第27話 脱出
「何事だ、騒がしい。」
侍従長が眠った後、階上から声がかかった。何とも言えぬ、粘りつくような嫌な声だった。そいつは、成金趣味を地で行くような派出て趣味の悪い上着にアクセサリーをジャラジャラと着けていた。
「あんたが、バシュエルか? 悪いがエレーサさんを返してもらうぞ。」
「貴様は誰だ、何を言っている。セイルはどこだ。護衛ども何をしている。その者ども捕えんかぁ!」
バシュエルは叫ぶが、誰も動こうとはしない。それはそうだろう、さっきの戦いを見た後では誰もが敵うはずがないと思っている。
俺は、階段の上に飛び上がるとバシュエルを蹴り倒す。床に倒れ伏したバシュエルの目には怯えが浮かんでいた。
「わ、わ、儂をどうするつもりじゃ!」
「どうもしないぞ。」
そういって偑月刀を奴の顔をかすめるように床に突き立てた。
「ひいぃ、!」
バシュエルの頬に一筋の傷がつき、僅かに血が流れた。
「俺達の邪魔をしなければ、何もしないぞ。邪魔をすれば…、判っているな!」
床に刺した偑月刀を僅かに頬に近づける。
「わっ、わっ、わかった。わかったから、その剣をよけてくれ。」
冷や汗を流しながら、頷こうとするが、刀が頬に触れ、なんとかそれだけを絞りだした。
「何が分かったって?」
「お前の邪魔はしない。邪魔しないから。」
「よし、確かだな。」
「ああ、本当だ。」
俺は偑月刀を床から抜くと素早く階段を飛び降りた。
「行くぞ、リン。」
「はい!」
俺とリンは走り出し、地下へと向かった。通路は空間ソナーで把握しているので道順に迷うことはなかった。
「ここだな。」
地下通路を進んでいくと幾つもの木の扉があり、その一つの前で立ち止まった。途中、見張りの男がいたが、苦も無く無力化して、ここへ辿り着いた。
見張りの男から奪った鍵を使って扉を開ける。一応、用心しながら部屋の中をのぞくが、何もしかけられてはいなかった。
部屋の中にはベッドと机が一つずつ置かれている。ベッドの上にはエレーサさんが横たわっており、手と足に枷を取り付けられている。
「お母さん!」
リンが俺の横を抜けてエレーサさんの横へ駆け寄ってエレーサさんに呼びかける。
「んっ、んん…。」
エレーサんは目が覚めたようだ。ゆっくりと目を開ける。見たところ異常はないようだが…。
「お母さん、大丈夫!?」
「ああっ、リン、ここは…?」
「気が付いた。よかった!」
「無事で何よりだ。枷を外そう。」
「ラムルさん、世話を掛けたわね。」
「別にいい、気にするな。」
俺は、武器庫から光剣を取り出し、最少出力で光の刃を出す。皮膚に触れないように気を付けながら、鍵のある部分を焼き切った。
「これで動けるか?」
「ええ、大丈夫だと思うわ。」
「それで、なんであんたほどの実力者が攫われているんだ?」
「ん~ん、それが、よくわからないんだよね~。急に魔力が収束しなくなって、雷撃も打てなくなったのよ。」
「魔力が収束しない?」
「ええ、あれは、多分魔道具の効果だと思うのだけど…、現物を確認できていないのよね。」
「要は、そんな魔道具があるんだな。」
「たぶんだけどね、さすがに魔法が使えないと、多人数を相手に直接戦闘はできないからね。でね、そのまま、気絶させられたみたい。」
「お母さんも魔法が使えないときついよね。」
「そういうこと。面目ないです。」
エレーサさんはそう言って項垂れた。
「また、帰ってから詳しい話は聞くとして、そろそろ、帰るとしますか。」
そう言いながら、エレーサんが立ち上がろうとするが、ふらついて転倒しそうになる。俺は慌てて手を伸ばして体を支える。
「まだ、感覚が戻らない様だな。」
「度々、ごめんなさいね。」
「いや、いい。リン、エレーサさんを頼む。」
「うん、お母さん、私の肩につかまって。」
俺を先頭に、リンとリンに支えられたエレーサさんは、部屋と出て階段を上がっていき、入口ホールへ出た。ホールにはバシュエルもセイルもすでにいなかったが、外を見ると、何人かの護衛が俺達を待ち構えていた。俺達は構わず、外に出て門へ向かおうとしていた。
「よお、結構好き勝手してくれている様だな。」
2mを越える大男が俺達の顔を見るなり、声を駆けてきた。上半身に板鎧を着け、背中には巨大な戦斧を背負っていた。
「好き勝手しているのはそっちだろう。」
「かかかかかっ、まあそうかもしんないな。」
「久しぶりね、ダルマーク。」
「おっ、炎獄の姉さんかぁ。久しぶりだな、かれこれ…、」
「ダ・ル・マ・ー・ク!! それ以上言うと…。」
「!?」
ダルマークと呼ばれた男が何か言おうとして、エレーサさんに止められ引き攣った顔をしていた。
「ごほん、さて、そっちの兄さん。」
「俺の事か?」
「ああ、一つ手合わせしてくれねえか?」
「断る選択肢は?」
「ねえな。悪いが、バシュエルの会長にはちょいと世話になっててな。兄さんらをこのまま帰すわけにはいかねえんだ。」
「ダルマーク、あんた、バシュエルの子飼いになったの。Aクラスの冒険者の肩書が泣くわよ。」
エレーサんが男に問いかけるが…、
「別に会長の手先になったわけでもないが、その兄さんがかなり強いと聞いてな。一度手合わせしてほしいと思ってたら、都合よくここに現れたからな。」
(ラムル、あの人、かなり強いよ。もしかしたら、この町で一番強いかもしれない。)
(確かに強いな。たが、俺達を妨害したいというよりは、単に俺と戦いがっている様だな。)
エレーサさんと男が話している横で俺とリンは小声で話をしていた。
「まったく、あなたは相変わらずですね。でも、相手は選んだ方がいいと思うわ。」
「選んだ結果が、兄さんなんだがな。」
「いいだろう。相手をしてやろう。ここでやるのか?」
「ここなら、広さもあるし、存分に力を出せるぞ。」
男がそう言いながら、背中から戦斧を取り外して構えた。
「やむを得んな。」
俺も剣を構えた。
「じゃあ、改めて、俺の名はダルマークだ。冒険者をやっている。宜しく頼む。」
「俺はラムルだ。ただの旅人だ」
それと同時に男が、戦斧を振るう。
「おりゃあ!!」
掛け声と共に戦斧から衝撃波が放たれ、地面を抉りながら迫ってきた。俺とリン、エレーサさんの3人は、難なく躱す。射線上の近くにいた何人かが余波で吹き飛ばされ、屋敷の入り口が轟音を上げて崩壊していた。
「相変わらず、馬鹿げた破壊力ね。無闇矢鱈と壊したら駄目でしょう。」
「姉さんの魔法ほどの破壊力はないぜ。」
「わたしは、所かまわず魔法を使わないわよ!」
「俺もそうだぜ。町の中でこんなの使ったら、支部長から大目玉だ。」
そういいながら、ダルマークの巨体が迫りくる。普通の者ならそれだけでビビってしましそうなくらい、ものすごい迫力だ。
(疾い!)
「ガキッーン!!」
刀と斧がぶつかり、金属音が鳴り響いた。
「ほう、これを平気で受けるか、嬉しいね。」
「ちょっと、ビビったぞ。」
「うそつけ!」
そんな本気とも冗談ともつかない会話をしながら、二人してニヤリと口角を上げた。
「「うおぉぉぉ!!!!」」
偑月刀と戦斧が裂帛の気合と共に何度も何度もぶつかり合い、その度に衝撃波の余波が周り地面を削り、それに巻き込まれた冒険者たちが飛ばされていく。
(まったく、なんて疾さと馬鹿力だよ。撃ち合うたびに手がしびれてくるぞ。油断したら、やられるな。)
そして、数分後、二人同時にバックステップで距離をとった。
「ははははっ!! 噂に違わぬ強さだな。重い俺の戦斧の連撃を受けて立っていられる奴は初めて見たぞ。」
「偑月刀じゃなきゃ、剣が折れていただろうな。折角、手入れしてもらったのに台無しじゃないか。」




