつの血に含まれていた腐毒がより強力になり、元々の毒霧に腐食効果が追加さ、その上に腐毒矢を使いおる。」
「命がけですな。」
シェンランの言葉に事も無げに返すコーガである。
「そうだな。あ奴を殺させるわけにはいかんな。」
2頭は頷き合うと障壁の外にでて、魔力を体に纏い直し、毒霧に対抗する。
「奴の鱗は、前よりも固くなっておる。生半可な攻撃は一切効かんぞ。」
「はい、今更、力を温存しても意味はないでしょうから、最大出力の攻撃で行きます。」
「そうじゃな、どの道、生き残るには奴を倒さねばならんからな。」
シェンランとコーガは意を決すると魔力を凝縮し始めた。
2頭の体が光を纏い、大蛇に向けて疾走を始めた。
「コーガ、儂に合わせろ。狙うのは顎の下じゃ!」
「はっ、任せて下さい。」
シェンランは白くまばゆい光を放ち、コーガは魔力の揺らめきが赤い炎の様になって大蛇に向かう。
「「ぐぉるぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
雄叫びをあげて白と赤の航跡が大蛇の顎に近づいた。シェンランの爪が、白い光を、コーガの爪が赤い焔を纏っていた。
ラムルに執着していた大蛇は、シェンランとコーガが近づいてきたのに直前まで気が付かなかった。雄叫びをあげた2頭が目前に迫り、わずかに首を上げるしか出来なかった。
白い光が顎から僅かにずれて大蛇の喉に吸い込まれた。続けて赤い焔が、同じところを通り過た。
「Gya,GYaaaaaaaaa!!!」
大蛇が仰け反りながら悲鳴のように吠えると、喉元が大きく裂け、大量の血毒が噴き出す。それと同時に腐毒矢の射出が止まった。
シェンラン達が地を滑るように着地する。
俺はその瞬間を見逃さず、盾の陰から飛び出した。
「武器召喚! 光子銃!」
光子銃と召喚し、機神の手がそれをつかみ取る。
「光子銃! モード連射! 出力最大!」
大蛇の喉元めがけて、光子銃を連射する。打ち出された光弾が次々と仰け反った大蛇の顎から喉にかけて命中した。
「なっ!」
その時、大蛇の尻尾が、迫ってきた。
「ごわぁぁぁ!!」
機神の左腕を盾代わりにしてガードし、局所光壁も重ねたが、耐え切れずに飛ばされ、勢いよく地面を転がった。
「GYAAAAA!!!」
大蛇が大量の血を喉から滴らせながら、怨念のこもった眼で俺を睨み付け、再び、無数の紫の球を作り出した。
程なくして、大蛇の出血が止まり、傷口が煙を上げながら再生を始めた。
「!?」
腐毒矢の弾幕がお返しとばかりに降り注ぐ、俺はそのまま転がりながら、何とか弾幕を避けて重装盾の陰に隠れた。
脇腹に痛みを感じ、思わず抑えた。
「くそう、避けきれなかったか。」
手の隙間から、血が滲んでくる。そして、毒霧が破れたスーツの隙間から入り込んで体を蝕み始めた。
「ぐっ、もはやこれまでか。」
シェンランが呟く。シェンラン達にももはや打つ手はなかった。先程の攻撃ですでに魔力が尽きかけていた。普通ならこの程度のことで行動不能にはならないがこの毒霧の中では魔力の消費が激しく、さっきの死力を振り絞っての攻撃が最後であった。
「こんなところで、終わるのか。」
コーガも同様である。あんな大技は何度も使えるものではない。魔力を纏った斬撃を繰り返し、最後に大技まで使ってしまい、身動きも儘ならなかった。
(くそ、どうする。シェンランもコーガも動けなくなっている。機神の召喚も間もなくできなくなる。障壁杭は、一組は返したが、もう一組はそのままだ。これも魔力を消費し続けている。)
その時、上空から声が聞こえた。
「きゃぁぁぁぁっ! どっ、機神召喚・水!」




