第25話 蘇生
私達は、お父さんの部屋まで戻ってきた。
ベッドの上にお父さんが寝ていが、血を失ったせいで顔色は青白くなっていた。
私は、神薬を胸に抱え、その横に立ち、目を瞑っていた。
(お父さん、絶対助けるからね。もう少しの辛抱だよ。お父さんの作ってあった神薬を使いこなして見せるから待っててね。)
ゆっくりと目を開けると、様子を見ていたラムルが声をかけてきた。
「リン、落ち着いて、確実に神薬を扱うんだ。時間はかかってもいいから丁寧にな。」
「うん、ありがとう、ラムル。」
「礼は、全てが終わってからでいい。神薬に集中だ。」
「うん。」
私は、新薬の入った小瓶の蓋を開けると、ゆっくりと掲げ精神と魔力と集中した。
小瓶から神薬の液体が出て、それと同時に神気が溢れてくる。
「すごい神気! でもこれは…、」
神気を拡散させない様に魔力で包み込み、お父さんの体に液体を纏わりつかせる。
なんとなくだけど、どうすればいいのか神薬から伝わってきて、その通りにすれば必ず助かる。そう思えた。
神薬を拡散させ霧状にすると光があふれる。それを隈なく全身に広げながら、広がりすぎないよう注意する。
霧状の神薬が、お父さんの体に吸い込まれ、今度は、お父さんの体が神気を発しながら光っている。やがて、光が収まるとさっきまで青白かったお父さんの顔に赤みが差してきた。
「成功したのかな…?」
全身にあった傷もきれいに治っており、背中の傷も治っているように見える。お父さんの横に膝をつき、恐々と心臓のあたりに耳を付ける。
ドクン、ドクン。
心臓の鼓動の音がしっかりと聞こえている。一瞬、自分の心臓かと思ったが、胸が上下し呼吸もしていた。
「ラムル…。」
ラムルが私の横で腕の脈を計っている。私と目があると深く頷いた。
「やったな、リン。」
私は思わず涙がこぼれ、ラムルの胸に飛びついた。
「成功したよ! ラムル! お父さんが、お父さんか生き返ったよ。」
そう言いながら、ラムルの胸にしがみつく。ラムルは優しく頭をなでてくれた。
「大したもんだ。いくら神薬があったとはいえ、一度は死んだ人間を蘇らせるんだからな。」
「うん、ラムルのおかげだよ。ラムルが手伝ってくれたから、成功させることが出来たんだよ。」
「それにしても、すごい効果だな。全身の傷がすべて綺麗に治っている。あれ程深い背中の傷も跡が全く残っていないなんて。」
「うん、これが、神薬の効果なんだね。」
「そうだな。それに血色が良くなったってことは、体内の血も再生したという事かな。」
「ん、血が再生?」
「ああ、回復魔法や回復薬では、血は再生しないらいしい。」
「あっ、そうか。普通の回復手段だと傷が治っても、体の中の血まで戻せないんだった。だから、ある程度までなら回復させることが可能だけど、血を大量に失ったら表面の傷を治しても、血が足らなくて回復できないって、お父さんが言っていた。」
「その通りだな。」
◇◇◇◇
フェイルさんは無事蘇生した。もう少し様子を見る必要があるだろうが、取り敢えずは一安心だ。
「さて、こっちはもう良いな、リン。」
「ん!?」
「今度は、エレーサさんだ。お前はここに残って親父さんに付いていてやれ。俺は救出に行ってくる。」
「え!?」
フェイルさんに誰かが付いていた方がいいが、それは、リンの一択しかない。俺が救出に向かい、リンがここでフェイルさんを見る。
「私も行くよ!」
「親父さんはどうする?」
「お父さんはもう大丈夫だよ。神薬がちゃんと効いて、今は寝ているだけだから、ここにいてもどうしようもないよ。」
「何もすることがなくても、起きた時にお前がいた方がいい。」
「そうかもしれない。何もないならそうするけど、お母さんがいないときっとお父さんは、お母さんを助けに行こうとするに決まっている。それまでに助けて戻ってこないといけないから。」
「はあ、わかったよ…。用意が出来たらすぐに出るぞ。下で待っているからな。」
「うん。」
俺は1階へ移動しながら、アリスを呼んだ。
(アリス。)
(はい、マスター。)
(アリス、エレーサさんが連れられた場所は判るか?)
(はい、地図を転送します。この点より半径200m以内です。申し訳ないですが、センサーの感度が下がっているため、これ以上絞り込むのは難しいです。)
(わかった、十分だ、助かる。)
俺は地図を見てみる。どうやら、バシュエルの商会に攫われたようだ。
(まったく、白昼堂々とよくやってくれる。まあ、そんな人さらいなんぞに手加減は無用か。)
だが、疑問が残る。状況からみて無抵抗で連れ去られたわけではないだろうが、引退したとはいえ、一線で活躍した冒険者だ。そんなに簡単につかまるものなのか?
(どう思う、アリス。)
(エレーサさんは、魔導士であり、直接戦闘は苦手だと思われます。ましてや、彼女が自宅の中で攻撃魔法を放てば、どのような惨状になるにか考えるまでもありません。)
(無抵抗ではないが、まともな攻撃手段がなかったという事か。)
(はい、ただ、彼女の魔法を無力化する様な手段を用いられた可能性があります。)
(有り得るな。あれ程の結界を張ったり、殲滅級の魔法を操れる力を持っているんだ。まともにやりあえば、どんな相手でもただでは済まないだろうな。)
(そうですね。それを前提に救出行動する必要があります。)
アリスがそう言ったとき、2階からリンが下りてきた。
「もういいのか?」
「うん、大丈夫。お父さんは、もうしばらく目が覚めないと思うよ。」
「本当にいいんだな。」
「うん。ラムルに任せっぱなしするわけにはいかないし、私も行くよ。」
「もしかしたら、この町に住めなくなるかもしれないし、大人しく返してくれるとは思えないから向こうで戦闘になる筈だ。」
「ここに居られなくなったら、ラムルと一緒に旅に出るよ。」
「俺とか?」
「うん、どうせラムルも町を出るつもりでしょ。」
「ああ、すぐじゃないが、この件が落ち着いたら、他の町に行くつもりだ。」
「私もついて行きたいな。実を言うのね。旅をして世界を見て回りたいんだよ。この町にいても薬師の勉強はできるけど、いろんな所でいっぱい経験を積んでお父さんに負けないくらいの薬師になりたいんだよ。」
「若いうちに色んな事を経験するのは、良い事だと思うぞ。」
「あー、なんかオヤジ臭いことを言っている。」
「うるさい。そんなことより…」
俺は、リンの言葉を遮ると真剣に話始めた。
「言っておきたいことがある。」
「何?」
「まず、あの腕だが。」
「あ~、あれなに? スキルって言ってたけどあんなスキル聞いたことないよ。」
「ん、あれは戦闘人形と言う本体が別の所にあって、それを召喚するスキルだ。なぜそんな事が出来るのか俺には判らない。とにかくそういう事が出来るという事だ。」
「後、アリスについてだが…」
「あ~、架空友人だね。わかってるよ。」
「違う! 人をオタクのボッチみたいに言うな。」
「ごめん、ごめん。」
「アリスはその戦闘人形の人工知能(AI)だ。」
「じんこうちのう?」
「人によって作られた、考える機械だ。」
「全然、わからないよ。」
「まあ、そんなもんだと思っておけ。それで、そのアリスは俺の相棒なんだが、遠隔で会話ができるんだ。」
「へえ~、」
「それから、俺の機神の操作補助をしたり、集めた情報を俺に連絡してくれるんだ。」
「なんか、よくわからないや。」
「まあ、そう言うのがあるって言うのだけ、覚えておいてくれ。」
「うん。」
「じゃあ、行くか!」
「はい!」
俺は、武器庫から偑月刀を取り出して腰に佩びると外へ歩き出し、リンがその後に続いた。




