第29話 目覚め
俺は薬屋の2階の部屋で目を覚ました。
「ここは!?」
「あっ、ラムルが起きた。よかったぁ~。」
目の前には、心配そうにのぞき込んでいるリンの姿が見えた。
「リンか、心配かけたな。」
「大丈夫、調子はどう?」
「そうだな…。」
俺は、ゆっくり起き上がってからベッドの横に座り、手足や首を動かして体の動きを確認する。手は動く、足も問題ないだろう。頭痛や吐き気もない。
「問題ないようだ。」
「よかったぁ~。いつまでも目を覚まさないから、心配したんだよ。」
「ありがとうな。世話を掛けた。」
「いいえ、どういたしまして。」
「ププッ!」「ウフッ!」
俺が礼を言うとリンは大仰に頭を下げると二人して噴き出した。そして、落ち着くと。
「お母さんがごめんなさい。折角ラムルさんが助け出してくれたのに。」
「特に問題はないので、大丈夫だ。逆にあの場を収めてくれてよかったよ。」
「そう言ってもらえると、助かるけど…、」
「俺もやり過ぎたからな。」
あのダルマークとかいう男、かなり強い。A級と言ってたが、本当はもっと上じゃないのか。前のB級の奴等と比べてもあまりに実力が違い過ぎる。機神の拳をまともに受け鎧が砕けても平気な顔をしているなんて信じられない防御力だ。それにあの重い戦斧で俺の剣速についてきた上、遠距離の斬撃を飛ばせるなんて有り得ないだろう。
「それで、あの後どうなったんだ。」
「うん、お母さんが結界を解くとね。敷地の外にはたくさんの野次馬たちが集まっていて、騎士団や協会の職員がそれを整理していたなぁ。」
「まあ、あれだけ派手にやれば当然か。」
「騎士団はともかく、協会の職員があんなに来ているとは思わなかったけどね。それに、その全員が唖然としていたよ。余りの惨事にびっくりしたみたい。私とお母さん以外はみんな倒れているんだもの、そりゃびっくりするよね~。」
「むう、確かに酷い絵面だ。門は全壊、屋敷は半壊、敷地はボコボコだもんな。」
「そうそう…。本当に酷いありさまだよ。それで、協会の職員と冒険者がそこに倒れている全員を運んで行ったんだけど、ラムルは 家へ連れてきてもらったんだ。」
「そうか、協会には世話を掛けたな。それじゃ、ダルマークもどこかに運ばれたんだな。」
「うん、ダルマークさんは、泊っている宿に運ばれたみたい。」
「まあ、あいつは、頑丈そうだから大丈夫か。」
その時、ドアをノックする音とエレーサさんの声が聞こえた。
「リン、いい、入るわよ。」
「は~い、いいよ。今、ラムルが目を覚ましたところだよ。」
ドアを開けて、エレーサさん、フェイルさんが続けて入ってきた。
「ラムルさん、ごめんね。助けに来てくれて、主人の命まで助けてもらったのに、ついつい、やりすぎちゃって。ごめんなさい。」
エレーサさんが、そう言って頭を下げる。
「ああ、気にしなくても大丈夫ですよ。」
「私からも謝罪させてもらうよ、すまなかった。そして、命を救ってくれてありがとう。」
今度はフェイルさんが、深々と頭を下げる。
「いやぁ、もう、気にしなくていいから、二人とも頭を上げてくださいよ。むしろ、あそこで止めてくれなかったら、被害がもっと増えていたかもしれないですよ。結果オーライです。」
「たぶんそれはないわね!」
「えっ、どうして、お母さん。」
「ダルマークもあれで加減していたから。」
「ん!? そうなのか?」
「屋敷の敷地と門までは、ボロボロだったけど、道は無事だったでしょ。」
「そうだね~、門と塀は壊れて瓦礫は散らばったけど、敷地の地面がボロボロの割に道は何ともなっていなかったよね。」
「そうよ、ダルマークが加減していなければ、道は勿論、近隣にまで被害が及んでいるわ。」
「それだけの破壊力が奴の技にあるわけだな。」
エレーサさんの言葉にそれはそう言った。はっきりと覚えているわけではないが、チラッと見た範囲でも、道路が破壊されていなかった。あれが、奴の全力でないのなら、どれだけの破壊力があるのか、見当もつかない。
「あんたもそうだが、無茶苦茶破壊力があるな。人間業じゃない。」
「ラムルも人のこと言えないと思うよ。」
「そうか。二人に比べると普通だと思うが。」
「私が苦労して張った地下室の結界を破った人が、普通なわけないでしょう。」
「ああ、それ私も思う。あの何とかパンチとか言うのもの凄い力を纏っていたよ。」
「あれは俺の力じゃないぞ。機神の力が強力なだけだ。」
機神の力は俺の自力ではない。シェンランに鍛えられてかなり強くなったと思うが、二人ほどの破壊力を持つ技はもっていない。
「その機神と言うのは、君が召喚したのだろう。召喚したものの力を使いこなしているのなら、それは君自身の力だ。」
フェイルさんが俺の言葉にそう言った。
「そういうものか?」
「そうだね。君もわかっていると思うが、この世では、皆何かの技を持っている。」
「ああ。」
「努力で得た技もあれば、生まれついての技もある。無論、複数の技を持っている者も大勢いる。例えば、私なら調剤と投薬、エレーサさんなら、攻撃魔法と結界魔法だ。リンは投薬だけのはずだが、もしかしたらこの騒ぎで増えているかもしれない。それらはすべて本人の力の一部だ。君の技が召喚なら、それを使って成した何かは君の成果であり、それに対して責任が発生したら、それは君の責任だ。」
「成程、技であれ何で行使には責任があるという事か。」
「そうよ、特に強力な攻撃系の技を持つものは、その責任は大きいわ。一つ間違えると大変なことににあるのよ。私の攻撃魔法もだけどダルマークの技やラムルさんの技…、えっと…、機神召喚だったかしら。それも扱いを間違えると周辺に被害を齎すことになるわ。
ダルマークもそのあたりは判っているから、一般人に被害が出ないように加減していたけど、あのまま戦い続けていたら、どうなっていたことか…。」
「まあ、俺も途中から加減できなくなりそうだったからな。」
「そうね、でも、ダルマークもあれで楽しんでいたみたいね。」
「!?」
「あの子が全力で戦える相手というのは珍しいからね。」
「そうなのか?」
「この町であの子と戦えるのは、支部長くらいじゃないかしら。でも、支部長の方が強いけど。」
「そうか。やはり、支部長は、それだけの実力があるんだな。」
「そうね。」
「むう、ところで、エレーサさん。」
「なにかしら?」
「俺達に雷撃を当てたあの技はなんだ?」
「ああ、雷爆ね。雷衝もそうだけど、あれは、本来は単体用の魔法ね。でもね、私が使うと威力が上がっちゃって範囲攻撃になってしまうの、個別の目標に当てるのも苦手なのよね。そこで先に結界で相手を封じ込めてそこに雷爆を放つの。そうすると雷が拡散せずに結界の中で爆発するという訳よ。」
「結界に封じられたことによって雷のプラズマ状態が増幅されて、破壊力を増加させたのか。そりゃ堪える訳だ。」
「プラズマ?」
「ああ、それは気にしないでくれ。独り言みたいなものだ。にしても、俺はともかく、機神に殴られても平気な顔をしていたダルマークをよく気絶させられたな。」
「まあ、そこはそれ、昔からダルマークはヤンチャしていたから、よく、私に雷を落とされていたのよ(比喩でなく本当の)。」
「そんなに前からの知り合いなのか?」
「昔の事よ。」
それからしばらく雑談をした後、夕食を食べてその日の一日を終えた。




