第17話 和解
俺は咄嗟に、腕のガードを解くと、魔法に集中させないため、エレーサさんの両腕を自分の手で掴み振り上げた。勢いがついていたため、止める事が出来ずにそのまま、一緒になって地面の上を滑った。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
「いってぇ、」
「いったぁ~い!!」
動きが止まると二人が同時に声を上げた。腕が、光となって消えた。俺がエレーサさんを押し倒した格好で止まっており、鼻先同士が触れそうな距離に目を見開いたエレーサさんの顔があった。
俺は、言葉を発することが出来きず、固まったままエレーサさんを茫然と見つめていた。すると、エレーサさんは突然、ニヤリと妖艶な笑みを浮かべ、俺の首筋に息を吹きかけてきた。俺は「ビクッ!」としたが、それ以上、何も反応が出来なかった。
「ラムル、さん…。私をどうしたいのかしら?」
笑みを浮かべたまま、すこし、顔を赤くして、エレーサさんが俺に問いかけてきた。
「えっ!?」
(状況解析!)
俺は今エレーサさんの上に覆い被さっている。彼女の両腕を頭の上で両手で拘束し、肘で上半身の体重を支えている。スカートは、太腿の所まで捲れ上がり、俺の右ひざが彼女の両脚の間で脚を閉じるのを妨げていた。
それは「美女を襲う屑男の図」の様だった。状況は判った。だが、俺の頭脳は、俺の意識とリンクできないまま、しばらくの間、無言の時が過ぎていった。
「ラムルさん!?」
「はっ、………。うっ、うわあぁぁぁぁっ!!!」
一拍も二拍も遅れて、俺はようやく反応する事ができた。慌てて飛び上がった俺は、エレーサさんに背を向け、その場で背中を丸めて正座をした。茹で上がったくらい、真っ赤な顔をして思いっきり目を瞑った。
「ラムルさん。」
「はっ、はい!」
俺は、エレーサさんの呼びかけにゆっくりと振り向くと、起き上がって、四つん這いでゆっくり近づいてきた。両腕で挟まれた胸は、その膨らみをハッキリと見せていた。しかも、僅かに覗く谷間からは、そこはかとなく色気が溢れだしていた。
「!?」
一瞬、目を奪われたが、慌てて目をそらした。
「ねえ、ラムルさん。」
「なっ、何でしょうか?」
「そんなに、緊張しなくても大丈夫ですよ。」
エレーサさんは、そう言いながら、後ろから俺の右手に自分の右手を添えてくる。エレーサさんの手の温もりが伝わり、俺の心臓の鼓動が際限なく高鳴ってくる。
「取って食おうなんて思ってないわ。貴方が本気を出せばわたしなんか、あっと言う間に倒されてしまうもの。さっき、みたいにね。」
「はあ…。」
左手が俺の左肩に触れると、そのまま密着し、俺の顔のすぐ右後ろの今にも触れそうな所にエレーサさんの顔がきた。背中には柔らかい感触のものが二つ感じられ、鼓動が益々速くなる。
「わたしは、気にしていないから、貴方もきにしなくていいわ。それよりも……、」
「はあ…」
「田舎の村なんて、嘘でしょう。あなたのあの動き、剣士の動きじゃないわ。それに炎獄に耐えれるなんで普通じゃないもの。しかも、最後に見たあの腕あれは何? あんなのは、見たことも聞いたこともないわ。何から何までおかしな事ばかりよ。どう、何か釈明はある?」
(マスター、お気を確かに! その女性は、色気で誘惑してマスターから情報を聞き出そうとしてます。)
俺は、突然聞こえてきた、アリスの言葉に「はっ」とした。機密を漏らすわけにはいかない。
(ん? 機密? 機密なんかああったか?)
(機密にするような情報はなかったはずですが、異世界から来たことと元の世界の情報は言わない方がよいでしょう。召喚のことも既にみられてますから隠す意味もありません。)
(そうか、わかった。)
俺は、簡単にアリスと打ち合わせをすると、記を落ち着けるため、大きく深呼吸をすると、意を決してエレーサさんに話しかけた。
「エレーサさん!!」
「はひ!」
俺が真剣な声でエレーサさんの名前を呼ぶと彼女は「びくっ」となって、思わず噛んでしまったようだ。俺は、続けて言う。
「取り敢えず、離れて頂けませんか? 話せないこともありますが、話せることはすべて話しますので。でも、それは、エレーサさんもですよ。貴方、いえ、貴方達も隠していることと言うか、困っていることがあるんじゃないですか?」
「あ~あ、うまくいくと思ったんですけどね~」
真面目な俺の声に反応して、エレーサさんがゆっくりと離れ、そこに座った。それを確認して、俺は振り返り、胡坐をかいて座りなおした。
「やっぱり、私には、色気で誘うなんてむりだわ。」
「俺だから、あれですけど、変な男だったら、そのまま襲われますよ。」
「でも、ラムルさんならそんな事しないでしょう?」
「ん、ま、まあ…」
「私だって、誰彼かまわずにこんな事しませんよ。ちゃんと相手を見て考えてますよ。」
「そうなんですね。」
そこで俺はもう一度深呼吸をした。
「それで、話を戻しますね。」
「もう、ラムルさんたら、真面目なんですから~」
「茶化さないでください。」
「は~い。」
「はあ~」
俺はため息をつくと話をつづけた。
「俺は、確かに村とかから来たんじゃありません。でも、そこは話せないので察してください。」
森から来たこと、森に来る前の事は話せないということ、森で1ヶ月間訓練したこと、この近くで初めて会った人がリンであること。今日この町に来てここと協会にしか行ってないことを話した。攻撃を防いだのは、特殊能力で詳細は話せないこと、簡単ではあったがそれ以上は話しようがなかった。
「なるほどね~、それじゃ、誰かの回し者という訳じゃなんですね。ラムルさんが嘘を言ってなければだけど。」
「今度こそ、嘘はついてませんよ。」
「わかってるって。」
「まったく。で、俺からも聞きたい。」
「な~に。」
「まず、エレーサさんは魔導士なんだな。」
「そう、元だけどね。今はもう引退したよ。冒険者としてパーティ組んでいたけど、結婚してから、辞めたのよ。A級まで行ったから、そのまま続けてたら、Sに昇格できたかもしれないけどね~」
「協会でB級と戦ったが弱かったぞ。級差を考えても、エレーサさんの方が遥かに強いんじゃないか?」
「Bでも色々いるし、Aはもっと色々いるよ。S、SSの実力があるのにわざとAに留まったり、なんとかAに上がった人とかね。同じBでも上と下じゃ全然違うから。Aの上とBの下だったら、天と地ほどの差があるよ。その人達、Bでもそんなに強くなかったのかもね。」
「ふ~ン、なるほどな。」
「じゃあ、最初に撃ったあの馬鹿げた攻撃魔法はなんだ。炎獄とか言ったか?」
「ああ、炎獄ね。あれは私の固有呪文よ。」
「固有呪文って?」
「私しか使えないってことです。特殊な複合呪文なの。ああ、複合呪文は幾つかの魔法理論を複雑に組み合わせて使うってことね。炎獄は、火炎と重力と核撃の複合で、まず火炎を発生させて、それを空気と一緒に超重力で圧縮し、炎が荒れ狂うのを更に圧縮し、一部圧縮を緩めると炎が飛び出すの、飛び出した炎をまとめて相手に飛ばし、着弾直前に超原子加速で核撃を起こすのよ。そうしたら、そこでものすごい熱量と爆風を生んでそこにある全てを消滅させるのよ。」
「核撃って、まさか、核爆弾なのか? 放射能は大丈夫なのか?」
(本物の歩く核爆弾か?)
「ん~ん、カクバクダンとかホウシャノウは、わからないけど、私の師匠が言うには、周囲100m以上を吹き飛ばす核撃は使うなって言っますし、地形が変わるのはともかく、数十年にわたって不浄の地になるっとも言ってましたね。」
「炎獄はいいのか?」
「大丈夫ですよ、炎獄に使っている核撃は直径30cmで全部合わせても直径約2mだけですから。火炎の熱量の上乗せに使ってるだけだし、核撃入れないと地面が溶けないんです。」
(師匠とやらよ、それでいいのか?)
「まあ、いい。あと、四つの輪っかがくるくる回るやつ。なんて言ったっけ?」
「四属性槍連射ですね、あれも固有呪文です。私にとっての通常攻撃です。炎槍、氷槍、雷槍、石槍の四つを魔力の続く限り同時に撃ち続ける事が出来ま~す。」
「ちなみに何分ぐらいだ?」
「試したことないですけど、2時間ぐらい?」
「はあ?」
「あんた、バケモンだろ。炎獄は全体殲滅魔法だし、四属性槍連射は範囲殲滅魔法だよ。この世界の最強クラスの人間じゃないのか?」
「またまた~、私が最強クラスなら、それを躱し切って「押し倒した」、貴方はそれ以上のバケモンですよ。」
「わわわあぁぁぁぁ、それを言うなあー!!!」
「うふっ。」
「もういい、あんたの事は分かった。それで、なんで俺を襲ったんだ?」




