第15話 薬屋一家
「お話し中のところ、失礼します。」
支部長がノックに答えると、マリーンとは別の受付嬢が、金袋を乗せたワゴンを押して入ってきた。
「査定の方が終わりましたので、お金をお持ちしました。」
「おお、そうか。」
金袋を持ってきた受付嬢が、金額の内訳を説明してくれた。それによれば、大灰熊1頭、10万F、魔虎、20万F×2頭、魔狼、25万F他の魔獣11頭が22万F、合計122万Fになった。支部長裁量で2割ほど上乗せしてくれているらしい。ちなみに1Fは約1円だ。
その後、大金貨10枚と小金貨22、を受け取り、ギルドを後にした。大金貨は一枚は10万F、小金貨は1万Fになるので、それぞれ10枚と20枚になるわけだ。
「じゃあ、金ももらったし行くか、リン!」
「はい。」
俺たちは協会を後にし、リンの薬屋へ戻るべく、町中を歩いていた。
「あ~あ、緊張したあ!」
「ああ、リンは程んどしゃべってなかったな。」
「だって、支部長なんかと話をするのは初めてだよ。」
「話してたっけ?」
「もう、言葉の綾だよ。わかってないな~。」
「そうか、すまん。」
「でも、ラムルさんっこよかったよ!」
「そうかあ。」
「うん、特にあのB級のやつらを一瞬でたおしたのは、スカッとしたな。それに支部長と話をしているときも堂々としていてかっこよかったよ。」
「まあ、あいつらは弱すぎた。」
「違うよ、ラムルさんが強すぎるんだよ。」
「そんなことはないぞ。俺より強い奴は山ほどいる。」
(フェン達もそうだし、前の世界でも、勝てないやつは結構いたよな。)
「そうなんだ、ラムルさんがいたとこ?」
「ん、まあそうだな。」
「あ、そうだ。ラムルさんは明日どうすの?」
「とりあえず、町を見てみようかな。武器とか服とか見てみたいしな。」
「じゃあ、私が案内してあげるよ!」
「適当にブラブラするだけなんだが……」
「いいって、いいって、いい店紹介するよ。」
「じゃあ、頼むな。それと俺の事はラムルでいいぞ。『さん』付けは肩が凝る。」
「え、呼び捨てでいいの?」
「ああ。」
「ラ、ム、ルって呼ぶよ。なんか照れるけど。」
雑談を交わしていて、気が付くと薬屋にたどり着いていた。中に入るとリンが元気よく帰宅の挨拶をした。
「ただいまあ~!」
「ああ、お帰りなさい。遅かったですね。リン!」
「うん、魔獣の査定に時間がかかっちゃってね。ねえねえ、お父さん、ラムルさんてすごく強いんだよ。B級の冒険者を一発での倒しちゃったんだから。」
「ほう、それはすごいですね。しかし、冒険者を倒しちゃって大丈夫なのかな?」
「大丈夫だよ、協会の中で、支部長の立会いだもの。それで変なことになったら、冒険者を続けられないよ。」
「そうですか、なら心配ないですね。娘が世話になりました、何もない所ですが、せめてものお礼にゆっくりしていってくれるといいです。」
「いいのか?」
「いいの、いいの。さあ、早く入ってよ。」
リンに腕を引っ張られて、カウンターを潜って、奥の居間に連れていかれた。4人掛けの大きなテーブルが、真ん中に置いてあり、その脇に椅子も4つおいている。広くはないが、小綺麗に整理整頓されていた。
そこに母親のエレーサさんがエプロンで手をふきながら、こっちをに向いた。ぱっと見は、20台前半に見える。リンと並ぶと年の離れた兄弟で通りそうだ。どう見ても人妻には見えない。
「リン、お帰り。ラムルさん、いらっしゃい、リンを助けていただき、ありがとうございました。」
「いえいえ、助けたのもただの偶然ですし、気にしないでください。」
「そう言う訳にもいきませんよ。大したものは出せませんけど、腕によりをかけて作りましたのでゆっくりしていって下さいね! それに今日は泊っていってくださって構いませんので。」
「いいのですか? 俺みたいな、得体のしれない人間を泊めても。」
「人を助けられる人に悪い人はいませんよ。リンもあなたに懐いているようですし、いいですよね、あなた?」
「ええ、そういう事です。細かいことは気にせず、泊って行ってください。」
「それじゃあ、遠慮なく。」
俺は、テーブルに着くと料理を眺めた。ロールパンに瓶に入った赤い実と砂糖を煮詰めた物、肉の塊の燻製をスライスした物、肉の腸詰めを燻製にして焼いた物、魚を葉っぱで包み野菜と一緒に蒸し焼きにした物、生野菜を使ったサラダ。卵と芋と加熱野菜のサラダ。等のここでの一般的な、料理だろうと思われるが並んでいた。
久しぶりのまともな食事で、この世界での初めての料理だ。この1ヶ月間は料理と呼べるものを食べてなかった。
魔狼達と狩をして肉を焼いて塩胡椒を振っただけの物か、木の実や野草を採って食べていたが、味や見た目は二の次だった。
「ラムルさん、お酒は大丈夫ですか?」
「俺は、18歳ですが、飲んで大丈夫なんですか?」
「18歳。若いわね~。誘っちゃおうかしら。」
エレーサさんが俺の横でしなを作りながら俺を誘うようなふりをするとリンと父親のフェイルが驚いたように反応する。
「お母さん!?」「エレーサさん!?」
「じょ、冗談よ。」
(おいおい、本当に冗談なんだろうな……汗っ。でも、見た目は20代半ば、お姉さんだよ。子持ちだけど、ありなのか? そうなのか?)
「ラムルゥ、何か変なこと考えていな~い?」
「イエ、ナニモ ヘンナコトハ カンガエテ ナイデス。」(汗)
「そう~。(ジィーい)」
リンの突っ込みに思わず棒読みになってしまい、リンがジト目で見つめてくる。その時、張本人のエレーサさんから、声がかかる。
「お酒は16歳から飲めるわよ」
「ええ、じゃあ、頂きます。」
「じゃあ、奮発して、果実酒をどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「あれ、それを出すのですか?」
「そうですよ、こんな時に出さないで何時出すんですか?」
「む、まあ、そうなんですけどね。」
「ラムルって、お母さんみたいなのが好みなの?」
「なっ!?」
「そうなんですか? でも、駄目ですよ。エレーサさんは私の妻ですから、手を出しちゃこまります、無論ですが、可愛い娘のリンにも手を出さないでください。」
「はあ、そんなことしませんよ。まだ出会ったばかりですし、俺も何時この町を出るかわかりません。そんな状態で誰かとどうにかなる訳がないです。」
「そう…」
「それならいいですが…。」
「あらあら、」
3者3様の反応を示すとエレーサさんが手をたたきながら全員に声をかけた。
「ほらほら、みんな食べないと折角作った料理が冷めてしまいますよ!」
「そうですね。それでは、改めてラムルくん、リンさんを助けてくれてありがとう。」
「いえ。」
「リンさんの無事とラムルくんとの出会いに感謝して、乾杯!」
「「「乾杯‼︎‼︎」」」
フェイルさんの言葉で一斉にグラス同士を当て合うとその音が響き渡った。乾杯が終わると皆それぞれ好きな物を食べ始めた。
リンは腸詰肉(ウインナーだな)を、フェイルさんは卵と芋の野菜のサラダ、エレーサさんは蒸し焼きの魚、そして、俺はロールパンに手を伸ばした。
俺はロールパンを一つ取るとパンに入っていた切れ目を広げ、スプーンで瓶から赤い砂糖煮を取りそこの塗りつけた。そして徐ろにそれを口に入れ、ゆっくり、味わう様に咀嚼する。
柔らかいパンと共に砂糖煮の甘さが口の中に広がっていく。
(これは苺のジャムか、子供の頃、母さんと作った記憶があるな。それに似た味がする。素朴だけれど、優しい味だ。懐かしいな。)
「どうかしたの、ラムル。嬉しそうな顔をして。」
「いや、なにもない。すこし、昔を思い出しただけだ。」
「そうなんだ。その砂糖煮もパンもお母さんが作ったんだよ。美味しいでしょ。」
「ああ、美味いよ。」
「喜んでくれるのは嬉しいけど、パンや砂糖煮なんて何処でも作りますよ。他にも美味しい物はたくさんありますから遠慮しないでドンドン召し上がってくださいね。」
「ありがとうございます。」
「ラムル、魚好き?」
「ああ、結構食べてるよ。」
そう言うとリンが包み焼きの魚と野菜をスプーンとフォークで取り分け俺の皿に入れてくれたる。
「すまんな。」
俺はそれをフォークで食べた。
「これもうまいな。魚の味をうまく引き出している。野菜も臭みを消して食べやすいです。」
「喜んでくれてうれしいな。」
こうして俺達は、出された食事を食べながら、雑談をしていた。
フェイルさんは、この町の腕利きの薬師で、作った薬は、一般の薬より1.5倍ほどの効果があるそうだ。作れる薬の種類も多く、冒険者に重宝される傷薬、魔力薬、体力薬、解毒薬や病気治療に使う風邪薬、鎮痛薬、下痢止め、下剤、心筋薬、肝臓等々がある。
それだけに留まらず、毒薬にも精通していて、作ることもできるが、健康を害するものは作らないと決めているので作らない方針だそうだ。
エレーサさんは、フェイルさんの薬で命を救ってもらった縁で付き合い始めて結婚することになり、魔法も使えたので、リンが生まれる前は、フェイルさんと二人で森の薬草採取に出向いていたそうだ。ちなみにフェイルさんは奥手だったのでエレーサさんが押せ押せで迫ったらしい。何故か、納得できる。
リンが生まれてからは、薬草の採取を冒険者に依頼したり、リンを連れて、森に入ったりしていて、1年ほど前から、森の浅いところなら、リンが一人で採取に出かけるようになったそうだ。今日、襲われたのもいつも行く場所だったらいい。
俺はリンの家族の話ばかりで悪いと思ったので、自分のことについても少し話した。ただし、本当のことは言えないし、言わない方がいいので設定の話をした。
「俺は、遠い田舎の村で育ったんだ。」
「そこに傷だらけの一人の冒険者の剣士が訪れ、助けた見返りにみんなに剣を教えてくれたんだ。」
「その剣士に才能があると見込まれ、毎日毎日、剣の練習をしていたが、ある日、もう教えることはないと村を去っていった。」
「それから、毎日近くの森や洞窟で狩りをして腕を磨いてたが、村のあたりには、俺にかなう魔物がいなかったので、村を出て修行することにした。」
「そして、この森に入り、魔獣を狩っていたらリンを見つけたんだ。」
という作り話をしたが、すべてが嘘というわけではない、「傷だらけの冒険者」⇒「傷だらけの鬼教官」、「村」⇒「軍の訓練場」、「剣の練習」⇒「戦闘人形の訓練」、「森や洞窟で狩り」⇒「シェンランの特訓」と置き換えればほぼ真実だ。ちょっと苦しいが。
「村には、協会はなかったから、冒険者にはなってないんだ。」
「そうか、だけど、ラムルくんがいなければ、その村は大変なんじゃないですか?」
「おれより、強い奴もいるから、大丈夫だろう。」
「ラムルより、強い人がいるの?」
「ああ、」
「その村ってすごいんだね。そりゃ、冒険者なんて必要ないね。」
「まあな。」
そんな身の上話をしながら、夜は更けていった……。
「そろそろ、夜も更けてきたから、今日はお開きにしましょう。」
舟を漕ぎ始めたリンを見ながら、エレーサさんは俺とフェイルさんを見ていった。
「ああ、もうそんな時間か。ラムルくん遅くまで付き合わせて申し訳なかったです。」
「いえ、この辺りの事は、あまり判らないので勉強になりました。」
そう言って立ち上がろうとしたとき二人して足元がふらついていた。二人ともあまり飲んではいないが、それでも軽く酔っていた。
「エレーサさん、ラムルくんを部屋へ案内してあげてください。」
「判っていますよ、あなた。ラムルさんこっちへ。」
「はい、ありがとうございます。」
「リン、あなたも一緒にいらっしゃい。部屋に行くわよ。」
「は~い!」
リンは、飲んでいないはずなので、足元が覚束なかった。単に眠いだけか…。
フェイルさんは1階の自分の部屋に、俺とリンはエレーサさんに先導されて2階へ上がった。上がってすぐの部屋がリンの部屋だったらしく、リンがその部屋に入っていった。
「ありがと、ラムル、お母さん。おやすみなさ~い。」
「おやすみなさい、リン」
「夜更かしせずに寝るんですよ。」
「は~い。」
部屋の戸が閉まると、俺は隣の部屋に案内されたここが、今日泊まる部屋の様だ。
「ラムルさん、この部屋を使ってくださいね。」
「助かります。有難うございました。」




