第24話 神薬
(バリア展開終了。動力パワー、耐久限界まで上昇。行けます!)
「よーし!!」
俺が構えをとると体が浮き上がり、浮遊感に包まれる。しかし、不安定さはまったくなく、安心して拳を振り上げる事が出来た。
ゆっくりと右腕を振り上げ、握る拳に力を籠める。連動して機神の右腕も振り上げ、拳を握った。そして、手首が回り、始めそれに伴って局所防御光壁も一緒に回り、回転が次第に早くなっていく。
「局所防護壁! 螺旋モード!!」
光壁が延び、さらに鋭さを増し、ドリル状に変形した。
「よし、いくぞ!!」
俺は階段を塞ぐ結界めがけて、拳を勢いよく振り下ろす。
「機神! 螺旋破壊拳!!!!」
結界と光壁が激突し、火花のように光の粒子が散っている。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
結界に波紋が広がり、境界面が不安手になってきているが、破壊するところまでは行ってない
「くそうっ! ダメか…、ならこれでどうだ。」
右拳を抑えつけた状態のまま、左腕の振り上げた。
「アリス!」
(ラジャー、ピンポイントバリアシステム、左拳に2重展開、円錐形状、動力リミッター解除。)
俺はそれを聞くと、左腕も振り下ろす。
「二重螺旋破壊拳!!!!」
左拳の螺旋状の光壁が、結界にぶつかり、右拳と同じように光の粒子を散らす。
二つの螺旋状光壁が僅かに結界を軋ませる。波紋の間隔は狭くなり透明度が次第に落ちていく。
「これで、駄目押しだ! バーニア、フルブースト!!!!」
両腕の肘付近の突起が開き、轟音を響かせながら、炎を噴き出す。炎の燃焼爆発が、強大な推力となって光壁を押し込んでいく。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
数瞬、螺旋光壁と結界が拮抗した後、ガラスが砕けたように粉々に砕け、光の粒子となって完全に結界が消えた。。
「おっと、危ない。」
俺は、危うくバランスを崩し、階段を転げ落ちるところだったが、なんとか踏みとどまる事が出来た。そして、結界のあった場所を越えて階段に足を踏み出していた。
「ふう、なんとかなったな。」
(目標達成。ピンポイントバリア、展開解除。リミッター再設定。)
アリスがそう言うと光壁が消え、機神の腕も消えていった。
「……、」
リンが唖然としたまま、固まっていた。
「どうした!?、リン?」
「えっ、あぅ、あっ、う、うん。」
ラムルが声をかけるとリンはハッとしてよくわからない返事をする。
「なんか、ぼーっとしていたようだが…。」
「うん、なんかビックリしちゃった。なに、あの鎧の腕みたいなの?」
「ああ、あれな。あれが俺の力だ。技能って言うのかな。」
「技能って…、あれがラムルの技能だとして、なんでお母さんの結界を破れるの?」
「ん!?」
「対物理、対魔法の最強結界よ!」
「そんなの簡単だ。どんなに頑丈なものでも、それ自体に必ず耐久度って言うのがある。それを越える力を与えてやれば必ず壊せる。問題は、それだけの力が与えられるかどうだ。」
「それよ、それ、英雄クラスでも、あの結界は破れないと思うよ。」
「そうだろうな。さっきのは俺の全力だ。今日はもう同じことはできない。」
「もういいよ。ラムルはそう言うもんだと思っておく。」
「むう、そうしておいてくれ。それより、行くぞ。」
リンは取り敢えず、俺の詮索はやめたらしい。俺達は、地下へつながる階段を降りることにした。
階段を一番下まで降りると正面に古ぼけた扉が通路をふさいでいた。
「ここなんだよな?」
「だぶんそうだよ。ここしか入口らしきものはないものね。」
「まあ、開けてみるか…。」
俺はリンを後ろに下がらせ、用心しながらゆっくりと扉を開くと、かび臭い空気が入口から滲みだしてきた。部屋の中には、一見してこれというようなものはない。真ん中に小さなテーブルと壁いっぱいの本棚に本が詰め込まれており、色々なガラスの容器がその棚の一部に置いてあった。テーブルには、木箱が一つと何やら書いてある紙が数枚置いてある。
「何もなさそうだね?」
「そうだな、だが、強力な結界を張ってあるくらいだ。絶対に何かある。」
「うん、そう思うよ。」
リンがそう言いながら、本棚、壁、床を調べている。俺はテーブルの上に置いてある紙を手に取ってみるが、何を書いてあるのかわからない。いや、文字は読めるが、内容がわからないというべきか。
「なんかを作るための数式なのか?」
紙に書かれている数式らしきものを見ながら俺はつぶやいた。
「ねえ、ラムル。その箱って怪しくない?」
リンがテーブルの上の箱を指さしながらそう言った。
「ん~ん、怪しいというか…、あからさまと言うか…」
と俺が言うと同時に、リンが箱を開けた。
「おっ、おい、ちょっと待て!」
慌てて俺はリンを止めようとしたが、その前に開けてしまった。
「まったく、これが罠だったらどうするつもりだ。」
「でも、大丈夫だったよ。」
本当に心臓に悪い、何もなかったからよかったがな。
「これ何かな?」
リンが箱の中に小瓶と手紙らしき折りたたまれた紙が入っていた。俺はそれに目を通すとリンに手渡した。
「リン、読んでみろ。」
「うん、」
リンがそう言うと手紙を読み始めた。
<今この手紙を読んでいるのは、誰なのだろうか。
私は、薬師フェイルだ。ここに君がいるという事は結界を解除することが出来たのだろう。
あの結界は薬師が特定の回復薬を使用して一定の効果を上げる事で解除するように設定している為、それ以外の方法では開けることはできない。
たとえ、結界解除の魔法であっても解除できない様になっている。>
「えっ!」
リンが慌てて俺の顔を見る。俺は、目をそらして天井を見合上げる。
「想定外って、やつだね。」
<まあ、それはいい。
もしこれを呼んでいるのがリンなら、私は嬉しく思う。
それで、本題だが、この箱の中には、神薬の未完成品が入っている。
本来、薬というのは誰が使っても同じ効能が現れねばならない。
薬師がそれを使ったときにはその効能が上昇することはあるが、それでもその薬に求められる最低限の効能は保証されねばならない。
しかし、この神薬にはそれがない、薬師以外が使ってもその本来の効果が現れる事はない。
だが、真の薬師がこの神薬を使えば、絶大なる効果を及ぼすだろう。薬師に強い思いと確かな技術があればあ、らゆる傷、病気、四肢の欠損でさえも癒すことができる。又、時間制限はあるが、一度死んだ者をよみがえらせることも可能である。
もし、君が薬師ならこれを完成させてほしい。
材料がもうないのでその在処と製法をここに記すが、これが正解とは限らない。
君が神薬を完成させることを願う。>
「お父さんの未完成の『神薬』なんだ。」
「未完成だが、これでフェイルさんを蘇生させる手段が出来た。」
「そうなんだけど…、さすがにこれは自信がないよ。」
神薬はある。薬師もここにいる。だが、リンはまだ薬師見習だ。
リンは神薬を使いこなせるのだろうか?
「リン、神薬を使え。」
「え、でも…」
「でもじゃない。リン以外に今それを使える人間はいない。」
「そうだけど…、もし失敗したら。」
「不安なのはわかる。だが、今、リンがそれを使わなかったら後悔するぞ。」
「うん。」
「この町で他にその神薬を使えそうな薬師がいるのか?」
「たぶん、いないと思う。王都ならわからないけど。」
「王都に助けを求める時間はない。その手紙には『強い思い』と書いていた。『思い』ならリンは誰よりもあるはずだ。違うか?」
「それはそうなんだけど…。」
「リンの親父さんへの思いの全てをその神薬にすべて込めろ。失敗など考えるな。今は自分がやれることをやれ。」
「ラムル…。」
「親父さんを助けられるのはリンだけだ。」
「うん、自信はないけどやるだけやってみる。」
「よし、それでこそリンだ。親父さんを蘇生したら、エレーサさんを助けに行くぞ。」
「うん。」




