第10話 魔狼襲来
森の中に入った俺たちは、獣道らしき所を通っていた。そこは俺の身長でも楽に歩けるほどの広さだった。草や枝は生えてはいたが、俺たちの進行を妨げるほどではなかった。大型の魔獣が通っているのだろう。そして、1時間ほど進んだところで異変があった。
「グルぅぅ~!!!」
コーガが警戒して小さく唸り声を上げる。
「どうした、コーガ!」
「何か近付いてくるよ~!」
レイクが答えたが、小声で「魔力感知」を発動する。
「魔力感知!」
脳内からマップが消え、魔力感知の画像に切り替わる。俺達以外の光点が10個あった。
「(ラムル様、走ります。ここでは不利です。)」
「わかった。俺に構わず全力で走れ!」
「(ですが …)」
「死にたくなければ、そうしろ!」
「(わかりました。)」
「行くぞ!」
俺達は、全速で走り始めた。
「どっちも速いな。流石は森の魔獣か。」
そう言いながら、胸から手榴弾を取ると魔力マップを手掛かりに左を並走する光点の前方に向けて投げた。一呼吸置いて爆音が響いた。
「ぎゃん!!」「ぎゃん!!」
鳴き声と共に光点が2個遠ざかる。今度は右前方に投げた。
「ぎゃん!!」
今度は1個が遠ざかる。俺は光銃を抜いて走る続けた。相手は警戒したのか、少し離れてついて来ている。
しばらく走ると少し開けた場所にでた。そこでコーガとレイクが待っていた。
「ラムル!」
「(ラムル様!)」
俺は、その直前でUターンすると、追って出てきた魔獣に向けて引き金を立て続けて引いた。
「「「ぎゃうん!」」」
3頭の魔獣が、その場に悲鳴を上げて倒れた。狼型の魔獣だ。あれが魔狼だろうか。頭の中にメッセージが流れるが、そんなことを気にしている余裕はなかった。まだ、すぐそこに4頭もの魔獣が隠れているのだ。
「まだ、残っているのはわかっている。出てこい。」
全く反応がないので魔力感知を頼りに一番強い光点に向けて光銃を撃った。僅かに光点が動いただけで手応えは全然ない。。
「ワハハハハハハッ」
笑い声が響くとガサガサと草の上を歩く音がし、木陰から、銀色の約2mの魔狼が、姿を現した。俺は身動きが取れなかった。余りにも凄すぎる威圧感。冷や汗が出た。コイツは、銃を全く警戒していない。いや、警戒する必要すらないとでも言っているようだ。
銃を下ろせない。下ろしたら最後、喉を掻っ切られる姿が目に浮かぶ。コイツは強い。魔虎のボスより二回り程小さいが、アイツなど足元にも及ばないくらいに強い。しばらく睨み合いが続いた。だが、誰も動かない。風の音も、木々の葉擦れの音も、鳥の囀りも、何も聞こえない。何時間もそうしていた様な錯覚に陥った。
「クッハハハハハ、面白い人族だ。儂の前で怯えないとは。」
魔狼が笑いながら話しかけてきた。そのお陰でこちらも硬直が解けた。
「話せるのか?」
「魔獣が話せるのが、不思議か?」
「当たり前だ。狼は人と声帯の構造が違う。喋れるわけがない。」
「そうか、だがのう、己の常識で全てを判断するでない。この世には常識を越える物など幾らでもある。」
「なにい!」
「お主もその面妖な武器に自信がある様だが、それで儂を倒せるのか?」
「別にお前を倒したくてこの森に入ったわけじゃない。ただ、この森を通して貰えればそれでいい。」
「ほう、気に入ったぞ!」
「⁉️」
「その度胸に免じてこの森の通過を許そう。ここは儂等の狩猟場、それを荒らさぬのなら構わん。じゃが、その後ろの馬鹿虎は渡してもらおうか。」
「なに!」
「其奴は、ここに入った。古くより、西は儂等魔狼、東は魔虎、お互い、不可侵を貫いてきた。それを其奴は破ったのだ。許すわけにはいかん。」
「それは出来ないな。あんたらの事は知らないが、コイツは俺の案内だ。それをお前に渡す訳にはいかない。」
「そうか、ならば其奴諸共死を選ぶか、人族よ!」
奴の気が膨れ上がる。元々、俺の目線より下にあった奴の頭は、いつの間にか俺の遥上方に見える。先程の威圧感を何倍にもした圧を感じる。俺はニヤリと笑った。アドレナリンが全身を駆け巡り、気分を高揚させる。幾多の戦闘の中で、生と死を分かつ一線を常に俺は見分けてきた。今俺は死線の上に立った。右の転ぶか、左の転ぶか、そのまま持ち堪えるか。
俺と魔狼は、一歩も動かず対峙していた。その瞬間、風と一緒に木の葉が舞った。それを合図に双方同時に動いた。
魔狼が、目にも留まらぬ速さで突進し、爪を振るう。俺も同様に突進し、ギリギリの所で爪を躱し、振り向きざまに光銃を撃った。閃光が届く前に魔狼の姿が消えた。魔狼は跳躍し、俺の頭上で、口蓋目一杯開け襲い来る。俺は銃をそれ目がけて撃つが、魔狼は空中で一回転して軌道を変え、光弾を躱す。その回転の勢いのまま爪を俺の背に伸ばし、振り下ろした。俺は、そのまま前方に一回転し、片手を着いて振り返った。魔狼も又着地する時にこちらに向いていた。
「ほう、やるではないか。儂の攻撃を躱すとはな!」
「そっちこそ、どんな眼をしてればあの光弾が避けれる。」
「なあに、その武器の向き筋肉の動きを見れば一目瞭然よ!」
「そうかい、それじゃこれはどうだ!」
魔狼の目の前に何かが飛んだ。
「ふん、こんなもので…」
それを避けようとした瞬間、強烈な閃光を発し、全てが見えなくなった。
「なに⁉️」
俺は、投げた瞬間にサングラスを掛け、銃を捨て光剣を抜刀した。居合い抜きの要領で踏み出しの勢いに体重を乗せ、魔狼を切り裂いた。
「ぐわぁ!」
その筈だった……が、光が収まると地面に倒れたのは俺の方だった。そのはずみでサングラスは外れてそばに転がっていたていた。
「まさか…、閃光弾が効かなかったのか…」
「ふん、策士策に溺れたな。儂に目眩しなど効かんからな。」
魔狼が悠々と近付いてきて、俺の腹をを左前足で抑えた。
俺は閃光弾の光の中で奴を切り裂いたと思ったが、手ごたえはなかった。至近距離で光を浴びたのだ。目が見えなくなって当然だ。にも拘らず、奴は、強烈な光の中で当たり前のように見えないはずの俺の剣を躱し、背後に回って俺に一撃を入れた。逆に俺はサングラスを掛けたとはいえ、閃光の中では相手を正確に捉えられず剣を振るったのだ。強烈な閃光の中では目が役に立たないという常識が、ひっくり返っていた。計らずも奴の言ったことを証明する形になった。
(まったくどんな化け物だよ……。)
「では、さらばだ。」
そう言って魔狼は右前足の爪を振り上げ、俺目がけて振り下ろそうとした。その時、
「ラムル!」
「ガルゥ!!」
コーガが駆け出した。それは魔狼並みの速度に思える程速かった。そして、魔狼に体当たりすると、僅かに左前足の力が弱った瞬間に俺の左腕を咥えそこから引きずり出し、魔狼の右前足は空を切った。
コーガは、魔狼から距離を取り、俺の前に立ちふさがるように立ち、威嚇の唸り声をあげた。
「この駄獣が! 1対1の真剣な戦いに割り込みおって!」
不機嫌そうに魔狼が喚く。
「ガウゥ(もう勝負はついた。この方を殺させはしない。)」
「偉そうに若造が!」
魔狼は近付くと、また右前足を振った。軽く振った一撃だった。しかし、コーガは、吹っ飛ばされ、近くの木に激突して意識を失った。
「くそう!」
さっきので脊髄を痛めたか、足が動かず、立ち上がれない。魔狼がゆっくり近づいてくる。俺は、手を使って後退った。
「これで終わりだ。儂に楯突いたことを後悔しながら、死ぬがよい!」
魔狼が、再度右前足を振り上げた。このままあれが振り下ろされたら…。
「アリスゥ!!!!」
(両腕、修理完了しました。腕召喚行けます。)
「機神召喚! 腕!!!」
俺は、魔狼の前脚を機神の左腕で受け止めた。
「なんと!」
魔狼が目を見開き、驚いた顔をしていた。
「うおぉぉぉぉ!!!!」
俺はそのまま腕を押し返し、機神右腕の拳を魔狼の脇腹にめり込ませた。魔狼は衝撃で吹き飛んだかに見えたが、奴は地面に爪を立てて踏ん張り、5m程後退しただけだった。
かろうじて魔狼に一撃を入れ、その場に立っていたが、万全には程遠い状態だった。打撲によって全身に痛みが走り、膝が震えていた。
魔狼は顔をしかめ、そこに立っていたが、いきなり笑い始める。
「わぁははははは、中々やりおる。この儂に一撃を入れるとは、見事だ!」
「!?」
「その小僧諸共、その心意気、認めてやろう。」
「ん、いいのか?」
「領域を荒らさぬのなら、良いわ。その小僧もお主を守ろうと敵わぬのがわかっていて立ち向かってきたのじゃろ。」
こうして俺達と魔狼の闘いが終わった。
魔狼のボスは俺達を認め、しばらくここに滞在することになる。
魔狼達にも名前がなく、不都合だったので名前を付けることにした。
「シェンランとかどうだ?」
「好きに呼ぶがよい。」
てな感じだったが、微妙に尻尾が揺れているのを俺は見逃さなかった。
(喜んでいるのかな。)
2020/10/29 第10話から11話に話がつながっていないので、10話の前半を9話に移動し、10話に加筆しました。




