第12話 薬師見習
俺は森の中を駆け抜けていた。魔狼達と別れて5、6時間は経っている筈だ。
「この辺りで一旦休憩するか。」
俺はマップを確認して見た。マップでは俺を示す光点はかなり森の端にあった。
「ん〜ん、後、1時間ぐらいで森を抜けるか。暗くなる前に町に着かないと野宿だな。この辺りの魔獣は強くないから大丈夫だと思うが。」
そう、さっきから何度か魔獣に遭遇したが、ほぼ一撃で倒していた。シェンランの特訓で強くなっている様だ。
俺は現状情報を開いてみた。
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現状情報
名前 ラムル
年齢 18歳
職業 第三銀河帝国 防衛軍軍人
人形使い
階梯 50
身体状況
体力 320/320
気力 290/290
魔力 530/530
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装備
オリオス電工製 スペーススーツ(略)
灰熊王の外套
偑月刀
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魔法
回復魔法
回復 階梯8
特殊能力
倉庫 階梯25
(略)
冷蔵・冷凍・時間停止の選択可
サイズは70mmから3500mmまで
収納数は290
武器庫 階梯11
(略)
収納数は60
(略)
格納庫 階梯6
(略)
サイズは1mから35m、収納数は15
(略)
異常状態耐性 階梯17
(略)
機神ドール召喚 階梯6
隠蔽
倍の魔力を消費することで発動可
発動すると機神の姿が見えなくなる。
機神召喚(使用不可)
(略)
部分召喚
(略)
腕召喚
脚召喚
頭召喚
(略)
武器召喚
(略)
異言語理解翻訳変換
(略)
魔力感知 階梯12
周囲の魔力を感じる事が出来る。
マップに表示したり、俯瞰、
立体表示も可能
消費魔力 4(5分間有効)
気配感知 階梯8
周囲の気配を感じる事が出来る。
魔力感知に同じ。
同時表示も可能。
一切の隠蔽系の能力無効
消費魔力 4(5分間有効)
電脳感応
(略)
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という事になっていた。
ザックリ説明すると階梯が50まで上がった。これは、シェンラン達と魔物を狩った為だろう。それに伴って各能力の階梯も上がった。能力毎に上がり幅が違うのは、能力毎の特性なのだろう。
収納系はサイズ、収納数が上がった。脚、頭の召喚が出来るようになった。感知系は気配感知が増え、魔力感知の感度が上がり、魔力も気配もマップ上で正確に表示され、有効範囲も200mに広がった。そして回復が使える様になったのは大きい。これがあるのとないのでは雲泥の差だった。ちなみに回復はシェンランに教えてもらったのだ。
一通り確認を済ますと、俺は立ち上がった。
「さて、そろそろ行くか。」
その時、女の子らしい悲鳴が聞こえてきた。
「キャアアアアァ!」
「なんだ⁉」
俺はすかさず気配感知を発動した。
「気配感知!」
こういう時は、魔力感知よりも気配感知の方が良い。魔力感知では、魔力のないものには反応しない。だが、気配感知は、魔力がなくても反応するのだ。
「あっちか!」
俺はすぐさま走り出した。そして、気配感知の反応が近付くと歩をゆるめ、その方向に視線を集中した。
(何かいる。)
気配を殺し、ゆっくり近付いて木陰から窺うと少女と少女の倍程もある熊型の魔物が、今にも襲いかかろうとしていた。
「ガアァ!」
魔物は立ち上がり両前足上げて威嚇していた。少女は腰が抜けたのか、地面にへたり込んで頭を抱えていた。
「イヤァ〜!」
俺は手頃な小石を拾った。魔物が前足を振り下ろそうと高く掲げた時、それを魔物の頭に向けて投げた。石は一直線に魔物の頭に飛んでいき、直撃すると僅かにのけぞった。
「ガア⁉」
それと同時に俺は飛び出し、抜刀する。魔物は、唖然としていたが、すぐに牙をむき出し、こちらを睨みつけてきた。そして、俺に向けて爪を振り下ろそうとしたが、それが振り下ろされる前に、俺の刀が奴の首をとらえて、喉元を切り裂き、勢いのままその脇を通り過ぎた。魔物は爪を振り上げた状態で止まっており、刀を一振りして、血を飛ばし鞘に納めた時、首筋から血を噴き出して「ドサッ!」と倒れこんだ。その場に血がドクドクと溢れ、血の池が出来ていた。
「弱いな…」
倒れた魔物を見ながら俺は呟いた。
「異世界へ来たばかりの俺だったら、剣の一撃でこいつを倒せなかっただろうな。強そうにも見えたが、以外に弱いのか? それともシェンランの特訓のおかげか?」
「あ、あのぅ、」
「ん⁉」
「あの…、有難うございました…」
少女が声を掛けてきた。目に一杯涙を貯め、かろうじて礼を言った。見た感じでは、15、6歳と言ったところだろうか。身長は俺の胸ほどで栗色の髪、水色の瞳をしている。瞳とお揃いの水色の帽子を手に持ち胸で握りしめており、水色のケープ、長袖の白いワンピース、ピンクのリボン、スカートの下に白いズボン、ラクダ色の皮の長靴を着けていた。
「ああ、たまたま通りかかっただけだ。気にするな。」
(本当にそうなのだ、都合がいいことに…)
「いえ…、本当に危ないところを助けていただいて…、有難うございます。」
「だから、気にしなくていい!」
「そういう訳には……、あなたが来てくれなかったら…、今頃私は、あの大灰熊に…殺されて食べられていたの…。」
少女は先程の恐怖が抜け切らないのか、帽子を握る手に力を入れて、たどたどしく言葉を紡ぐ。このままでは同じことの繰り返しになりそうだったので、俺は話題を変えた。
「そうか。ところで怪我はないか。」
「はい、大丈夫です…。」
少女はそういったが、よく見ると服の左肘が破れ血が滲んでいた。
「左の腕を出せ!」
「えっ、」
「怪我をしているだろう。」
「あっ、これくらい…大丈夫です!」
「傷跡が残ると大変だ。」
そう言うと倉庫から水筒を取り出してから、少女の左腕をとると、少女は少し顔を赤らめながら為されるままにされていた。水筒の水を無造作にかけ、泥を洗い流すと回復を唱える。
「回復!」
「えっ、」
「これで傷は残らないだろう。」
傷は綺麗に無くなっったのを見て。少女が問いかけてきた。
「回復が使えるのですね… 驚きました。」
涙を拭いながら、少女はそう言った。少しずつ落ち着いてきていた。
「大した事はない。」
シェンランなら、骨折や肉が抉れてもあっという間に治すが、俺の回復じゃ、擦り傷や剣による切傷、刺傷程度だ。
俺は、少女の傷跡を確認すると大灰熊に近づくと、魔石を取り出し始めた。
「これは、大灰熊というのか?」
「はい、そうです…。知らないのですか…?」
「ああ、ここに来たのは初めてなのでな、どんな魔物がいるか知らないんだ。」
そう言うと魔石と大灰熊を倉庫に収納した。
「えっ! 収納術⁉」
「⁉」
俺は少女の顔を見た。
「珍しいのか?」
「あ、はい、収納術も回復も使える人はかなり少ないです。」
「そうなのか…。」
(あまり、人前では使わない方が良いかもな。)
「悪い、俺は遠くの田舎から出て来てわからない事ばかりなんだ良かったらイロイロ教えてくれないか?」
「そうなんですね…。分りました。助けてもらったし、良いですよ。ええっと、私、リンと言います。良ければ名前を聞いても良いですか?」
「俺はラムルだ。早速だが、リンはなんでこんな危険な森にいたんだ?」
「はい、ポーションを作る材料にする薬草を採りに来ました。」
「薬草⁉ こんな危険な魔物がいるのに?」
「普段この辺りには、大灰熊みたいな強いモンスターは出ないんです。あれはもっと奥に住んでいて、森の奥へでも入らない限り、出てこない筈なんです。それにこう見えても結構強いんですよ。銀鼠や角兎なんかだったら倒せるんだから。」
「銀鼠? 角兎?」
「ああ、この辺りによく出る魔獣ね。いっぱい要るときは、冒険者に依頼するんだけど、そうじゃないときは、お父さんと狩り出ることもあるんだよ。でね、お父さんは薬師をしていて、町で薬屋をしているんだ。そうそう、町の名前は『パルミエル』って言うの。それで、この森が『パルミの森』って言うの。私もお父さんの手伝いをしていて、薬師見習いなの。パルミの町ってね…」
「なあ、……」
「はい。」
「話を遮って悪いが、そろそろ帰らないと不味くないのか? 日が暮れるぞ。」
「えっ⁉」
日が傾き、日影がかなり伸びてきている。まもなく日が暮れてしまうだろう。
「たいへん、早く帰らないと、お父さんとお母さんが心配する!」
「送っていこう、俺も町に行きたかったんだ。」
「じゃあ、一緒に行きましょうか。」
「少しは警戒しないか?」
「変なことするつもりなんですか?」
「い、いや、何もするつもりはないが。」
「じゃあ、大丈夫ですよね。」
そして、リンの薬草籠を拾い、倉庫に収納すると歩き始めた。




