第33話 毒大蛇
「くそう、何たることだ。この儂がこんな奴に…。」
シェンランの目の前には恐ろしいほどの巨体の大蛇が鎌首をもたげ、シェンランたちを見下ろしていた。頭だけでもシェンラン程の大きさがある。体長は有に30mを超えるだろう
「シェンラン殿、ここは私に任せてその方とともにお下がりください。」
コーガが、シェンランと大蛇の間に立ちシェンランにそう言った。シェンランの後ろには、1頭の魔狼が倒れている。
◇◇◇◇
シェンランはコーガと魔狼を1頭引き連れ、森の深奥の調査に来ていた。
深奥に異常に強い邪気を感じ取り、他の魔狼に領域を任せ、コーガたちを引き連れて、ここまで来てみれば、大蛇が毒の瘴気を吐き出し、この辺りを侵食していたのを見つけた。
「シェンラン殿、これは?」
深奥の森の様子を見てコーガがシェンランに問いかけた。
「むう、毒霧か。森が毒に耐え切れずに腐食を始めているのう。」
「シェンラン様、あれを。」
同行の魔狼が腐食した森の向こうに何かを見つけ、シェンランに言うとシェンランはその視線の先を見た。
「毒大蛇か。また、厄介な魔獣が現れたな。」
毒大蛇の吐き出す毒霧が辺りに充満して、そこにあった木々を犯していた。この霧は強毒である。この霧は毒に耐性のある生き物以外は死ぬか、霧から逃げ出すしかない。
大蛇を中心に毒霧の影響で森の木々は枯れ、豊かであった森の植生は見る影もなくなっており、あちらこちらに大型の獣か、魔獣らしき亡骸が転がっていた。
シェンランたちは魔力を纏うことによって毒を吸い込まないようにしていたが、魔力を消費するため、魔力が無くなれば毒を吸い込むでしまうことになる。
「取り敢えず、広域結界を張って毒霧が広がらないようにするぞ。」
シェンランは結界を張るため、一度魔力を収束し一気に拡散させた。
「これ以上、毒霧の濃度が濃くなると奴を排除できない。いくぞ。」
「おう!」「はっ!」
シェンランがそう言って走り出すと、コーガと魔狼がそれに続いた。
シェンランたちは、牙をむき出し、爪に魔力を込めて爪撃を繰り出した。
「「「グルッゥゥゥゥゥーーーー!!」」」
三頭の爪撃が鱗を裂いて大蛇にダメージを与えるが、巨体の為、深い傷を与えることができていない。毒霧の中で魔力を温存しながらの戦いの為、三頭は全力には程遠い攻撃しかできないでいた。
一方、大蛇の方も鬱陶しそうに身をくねらせるが、三頭が入れ代わり立ち代わり、攻撃をすることでシェンランたちを捕らえることができずにいた。
そんな時、同行していた魔狼が、大蛇の背中にとりついた。
「まて、牙は使うな!!!」
魔狼が、ダメージの通らない爪撃に苛立ち、噛みつこうとしていた。それに気が付いたシェンランが止めようとするが、間に合わずに牙を大蛇に穿ち、鱗ごと肉を抉り取った。そこから大量の血がふきだし、魔狼はその返り血を浴びてしまった。
「ぎゃいんんんん!!!」
魔狼は、悲鳴をあげながら、もんどり打って倒れた。
毒大蛇の血には猛毒が含まれた血毒だ。それには麻痺と、腐食の追加効果がある。まだ、若い魔狼はその事を知らなかった。大蛇にそれなりのダメージを与えたが、その代償は大きく戦闘不能に陥ってしまった。
右肩から前脚、腹部かけて血毒を受け、湯気のようなもの立ち上っていた。体毛は溶け落ち皮膚は焼け爛れていた。
「ちぃ、軽率な! コーガたのむぞ。」
「おう!」
シェンランは、コーガに牽制をたのむと、魔狼の血毒のかかってない部分を咥え、急いで大蛇の間合いから退避した。
コーガが大蛇の前で爪を振るっている。
「ガルルルルルッ!!!」
牙をむくコーガ、大蛇がコーガに向けて噛みつこうとするが、コーガはそれを躱し、爪を振るう。しかし、大蛇の攻撃を躱しながらでは、満足なダメージを与えることができない。
「も、申し訳…ありません…、魔力の限界が…近かったため…、焦ってしまいま…した…。」
「もうよい、今は、回復に魔力を回せ。」
シェンランはそういうと大蛇に向けて牙をむいた。
「ぐるぅぅぅ!!! くそう、何たることだ。この儂がこんな奴に…。」
その時、魔虎のコーガがシェンランの前に庇うように立った。
「シェンラン殿、ここは私に任せてその方とともにお下がりください。」
「馬鹿を言うではない。この儂が、大蛇ごときの為に逃げ帰ったなど言えるものか!」
「貴方は、魔狼の長です。ここで死んではなりません。」
「そういうお主は、これから魔虎の長になる者だろうが。」
「まだ、長ではありません。他にもふさわしい者もおります。それにこの瘴気の毒の中では満足に戦えません。いずれ全滅いたします。」
コーガはシェンランを説得して退却させようとするが、シェンランは聞き入れようとはせず、
「魔狼の長たる儂の力を舐めるでないぞ。コーガ!」
そう叫ぶと、シェンランの魔力が一気に膨れ上がって、全身の体毛が逆立ち、黄金のオーラを纏った。
シェンランの周囲の毒霧が広範囲に吹き飛ばされた。そして、そのまま疾駆し、魔力をまとった爪撃を放つ。首元を狙った一撃が大蛇にヒットした。鱗を引き裂き深い傷を与え、血毒が吹出す。
「GYAaaaaa!!!」
それなりのダメージが通っているが、大蛇を倒すには全然足りていなかった。大蛇は咆哮を上げながら、着地寸前のシェンランを狙って地面すれすれに這って襲い掛かる。
「シェンラン殿!!」
それを見たコーガがシェンランを援護すべく爪撃を繰り出した。シェンラン程のダメージは与えられていないが、それでも、鱗を裂いて大蛇の軌道を変えた。
シェンランは大蛇の攻撃をかわし、着地すると再度、爪撃を繰り出すために魔力を高めた。
その瞬間、大蛇は大きく身をくねらせ、シェンランを頭で、コーガを尻尾で薙いだ。
「ぐわぁ!」「がはぁっ!」
二頭は吹き飛ばされ、シェンランは近くの大木に激突し、そのまま大木を粉砕、数本の木を倒潰させて止まった。木々のないところへ飛ばされたコーガは地面を鞠の様に転がった。
シェンランもコーガもこの森では大型の魔獣だったが、大蛇はそれを軽々と吹き飛ばしてしまった。
「おのれぇ!!」
シェンランは力を振り絞り何とか立ち上がったが、コーガは倒れたまま動く様子はなかった。
「SYAaaaa!!!」
大蛇は倒れている魔狼に狙いを替え襲い掛かった。
「させぬわぁーー!!」
大蛇の牙が、魔狼に届く直前にシェンランの爪が大蛇の頬を切り裂き、その勢いで牙が空を切った。シェンランは、勢いのまま大蛇の前に転がった。
大蛇は怒りのままに牙をむき出し、再三、傷をつけたシェンランを睨み付け、口蓋をシェンランに向けた。
さすがのシェンランも魔力が限界に近かった。
「くっ、よもやこれまでか…。」
シェンランがそう思ったとき、どこからともなく技を叫ぶ声が聞こえてきた。
「穿孔螺旋蹴!!!!」
ドッゴーーーーン。
轟音と共に大蛇の頭が地面に打ち付けられていた。そして、シェンランの目の前に珍妙な兜をかぶり、珍妙な身体に張り付いたような服を着た男が、鎧の腕と脚を取って付けたような格好で立っていた。
「大丈夫か? シェンラン!」




