第13話 冒険者協会
俺とリンは、パルミエルの町に向かっていた。その道中でも色々と話をした。パルミエルは、商業都市であり、男爵位の領主が治めており、かなり発展していること。リンの両親はその町で薬屋を開いていて、あまり儲かってはいないが、堅実に商売をしていること。などを聞いた。そうこうしているうちに町の入口の門が近づいてきた。日も暮れて周りはかなり暗くなっていた。
「リン、あれが入口か?」
「そうよ、ラムルさん。あぁ、ラムルさん、この町は初めてだよね。」
「ああ、そうだ。」
「入るのにね、小金貨1枚いるんだよ。」
「入るだけで、金が要るのか?」
「そうなんだ、やっぱり知らなかったか。」
「そうか、田舎では金なんか取らなかったからな。助かる。」
そう言いながら、人に見られぬようにそっと、倉庫から金袋を取り出し、その中から、数枚の硬貨を出す。この金もシェンランからもらった。あそこの冒険者の遺品の中にあったのでもらっておいた。この世界の金がないと身動きが取れないので軍資金にするつもりでもらったのだ。
(小金貨だから、この小さいほうの金貨か。)
「これでいいか?」
「うん、そうだよ。」
何枚かの硬貨をポケットにいれ、残りは金袋ごと倉庫に収納した。
「じゃあ、行こうよ。」
そういって、入口の列に並ぶと、程なくして順番が回ってきた。衛兵のおっさんにリンがお金を渡していた。
「はい、おじさん、大銀貨ね。」
(ん? 大銀貨? 住民とそれ以外で違うのか?)
「おお、リン無事に帰ったか。心配してたぞ。」
「何かあったの?」
「ああ、大灰熊が出たって冒険者からの報告があったから、警戒していたんだ。」
「大灰熊ね、それならもう退治したよ。」
「なに⁉ お前がか?」
「ちかうよ、うしろのお兄さんだよ。」
「ん、見かけない顔だか、あんちゃんが大灰熊を倒したのか?」
「ああ、そうだが。」
「冒険者か?」
「いや、ちがう、ただの旅人だよ。だけど、剣には少々覚えがあってね。」
「そうかい、それじゃ冒険者協会に行くといい。礼金をもらえるはずだ。」
「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ。入場料だ。」
俺は、さっさと金を渡すと町の中に入った。町の中は喧噪でにぎわっていた。入口が近いせいか、安っぽい宿屋や飲食店が多かった。もう少し向こうに武器屋や防具屋、道具屋などが軒を連ねていた。
「ラムルさん、冒険者協会に行く?」
「ああ、せっかく衛兵のおっさんが教えてくれたんだ。一度、協会とやらに行ってみる。泊まる所も紹介してほしいしな。」
「うん、わかった、一度家に戻るけど、案内してあげる。でも、なんならうちに泊まってもいいよ!」
「いや、流石にそれはまずいだろ。」
「大丈夫だよ、命の恩人だよ。お父さん、お母さんも嫌とは言わないし、言わせないよ。」
「私の家は、ここだよ。さっきも話したけど、薬屋兼家なんだ。」
「これが、薬屋。」
リンに案内されたきたのは、表通りから二筋ほど入った少しさびれた場所だった。かなり古い建物だったが、よく手入れされて入れ、しっかりしていた。看板に何か書いてあるが読めなかっ…「?」…読めた。薬屋とかいてある。最初は、単なる図形にしか見えなかったが「異言語理解翻訳変換」が仕事をしたようだ。
リンに続いて俺も薬屋の中へ入った。正面にカウンターがあり、中には色んな形の薬瓶らしきものが所狭しと並べられ、入り口側の壁にもたくさんの便が並んでいた。
「お父さん、お母さん、ただいま。」
「おお、お帰り、りん。」
「りん、お帰りなさい。」
「遅くなりました。心配かけてごめんなさい。」
「無事ならいいんだ。大灰熊が出たというから、心配していたんだぞ。」
「うん、それなんだけどね…。このラムルさんが危ないところを助けてくれたの。」
「そうなのか?」
父親は、すこし、訝しそうに俺を見、母親は「あらあら」みたいな感じで俺を見てきた。
「ラムルと言います。娘さんが襲われたところにたまたま通りかかりましたので…」
「そうか、ありがとうございます。リンは俺にとって目に入れても痛くない子だ。よく助けてくれた。まあ入ってくれ。」
「お父さん、ちょっと待ってよ!」
「どうした、リン。」
「ラムルさん、これから冒険者協会に行くのよ。」
「ああ、冒険者だったんだな。」
「いや…」
「違うんだけど、大灰熊を倒した報告をしに行くのよ。」
「そうなのか?」
「ラムルさん、場所がわからないから、案内してから帰ってくるから、待っていて。もう一度連れてくるからね。わかった、お父さん! それじゃこれ取ってきた薬草。行ってくるね!」
俺の言葉を遮って、父親にまくし立てたリンは、持っていた籠を父親に押し付けると、母親はやっぱり「あらあら」とニコニコしながら、見ていた。俺は、リンに腕を引っ張られて表に飛び出した。
「じゃ、協会にいこうか。」
「いい親父さんとお袋さんじゃないか。」
「ん~ん、そうだね、いいお父さんとお母さんだよ。ちょっとお父さんは大袈裟で思い込みが激しいし、お母さんは天然が入っていてなんでも『アラアラ』ですましちゃうんだけどね……。」
嬉しそうにリンがそう言っがどこか、寂しそうな、つらそうな顔をしていたので。俺は、それ以上何も言わず、無言のまま、協会に到着した。
観音開きの扉を開けて、協会の中に入る。想像した通り、中はむさ苦しい、ガラの悪い男ばかりだった。若干、女もいたがこれまた男勝りのような奴だった。
正面にはカウンターがあり受付には4人が立っていた。右の壁には掲示板があり、左側は椅子とテーブルが置いてあり、飲食スペースになっている。そこで何人もの冒険者らしき者が食事を取っていた。
リンは、カウンターの一人の受付嬢の所へ行った。
「マリーンさん!」
「薬屋のリンさんじゃないですか。どうしたのですか?」
「あのね、大灰熊を倒したんだけどどうしたらいい?」
「えっ⁉ リンさんがですか?」
「まさか、私じゃないよ。倒したのは、このラムルさん!」
「はあ⁉」
「どうも、初めまして、ラムルです。」
挨拶をするが、受付嬢、マリーンといったか、がキョトンとしている。
「え~と、大灰熊はいないようですが、証明部位を持ってきたということでしょうか?」
「いや、部位ではなく、体ごと全部あるぞ。ここに出せばいいのか?」
「ちょっと待ってください。まず冒険者カードを確認させていただます。」
「そんなもんは、もってない。」
「えっ、」
「ラムルさんは、冒険者じゃないんだよ。それに収納術があるの。内緒だけど。」
狼狽するマリーンにリンがそっと耳打ちする。
「そうですか…、それではちょっとこっちに来てただけますか。」
マリーンに案内され、掲示板横の通路から大きな部屋にでた。何かの作業場だろうか、奥のほうには色々な荷物が山積みになっており、少し、生臭いにおいがしていた。
「ちょっと、待ってくださいね。」
そう言うとマリーンが出て行って、暫くしたら、ごつい大男を連れて戻ってきた。
「おお、お前か、冒険者でもないのに大灰熊を倒したってホラ吹き野郎は?」
「誰だぁ、あんたは?」
「俺は、ここの副支部長だ、よろしく頼む。」
と大男はニヤリと笑う。人を見下す気に食わない笑いだ。
「それで。俺はどうすれば良いんだ。」
「なに⁉︎」
「冒険者協会とやらも底が知れてるな。副支部長が確認もせずにホラ吹き呼ばわりとは。」
「ほう、それでは、本当にお前が大灰熊を討伐したと?」
「最初にリンがそっちの女にそう言った筈だが。」
「一人で倒したのか?」
「そうだ、一人だ!」
「そんな事を言うから信用できんのだ! 大灰熊は、C等級の魔物だB級なら一人でも討伐出来るかもしれんが、C級以下だと二人以上でないと無理だ。冒険者でないお前が一人で倒したなど大ホラ以外のなんだと言うのだ。仮にお前が大灰熊の死体を持っていたとしてもお前が討伐した証拠にはならんぞ。」
(こいつはなんなんだ、何故こんなに俺を目の仇にする。何かあるのか。)
「まあ、どうしてもと言うのなら大灰熊の死体を出せ!」
「断る!」
「なに⁉︎」
「お前は信用できない。現物を確認したところで、何だかんだといちゃもんをつけて、なかったことにするつもりだろう。それに俺はただ討伐の報告に来ただけだ。何もしてもらわなくても問題はない。信じる信じないはそっちの勝手だ!」
「貴様、協会を舐めおってからに! おい、あいつらを呼んで来い! 訓練場に行くぞ!」
「?」
「貴様の本当に大灰熊を倒せるか、実力を見てやろう! この俺を怒らせたことを後悔させてやる。」
「大仰だな。いいだろう。冒険者とやらの実力も見てみたいしな。」
俺は、マリーンの案内で副支部長の後をついて、訓練場へ向かった。




