第21話 陰謀
「どういう事だ。これは協会の仕事じゃないと思うが?」
「もし、冒険者が絡んでいるのなら、リン君へ故意に大灰熊を押し付けたのは大問題だ。それは互助組織として存続問題になる。冒険者でないとしても彼らを支える薬屋を潰すことになりかねない行為だ。それが魔物相手に命を懸ける彼らに向けれる可能性のあるなら、排除しておく必要がある。」
「成程な。」
「本来、冒険者が魔物のから逃げる際には他の冒険者がいない方向に逃げなければならないという決まりがあり。もし、進路上に誰かいた場合は、大声で警告を発しなければならない。
それを怠ったり、故意に魔物を押し付けるような事があれば、冒険者資格の剥奪や降級の処分が待っているのだ。
当然ながら、剥奪されれば冒険者を続けられなくなり、降級で済んでも、信用を失ったら冒険者を続けるのが難しくなる。」
「厳しいな。そこまでのリスクを負ってまで、『押し付け』まがいのことをする冒険者はいないか。」
「当たり前だ。冒険者は常に命がけだ。『押し付け』はその命を蔑ろにする行為だ。それに自らが危険に陥ったのは自己責任だ。それを人に押し付けるのは言語道断、ましてや故意に特定の者に魔獣をけしかける行為、冒険者でなくても許す事はできない。」
「あれって、そこまで大変な事だったんですね。」
「そうだよ、リン君。君も冒険者ならわかるだろう。」
「うん、そうですね。今回はラムルに助けてもらったから良かったけど、そうでなかったら、私、死んでたんですよね。もしこんな事する人がいたら、探索どころじゃないですね。」
「その通りだ、リン君。」
「んっ、リンは冒険者に登録してたのか?」
「ああ、言ってなかったよね。一応、D級なんだよ。これがないと薬草採取の手続きが大変なの。」
「そうだな。一部の例外を除いてD級以上の冒険者か、特定の組織に所属していなければ森へは行けないのだ。」
「そういう事だよ。お父さんとお母さんは、その例外だけどね。」
「それから不審な者たちが、お二人の周りをうろうろしてますよ。」
「ああ、それは気が付いている。今、5人がこの甘味処を張り込んでいるな。」
「そうなの、ラムル?」
「さすがだな。ラムル君」
◇◇◇
ラムルたちが甘味処でいた頃、別の場所に集まっている者たちがいた。
そこには、円卓を囲んで5人の男たちが座っている。
「これで全員揃ったな。」
肥満気味の男が椅子にふんぞり返って、全員がそろったのを確認するとそう切り出した。
「一体なんじゃ、急に呼び出してこれでも忙しいんじゃぞ。」
揉み上げから繋がる口髭の男が面倒くさそうに言う。
「そう、急くな。例の店の取り込みが上手くいってなくてな。まず、お前から報告してもらおうか。」
肥満男が筋肉質の大男を指名した。
「はい、少々、大変なことになってます。」
大男が、報告を始める。
「大灰熊の事か?」
肥満男は、鬱陶しそうに聞く。
「はい、支部長が例の大灰熊の件を嗅ぎまわっています。」
「ほう、それで?」
「あの支部長はかなりのやり手です。本気を出せば、大灰熊をリンに嗾けたのが我々だと気がつくかも知れません。」
「その心配はない。」
「何故です?」
「あいつは人から認識されないという特殊なスキルの持ち主だ。あいつを捉えるのは至難の技だ。」
「ですが…」
「そうだな。」
肥満男が大男の横の誰もいない空間に声を掛けた。
「はい。」
「なに!」
大男が隣に突然現れた、目つきの悪い男に驚いて椅子からずり落ちそうになる。
「いったい、どこから現れた。」
「わたしは、始めからここにいましたよ。」
「まったく気配を感じなかったぞ。」
「そう言うスキルですから。」
目つきの悪い男が冷たい声でそう答える。
「そうか。」
大男はそう言うのが精一杯で、全身に冷や汗が噴き出して来た。気配を一切感じさせずに真横に立っていたのだ。こいつがその気なら、死を意識する事なく命を刈り取られていただろう。
「私のスキルの前では、隠れながら魔物を誘導するのなど簡単なことです。 他の連中に見られたとしても、誰が通ったかなど見抜くことはできません。」
この男は、隠密と暗殺に特化した、スキル構成をしていた。それ以外にも幻術なども使う事が出来る。隠密で姿を消すことで目撃した冒険者たちから姿を消して、幻術で如何にも攻撃されているように思わせる。大灰熊の知能はそれほど高くはないので簡単に騙され誘導されていた。途中で関係のない冒険者たちに邪魔されない様に進路を調整していた。
ちなみにラムルはその時、感知スキルを発動していなかったため、隠蔽スキルを発動している相手に気が付かなかったが、もし、リンが襲われる前に感知系スキルを発動していたら、隠蔽スキルを発動していても捉えることが出来たかもしれない。
「で、例の計画はどうなっている。」
「はい、既に準備、下調べは終わっております。条件が揃い次第実行する手筈になってます。彼とその配下数名が参加する予定です。」
細身で長身の男がそう答える。
「まったく、あの男も素直にこっちに来ればこんな手間を掛けずに済んだのだがな。」
「その通りですな。何度か脅しをかけましたが、まったく答えたようにも見えません。」
「大灰熊を嗾けるのも失敗しましたし、尾行につけた連中も倒される有様です。」
「あの女も大規模魔法のみかと思ったら、対人用の魔法まで用意しているとはな。」
「男の方も厄介ですよ。冒険者連中は勿論、この町の住人達にも信用がありますからね。」
「あれの作る薬は効果がありすぎるんだ。あれだけの薬はうちにいる連中には作れんしな。」
「くれぐれも女は殺すなよ。多少の傷は構わないが、絶対に生け捕りにしろ。男の方は必ず殺せ。」
「しかし、大丈夫ですか? 炎獄も一筋縄で行きませんよ。」
「それに関しては問題ありません。炎獄の魔法に関しても対策があります。」
「そうか、頼むぞ。」
「では、もう一つ問題はどうする。」
「『疾風の黒い悪魔』か?」
「そうです。どこの者か判りませんが、滅法腕が立ちます。生半可な奴では返り討ちに合うでしょう。」
「かかかかかっ、お前さんとこの連中が瞬殺されたらしいの。相手の力量に応じた者を選ばんからだ。相変わらず実力を見抜けん奴じゃの。」
「ぐぅ!」
「まあ、そう言うな。これでもこいつなりにやっているのだから。」
「申し訳ない。」
「じゃが、それでついた二つ名が『疾風の黒い悪魔』か。」
「そいつは、あそこに寝泊まりして、娘と一緒に行動しているようじゃないか?」
「その通りです。」
「それもついても考えています。」
「そいつに勝てるのか?」
「今のうちの者達では、まったく歯が立たないでしょう。」
「では、どうするつもりじゃ?」
「そいつは、俺のほうで…」
「だまっておれ、聞くところによれば、支部長がSランク相当と判断したそうじゃないか。それだけの者を相手にできる奴などおいそれといるまい。お前の抱えている冒険者など問題外じゃ。」
大男が話に割り込むように発言したことで肥満男がそれを中断させることで話を続けさせなかった。。
「うっ!」
「では続けます。奴を直接相手にするのは悪手と思われますので、奴の留守を狙います。いくら腕が立っても四六時中、家族全員を守るのは不可能ですので。」
「むう、いいだろう。だが、のんびりしている暇はないぞ。」
「はい、出来る限り早急に実行に移す予定です。」




