第23話 地下階段
「どうした、アリス!」
アラートとともにアリスから、緊急連絡が入った。
(薬屋に配置したセンサーの反応からの分析ですが、賊らきし者が3名侵入し、店主に傷を負わせているようです。)
「音声は拾えるか?」
(駄目です。センサーから離れた位置にいるようで音声は確認できません。)
「わかった、すぐに戻るようにする。引き続き監視を頼む。」
(ラジャー)
「どうしたの、急に一人で喋って?」
リンにはアリスの声は聞こえないので、突然一人で話始めたように聞こえて不安だったのだろうが、少し痛い人を見るような眼をしていた。
「薬屋で何者かが、襲ってきたらしい。すぐに戻るぞ!」
「えっ!? どうしてわかったの?」
「詳しい話しは後だ。」
俺はリンを横に抱き上げる、所謂お姫様抱っこというやつだ。
「えっ、ちょ、ちょっと、ラムル!」
リンは顔を赤らめ、慌てている。
「時間がない、リンが走るよりこの方が速い!」
そう言って、俺は走り出す。リンは振り落とされない様に必死にしがみついてきた。二つの柔らかい物が、俺の胸に当たっているが、気にしている間はない。
「きゃあぁぁぁ、」
俺は全速力で森の中を駆け抜けた。出来るだけ冒険者たちに近付かない様に走ったが、町の門に近付くにつれて人が増え、その間を通り抜けることになる。驚いている者たちもいたが、気にしている暇はない。
「ラムル、このまま街に入るつもりなの?」
「ああ、急いだほうがいいだろう。」
「う、うん…、でも、恥ずかしいから、門からは自分で走るよ。」
「そうか、わかった。」
門に近づくとリンを降ろした。門の前には、何人かが列を作っていたが、それを無視して脇をリンと走った。
「おい、ちょっとまて!」
「急ぎだ、通るぞ。」
衛兵が止めようとするが、支部長からもらった金カードを見せた。
「金カード!! はっ、失礼しました。」
衛兵が返事をするより早く2人で門を抜け、薬屋へ向かった。
薬屋に着くとすぐさま中に入るが、人の気配がない。中はかなり荒らされていて、棚の瓶は多くが床に落ち、割れて散らばっていた。
「フェイルさん! エレーサさん!」
返事がない。
「アリス、2人はどこだ。」
(フェイルさんは、1階の1番奥の部屋に倒れているようです。エレーサさんは、連れ去られたました。マーカーを打ち込んでますが、不安定になっており、現在位置を解析中です。)
「わかった。場所が分かれば教えてくれ。」
「ハア、ハア、お父さん! お母さん!」
リンが息を切らせながら、入ってくるなり両親を呼ぶが、返事はない。
「リン、奥の部屋だ!」
2人で奥の部屋に入っていく。そこも散らかっていて、戦った形跡があり、フェイルさんがうつ伏せに倒れていた。背中には斬撃を受けた大きな傷が見えていた。
「お父さんっ!!」
リンが俺を押しのけ、フェイルさんに近寄り、フェイルさんの横に膝をついて何度も呼びかけた。
「お父さん、お父さん!!」
俺はリンの反対側に屈んで脈をとってみる。
「脈がない。」
斬撃を受けて大量の血を失ったか事による失血死だ。
「くそっ!」
「お父さん! お父さん! 目を開けてよ! 嫌だよ! 目をあけてよっ…」
リンは蹲ってフェイルさんに被さり、涙を流しながら必死になって呼びかける。
「わぁぁぁぁぁんんんんっ!!!!」
ファイルさんに縋り付き、服に血が付くのも構わず泣き続けた。
俺はその横に並び、声に出さずにアリスを呼んだ。
(アリス!)
(はい、マスター!)
(救命の手段はないか?)
(我々の世界の医学なら可能かもしれませんが、ここには医療機器がありません。)
(何とかしろ!)
(現在、全世界情報内のデータ検索をかけております。しばらく…、あっ、来ました。)
(どうした!)
(1つだけ方法があります。)
(どうすればいい?)
(神薬なら、蘇生出来るようです。ただし、死後10時間以内です。)
(神薬はどうすれば手に入る?)
(どこにあるのか、全世界情報では判りません。世界樹の葉があれば、それを優れた薬師が精製・濃縮する事で作れるそうです。しかし、どちらも存在を否定されるほどの希少品の為、探し出すのは困難と思われます。ただ、教会の本部、王族、超1級の治療師や薬師なら、持っている可能性があります。)
(どうしようもないじゃないか!)
俺は、頭の中でアリスに叫ぶ。
(んっ! 薬師? 今、薬師といったか?)
(はい。)
「リン!」
少し落ち着いてきたリンに俺は呼びかけた。リンは涙まみれの顔も拭かず、無言でこちらを見上げた。
「フェイルさんは、最高の薬師なんだよな!」
「ぐすっ、そうだよ…、この町だけ…じゃなくて…この国の中でも…一番腕のいい…薬師だよ。」
「そうか。なら、神薬を持っているとか、作ったとか、話していたことはないか?」
「神薬!?」
「そうだ、それがあれば助けられるかもしれない。」
「えっ!?」
リンが驚いた顔をしてこちらを見つめてくる。
「どうだ?」
「そんな話は聞いたことないよ。」
「本当か? よく考えてみろ! 国で1番というなら、作ったことがあるはずだ。」
「でも、でも…、」
「じゃあ、ものすごく大切にしているものとか、絶対に触ったら駄目な物とかないか?」
「本当にそれがあるとお父さんを助けられるの?」
「ああ、神薬は、あらゆる病気や怪我をなおして、死んで10時間以内なら、生き返らせることができるんだ。」
俺はアリスのサポートを受けながら、リンにそういった。
「そんな薬があるの私でも知らないのに何でラムルが知っているの?」
「その話は後だ、今は1分1秒を争う。エレーサさんの救出にも向かわないと。」
「ん~ん、」
リンは涙を拭いて考え始めた。
「あっ、もしかして…」
「何か心当たりがあるのか?」
「うん、もしかしたらなんだけど、地下室かも知れない。」
「地下室?」
「お父さんもお母さんも黙っているけど1度だけ、お父さんが地下室へ行くのを見たんだ。そんな部屋はないってお父さんは言ってたけど…」
「よし、地下室を探すぞ。」
「うん!」
俺達は、フェイルさんの傷口の血を拭い、ベッドへ寝かせた。
「待っていてね、お父さん。」
リンがそう言うとベッドから離れてこっちへやってきた。
「こっちだよ、ラムル。」
一度部屋を出ると、廊下を奥へと抜けた。そこは空き地になっており、その一角にフェイルさんの使っている作業小屋がある。
小屋に入ると真ん中に小ぶりなテーブルがあり、様々な薬草が所せましを並んでいた。天井からは束にして干していたり、瓶に入れて保管していたり、使い方の分からない道具類もたくさんあった。
「ここだよ、このテーブルの下に入口があるの!」
俺は言われたテーブルをよけるが、分厚い木の板が床に打ち付けられていた。
「しかたない。光剣を使うか。」
「こすもせいばー?」
リンが変な顔をしていtが、無視をして武器庫から光剣を取り出す。
出来れば向こうの武器は使いたくなかったのだが…。素手で動かせないくらい頑丈で時間を掛ければ動かせない事もないだろうが、そんな余裕もなかった。
光剣のスイッチを入れるとブォーンと言ううなりを上げて、光剣が伸びる。
「!?」
リンが驚いている。
「光の剣? 伝説の勇者が使っていた伝説の聖剣!?」
「そんな、大層なもんじゃない!」
そう言って、剣を床に突き立て板を正方形に焼き切った。炭化した木のにおいが部屋に充満する。動かせるサイズまで小さくするとそれを横によける。
不思議なことに板をよけるとそこには、下へ繋がる階段が見えていたにも関わらず、切り出した板の破片は、落ちずにそこにとどまっていたのだ。
ガラスではない、透明な何かがそこを塞いでいた。もしガラスなら板を切ったときに一緒に切れているはずだ。光剣のレーザーを通さない何かがそこにあった。
透明な壁に触れてみるが、不思議な手触りだ。硬いようで柔らかくもあり、暖かいような冷たいような、何とも表現のしようがない感じだ。
「これは、結界魔法!?」
「結界魔法?」
「ん、しかも、これ超難易度の結界だよ! 多分、お母さんが張ったんだと思う。」
「そんなに難しいものか?」
「うん、普通は球状に結界を展開するんだけど、この結界は階段の壁の外側に沿って展開している。魔道具以外に魔力を帯びさせるのは高度なテクニックがいるの。」
「そうなのか…。」
「うん。」
「解除できないのか?」
「私には無理。結界を解除するなんてできないよ。」
「そうか、なら、強行突破だ。離れていろ、リン!」
「えっ、どうするの。普通じゃこの結界は破れないよ。」
「まあ、見ていろ。成功するかどうかわからないが、全力でやってみる。」
「う、うん…」
リンが、不安げにゆっくりと後ろに下がる。
「機神召喚、腕!!」
白銀の両腕が、俺の両肩の側に現れとリンが驚いでそれを見ていた。
「ラムル、それ、その腕は何!?」
「俺の秘密兵器だ。」
「はぁ!?」
「アリス、聞こえるか?」
(はい、マスター!)
「よし、局所防御光壁を展開して結界を破る。」
(はい、ピンポイントバリアシステム起動、右拳に展開、円錐形状。右腕部動力リミッター解除、フルパワーでの打ち込みを可能にします。)
結界を破るために機神のバリアシステムを展開していく。機神の右拳に光が集まり凸レンズ上の光の幕が生成され、円錐形に変形した。
リンは、始めて見る光景に言葉もなくただ見つめているだけだった。驚きのあまりただ唖然としているしかなかった。




