第30話 薬師誕生
あれから、数日がたった。
体調も完全回復したので、そろそろ、この町を出ようかと考えている。
ここへ来て1ヶ月になるが、色んな事があったな。
そういえば、バシュエルは騎士団に捕縛されたと報告を受けた。俺とダルマークの戦闘の後、現場検証にした騎士団の面々が諸々の不正、違法な人身売買等の証拠が発見したそうだ。
どうやら、今回の事件では俺達は囮に使われたらしい。エレーサさんが攫われたり、蘇生したから良かったもののフェイルさんが殺された事を問い詰めたい気分だ。
騎士団と協会は前々からパシュエルの不正に目を付けていたが、内偵を進めるも有力な証拠が出てこなかった。そんな時、回復薬の件でフェイルさんの勧誘が始まった。、俺とリンが留守の間に、フェイルさんの薬屋に賊が侵入、フェイルさん殺され、エレーサさんが攫われるという事件に発展する。
ダルマークは、元々バシュエルと付き合いがあったらしく、よく、雇われて護衛任務についていたのだ。今回も護衛依頼を受けていたが、同時に協会、騎士団の共同で不正調査の口実を作る依頼も受けていた。
元々、無骨な奴なので器用なことはできないのから、調査そのものに関わる様なことはなく護衛任務の中でチャンスを伺っていた。そんな時に俺達がエレーサさんの救出に行くと協会から連絡を受け、派手に戦闘して調査の口実を作るようにしたらしい。
俺達はそんなことを露知らず、奴との戦闘に入ったわけだ。奴は軽くあしらえると思っていたらしく、適当に攻撃して門や屋敷を軽く破損する程度に納めるつもりだったようだ。
以外に俺が強かったのでどうせ破壊するなら派手でも良いか的に必殺技を発動して門、塀、屋敷、庭を一撃で破壊してしまったのだ。
俺もつられる形で、二人して技の応酬になり、益々、酷いことになったわけだが、俺も奴も人への被害を出すつもりはなかったので。
その後にエレーサさんの「お仕置きタイム」になったのは意外だったが…。
まあ、バシュエルが捕まったことにより、商会は破滅し、別の商会がその隙間を埋めることになった。使用人たちは他の商会に引き取られ、薬師たちは、新たに薬師ギルドを立ち上げることとなり、ギルドマスターにフェイルさんに就任の依頼が来ているようだ。
ああ、それから副支部長も捕まったらしい。なんでもバシュエルと裏で繋がっていて協会から横流しを行っている書類が屋敷から見つかり、協会から騎士団に引き渡されたようだ。
◇◇◇◇◇◇
「ラムル、いる?」
「ああ、いるぞ。」
俺が部屋で出立の準備をしている所へリンがやって来た。
「あのさ、ラムル。私もラムルと一緒に旅に行ってもいいかな?」
「どうした、急に?」
「ラムルがここに来てから、色々あったじゃない。」
「ああ。」
「それで考えたんだ。私も世界が見てみたいって。」
「ん!?」
「お父さんが殺されたときは、パニックになってどうする事も出来なかった。ラムルがいてくれたから、神薬を見つけて、蘇生出来たけど、今でもそれが失敗してかと思うとゾッとするの。
私自身、もっと修行して、多くの人を助けられるようになりたいの。その為に世界を見て回って、薬師の知識や技術だけでなく、色んな経験を通して成長できると思うの。だから、お願い…。」
リンがそう言いかけて、首を振って言い直しながら、頭を下げる。
「うううん、お願いします。私を一緒に連れて行ってください。」
「気持ちは、わかった。だが…、フェイルさんとエレーサさんの了解は取っているのか?」
「そ、それは…」
「取ってないんだな?」
「うっ」
「ならダメだ。 2人が了解していないなら、論外だ。」
「じゃあ、お父さんとお母さんの許可が出たら連れてってくれる?」
「それは最低条件だ。仮に連れて行ったとして、お前は自分で自分の身を守れるのか? 俺が常にお前の側ににいる訳じゃない。お前が危険になった時、助けられるとは限らないぞ。」
「それは判っている。ラムルには迷惑をかけないよ。」
「簡単に言うなよ。俺だっていつ死ぬかわからないぞ。もしそうなったら、お前は一人で旅を続けなきゃならん。それと危険なのは魔物だけじゃないぞ、この町と違うんだ、他所に行けば人間だって信用できない。強盗に詐欺、暴漢、色んな犯罪者が…」
「簡単になんか、考えてないよっ! 色んな危険がある事もわかってる。その上でお願いしているんだよ。もう、これは私の中では決定事項なの! ラムルが連れてってくれないなら、私一人でも旅に出るから!」
ンは必死になって訴えていた。両目に涙を浮かべながら、少しヤケになっていたが、真剣に考えている様だった。
「わかった、わかったよ。だが、フェイルさん、エレーサさんの了解は取れ。これは絶対だ。
「えっ、いいの?」
俺の言葉にリンがキョトンとして聞き返して来た。
「ああ、そこまで覚悟しているなら、俺は止めない。リンが決めた事だ。」
あそこまで言われては拒否できないだろう、全ては自己責任だ。ただ、両親には納得してもらう必要はあるだろうが、それはリン自身でやる必要がある。
◇◇◇◇
「お願い、お父さん! お母さん! ラムルと旅に出させて。」
「ためだ、リン。お前にはまだ早い。ましてや、男との二人旅など許せるわけがない。」
「あなた、リンはもう大人ですよ。修行に出るのに早すぎることはないわ。」
「しかし、エレーサさん。」
「それにラムルさんの事を信用できないですか?」
「ラムルくんを信用するとかしないとかではないです。ラムルくんも男です。間違いを起こさないとは言い切れないでしょう。」
「ラムルは絶対に変なことをしたりしないよ。ここに来てからちょっとしか経っていないけどそれくらいわかるよ。」
「そうですよ、あなた。」
「しかし…。」
リンとフェイルさん、エレーサさんとの話し合いは紛糾した。
エレーサさんは、リンの修行になるからとリンに賛成の立場だったが、フェイルさんは俺との二人旅に難色を示していた。男親の立場からすれば当然のことだ。
「お父さん!!」
「なんだ。」
「どうしても許してくれないの?」
「!?」
「ダメなら、私、この家を出ていく。そして、二度と帰らない。」
「えっ!?」
「リン?」
「リン、な、何を言っている!?」
「あなた、リンの決意は固いわ。もう、無理に止めようとしても駄目よ。」
「…」
「ここは、快く送り出してあげましょうよ。」
「はあ~、わかりましたよ。」
「お父さん!」
「リンには根負けしました。全く、その片意地は誰に似たのやら。」
「父さん!」「あなた!」
「えっ、私ですか?」
「そうですよ。あなたものんびりしているようでこれと決めたら梃子でも動かないじゃないですか。」
「ああ、そうかもしれませんね。」
「…」
「ラムルくん、改めてリンをお願いできるかな?」
「リンとは先ほど話をしました。お二方の了解を取れたら一緒に連れていくと言うことにしてますので、リンをお預かりしていきます。ただ、道中でどんな危険が潜んでいるのか俺にもわかりません。確実な安全を保証することは出来ませんのでそれだけは理解して下さい。」
「私もエレーサさんも元冒険者です。旅の危険は承知してますよ。ラムルくんに命を賭けろとまでは言いませんが、リンを守ってやってください。」
「ええ。」
「よかったわね、リン。」
「うん!」
「それからリンにも言っておきます。」
「うん。」
「旅には危険がつきものです。引き際を見誤ってはいけません。逃げるのは恥ではないのです。時には誰かを犠牲にすることもあるかもしれませんが、それでも生き残ることを最優先に考えなさい。」
「はい。」
「それと薬師見習いはもう卒業です。」
「えっ!?」
「今日からは、薬師を名乗りなさい。」
「でも…」
「偽神薬を使いこなせたのです。あれは上級の薬師にしか扱えません。リンがあれを使えたのなら薬師を名乗るのに十分な実力を持っているということです。」
「でも、あれはお父さんだったから、私は必死で…」
「それで、いいのです。その気持ちが薬師には大事なのです。それを忘れないで下さい。」
「ありがとう、お父さん。」




