第34話 大蛇攻防
俺は湖の拠点にリンを避難させ、アリスとレイクに任せて森の深奥にやってきた。目の前には白い障壁が広がっていた。
アリスの情報では、光学遮蔽障壁のようなものが張られていて内部を観測できていない。浮遊探査機を使って観測をしていたが、赤外線にかすかな反応があるだけだった。
「これが、光学遮蔽障壁か。この世界では『隠蔽結界』とか言ってたか。」
アリスの話だと「結界」にも種類があって防御結界と隠蔽結界があって、防御結界には対魔法用と対物理用が、隠蔽結界には幻影系と目隠し系がある。
前にエレーサさんが地下室に張ってた結界は、透明な対魔対物結界だが、目の前に広がる結界は白く濁った半透明で物理的な遮蔽もできる。目隠し系の結界だ。
俺は、手で結界に触れてみると弾力性があるのか、押したらその場所だけ風船を押えた様に変形した。
「厄介だな、無理に突破しようとしたら、全体が崩壊するかもしれないなあ。」
そう思っていると、アリスから、電脳感応で通話が入った。
『マスター、サポートします。』
「頼む。」
『掌を障壁に当てて下さい』
掌を結界に当てるとアリスの解析・分解が始まった。
『障壁解析実行。
魔力分布解析、完了。
障壁状態解析、完了。
状態、隠蔽、大気遮蔽、物理障壁。
障壁局所分解実行、…。
物理障壁分解完了。
隠蔽維持、大気遮蔽維持。
分解処理完了。
1分後、自動修復設定完了。
これで通過できます。』
「うむ、助かったよ。」
分解が終わると結界が通れる状態になった。さっきまで弾力があった結界をスッと通り抜けられた。
アリスは全世界情報の解析を進めていた。その結果、ある程度の魔法構築理論を習得しこうして実行できるまでになっていた。それは前の世界の霊子理論と似ており、習得にそれほど時間はかからなかったらしい。なお、魔法にしろ霊子しろなぜAIに取り扱えるのかは不明である。
目の前に紫がかった霧が広がり、それを見た瞬間、ステータスメッセージが流れる。
『呼気より毒性検知。
異常状態耐性、自動発動。
異常状態耐性、発動成功。
毒性無効化確認。
呼気より毒性が無くなるまで耐性発動継続。』
「まずいな、空気中に毒が含まれているのか。すこし喉がピリピリするな。」
『毒性無効化、成功、成功、失敗、成功、成功……』
異常状態耐性は必ず異常状態を無効にするわけではない。かなりの高確率で無効にしてくれるが、無効化を失敗することもある。この毒は即死する程ではないが、長時間の活動するには無理がある。なので俺は宇宙服を着用することにした。宇宙服なら毒など関係がない。
「武器召喚、宇宙服! 付属装備、増槽ボンベ!」
俺は宇宙服と増槽用の酸素ボンベを召喚すると、光と共にスーツ、ヘルメット、ボンベが現れ、自動的に体へ装着された。
新鮮な空気が、ヘルメットの吸気部から肺に送られるた。
「ふう、生き返るな。まさか、召喚と同時に装着されるとは思わなかったが、武器召喚は便利だな。さすがに毒を含んだ空気の中での活動はたまらないもんな、これでまともに動けるな。」
そう独りごちると奥へと進み始める。
しばらく進むと遠くの方で何かが戦っているのが見えてきた。
「あれは、蛇か? それにしてもでかいな。」
よく見ると大蛇と魔獣が3頭が戦っていた。遠近感が狂ってしまいそうなほど大蛇が大きかった。それに対する魔獣もかなり大きいはずだが、大蛇と比較すると小さく見えてしまった。
俺はヘルメットの望遠機能を使い観察すると2頭の魔狼と1頭の魔虎が目に入った。
「あれは、魔狼と魔虎、シェンランとコーガ達か?」
1頭の魔狼が、大蛇に噛みつき返り血を浴びて、地面に転がった。それをシェンランらしき魔狼が、引き摺って大蛇の間合いから逃げようとしていた。大蛇の攻撃を逸らすように魔虎が攻撃を仕掛けていた。
「まずいな。」
詳細な状況は判らないが、大蛇の血を受けた魔狼が、倒れたところを見るとあの血に何かあると思われる。いわゆるバッドステータスか。
俺はその場から走り出し、大蛇に近づいて行った。足場が悪く、なかなか速度が上がらない。近づくにつれて森の木々が枯れているのが目に入った。
「何だこれは?」
不自然に気が枯れている。大蛇の周りを見ると木も草もなく土がむき出しになって煙を上げていた。大蛇の口からは紫色の如何にも毒々しい息が漏れていた。
「この瘴気は奴のせいか!」
魔狼のいるところが一瞬光ったかと思うとそこだけ霧が晴れ、航跡をひいて飛び出した。
その直後、大蛇がのけぞり血を吹き出したが、倒れくことなく、魔狼に反撃していた。
それから、魔狼と魔虎が何度か攻撃した後、大蛇が大きく身をくねらせ頭で魔狼を尾で魔虎を弾き飛ばし、毒霧の息を吐いた為、一時、消えていた霧が再び辺りに充満した。
大蛇の表情までわかる距離にまで近づいたが、怒り狂った赤い目の中の細長い瞳孔が魔狼を見据え、こちらにまるで気が付く様子はない。
「機神召喚!! 腕、脚!!!」
俺は機神の腕と脚を召喚した。脚の方は戦闘で使うのは初めてだった。町にいる間、密かに機神召喚・腕を繰り返しレベルと上げていた。ダルマークとの戦闘の後でLv6に達し、頭と脚が召喚が可能になっていた。
俺は機神の足で地面を蹴って大きく跳躍して、空中で回転しながら蹴りを放つ。
「穿孔螺旋蹴!!!!」
大蛇の頭に直撃し、轟音と共にその頭を地面に叩きつけた。
頭の上から飛び降り、魔狼の前に着地した。
「大丈夫か? シェンラン!」
そういって、魔狼シェンランを見るとシェンランは変な顔をしていた。
「誰じゃ、お主は?」
「は!?」
暫し、俺とシェンランは無言で目線を交差させた。
「「…」」
「そのゴーレムのような腕と脚、まさか、ラムルか?」
「あ、ああ。」
「…」
宇宙服なので仕方ないが、フルフェイスのヘルメットの為、顔はほぼ見えない。本来ならヘルメットを取って素顔になるのがいいのだろうが、この濃度の濃い毒霧の中では不可能だった。
シェンランが呆れたような、引いたような、冷めた視線を俺に送ってきた。
(なんだ、その冷たい視線は!? なんか、恥ずかしいぞ!)
「ゴホン、まあ、珍妙ではあるが、その恰好には何も言うまい。だが、さっきの技名は何だ。師としてあれはかなり恥ずかしいぞ。」
「そんなの承知の上だ、だけど、あれが一番破壊力が出るんだよ。」
そんなことを言ってると目の前の大蛇が動き出した。
「無駄話をしている場合じゃないようだな。武器召喚! 防御障壁杭!!」
2組の防御障壁杭が召喚され、1組はシェンランたちを、もう1組はコーガを囲うように地面に打ち付けられた。その防御杭から脚が飛び出し、地面にロックされた。
「対物障壁展開! 空気浄化システム作動!」
障壁杭がスパークすると透明な亀甲模様の障壁が現れ、内部の空気の浄化を始めた。
心なしか倒れた魔狼の息が落ち着いたように見える。
大蛇は大きな口を開けて毒の牙で俺に噛みつこうと襲ってきた。
「くっ!」
俺は機神の左脚を回して大蛇の横っ面に蹴りを入れ、その反動を利用して左に跳躍した。
大したダメージではないが、これで大蛇の注意がこっちに向くだろう。
「さあ、来いよ。お前の相手は俺がしてやる。」
「GYAaaaa!!」
大蛇を大声で挑発するとこちらを睨みつけ、俺を威嚇するように咆哮をあげた。
「局所防御光壁展開!」
機神の脚が地面を蹴り、大蛇の頭に迫った。
大蛇の大きく開いた口が近づいてくるが、それを左に躱し、体をひねって光壁を纏った機神の左フックを打込む。次に光壁を右拳に移しよろけた大蛇の顎の下から、アッパーをうつ。続けて、光壁を右踵に移し、浮き上がった頭の上から右足の踵落しを見舞う。
大蛇は立て続けに繰り出される機神の打撃から逃れようとするが、俺はそれを許さず、次から次へと攻撃を続ける。
「GYA、GA、GA!」
絶え間ない機神の攻撃に大蛇は、反撃する余裕すらなかった。
「GYAAAAA!!!」
(なんなのだ。こいつは、人間のようだが、一発一発が異様に重い。おのれ! おのれぇ!! この俺にこの様な屈辱を与えおって!!!)
そんな言葉か聞こえてきそうに咆哮をあげる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
俺は、渾身の力を込めて機神の脚で回し蹴りを放つと大蛇のこめかみ直撃し、地面に激突した。




