第31話 異変
俺達はパルミの森へ続く、門の所にいた。
「本当に森を抜けていく気ですか、ラムルくん?」
フェイルさんが心配そうに俺に問いかけてくる。
「ええ、」
「君がいるから、心配はないと思うが…」
「大丈夫だよ、お父さん、ラムルがわざわざ、危険を冒すようなことはしないよ。」
「森の奥には、強い魔獣もいるが、ここに来るときに通った道だ。そんなに心配することはない。」
「ラムルさん、リンの事、よろしくお願いしますね。」
「ああ。」
「それじゃ行くね、お父さん、お母さん。」
俺たちは、フェイルさんとエレーサさんに見送られて、パルミエルの町を出て森の中へ入っていった。
しばらくは何事もなく順調に森の中を進んでいった。時折、現れる魔物をリンが倒している。俺はサポートに徹していたが、危なげなく魔物を倒していた。
様子が変わってきたのは、2時間ほど経った頃だった。湖と町の中間よりやや町のに近い位置にいるのだが、今まで見たことのない高等級の魔物が現れ始めた。さすがにリンだけでは厳しくなってきたので俺も倒す方に回っていた。
「変だな!?」
「どうしたの?」
「前と様子が違う。このあたりにこんなに魔物はいなかったぞ!」
「そうなの? たまたま、こっちに流れてきたのかな?」
「それにしては、数が多い。もう少し行くと魔狼の領域だ。あいつらが獲物を取られるような奴を放置しているはずがないんだが…。」
「えっ、魔狼って…!?」
「ああ、魔狼だ。」
「この先にいるの?」
「そうだが。」
「A等級の魔物だよ。大丈夫なの?」
リンが不安そうに俺に問いかけてくるが、俺は、何でもないように普通に返事をした。
「ああ、あいつらは強いが心配することはない。」
「本当だよね? 信じているからね、ラムル。」
俺たちが、森の異変を感じながら、奥へ進んでいる頃、町の冒険者協会でも騒ぎが起こっていた。
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「支部長大変です。」
支部長の執務室に職員の女性が慌てて入ってきた。
「ん、どうした、マリーン。」
「森の浅層にB等級の魔物が多数確認したと、冒険者から報告がありました。」
「なに!」
「その影響だと思われますが、C,D等級の魔物が森から出てきています。現在、森側の外壁の外でD級冒険者を中心に戦っています。」
「今すぐ、冒険者たちに緊急招集をかけろ! A、B、Cすぐに西門に集めろ、D以下は 協会で待機。俺も出る。マリーンは残って必要に応じて物資の運搬の指示を頼む。」
「わかりました。」
マリーンが、執務室を出るとバンバはすぐに装備を着け、数人の部下とともに西門に向かった。
「くそ、どうなってやがる! 弱い魔物とはいえ、なんでこんなに出てくるんだよ!」
西門の外、冒険者がぼやきながら、魔物と戦っていた。
「文句を言ってないで、さっさとやっつけろ!」
「わかっているよ、遣ることはやっているだろうが!」
「今、協会に応援呼んでるから。もう少しこらえろ!」
冒険者達は13人、その前には数十体の魔物たちが入れ代わり立ち代わり攻撃を繰り返し、冒険者達は、それを何とか凌ぎながら戦っていたが、如何せん数が多かった。
彼らはD,C級の冒険者で普段は採取やD等級以下の魔物を倒して報酬を得る者たちであった。これ程の数の魔物と戦うのは初めての者たちばかりでかなり疲弊してきていた。
そんな中、一人の冒険者に角兎の突進をまともに喰らい転倒した。
「ぐわぁ!」
そこへ銀鼠が襲い掛かってきた。
「わぁぁぁぁ!!」
その冒険者が頭を抱え覚悟をしたが、一向に銀鼠に襲われる気配はなかった。彼がゆっくり目を開けると目の前に巨大な戦斧が地面に食い込んで銀鼠を両断していた。
「よく持ちこたえた。待たせたな!」
戦斧を持つ、大男が目の前に立っていた。大男は戦斧を肩に担ぐと
「後は、俺にまかせろ!」
「あなたは、!?」
「なにを勝手な行動をしている、ダルマーク!」
「いいじゃねえか、こいつらを助けるために来たんだろ。」
「まあ、その通りなんだが。」
その冒険者は、大男と話している相手を見た。
「支部長!!」
「交代です。後は私たちが相手をします! 貴方たちは、下がって壁の向こうで怪我人の手当てをしてください! 協会の救護班がいます」
「「「はい!」」」
支部長がそう言うと一緒に来た上級冒険者達が前に出る。それと同時に怪我人のいるパーティの者たちは、怪我人を庇いながら、外壁の中へ入っていったが、一部の者は門の付近まで退避して上級冒険者たちの戦いを見ていた。
集まった上級冒険者は5人、元S級の支部長を入れて6人がここに来ていた。A級ソロのダルマークとA級組の4人が1組だった。A級組は剣士 【A】、盾士【B】、回復魔導士【A】、攻撃魔導士【B】の組合せだ。
ダルマークが戦斧を振るう度に魔物の塊が一掃されていく。A級組の方は、盾士が必要な相手ではないので剣士、盾士、攻撃魔導士がそれぞれ各個に魔物を狩っていく。回復魔導士は、先のD級冒険者たちの回復に回っていた。程なくして魔物の掃討は完了し上級冒険者たちと回復したD級が交代して警戒に当たることになった。
「どう見る、ダルマーク。」
落ち着いたところで支部長が、ダルマークに問いかけた。
「むう、そうだな。森の深層で何かあったな。」
「そうか…、私もそう思う。調査隊が必要になるな…。」
支部長は、今後の対応を考えていた。幹部と上級冒険者たちをあつめて調査隊を編成するための打ち合わせをする必要があった。おそらくだが森の深層で何かの異常が発生し、浅層にB等級の魔物が現れ、それから逃げるようにC等級が森から出てくる。中層の異常も考えられるが、それなら何らかの報告が上がるはずだ。深層もしくはその向こうの山脈で何かが起こっていると考えられる。深層へ向かうにはA級でも厳しい、本来ならS級がほしいところだ。同時に町を守る人員も配置しなくてはならない。今はC、D等級の魔物だけだがB等級が出てくる可能性もある。人員が足らない。王都に応援を呼んで間に合うか?
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「大丈夫でしょうか?」
薬屋の2階の窓から、森の方を見ながら、フェイルがエレーサに問いかけた。
「ラムルさんが一緒ですもの、大丈夫よ。」
「そう信じたいですが…。」
フェイルたちは、ラムル達を見送った後、店に来た冒険者から森の異変を聞いた。 選りに選ってこのタイミングかとフェイルは思っていた。リンとラムルが森へ向かった直後に異変が起こるとは何の因果か。
「ラムルさんは、変な人ですが、信用に値する人だと私は思います。だから、何があっても必ず守ってくれるはずよ。」
「しかし、いくら守る気があっても守り切れるとは限りませんよ。」
「あなた、心配しすぎぎても私たちにはどうすることもできないから、私たちは私たちにしかできないことをしましょう。」
「それはそうだが…。」
フェイルも信じる以外ないことは、わかっていたが、それでも娘に危険が及ぶかもしれないと思うと落ち着くことはできなかった。フェイルはその心配を振り切るように回復薬の調合に戻っていった。




