第9話 特殊能力
『おかえりなさい。マスター!』
「ああ、ただいま…」
『大丈夫ですか?』
「大丈夫、少し気分が悪いだけだ。この胃がひっくり返る感覚は慣れないな。」
気分の悪さに項垂れながら、周りを見ると魔虎の死骸が移送装置の横に置かれていた。レイクは元気に飛び回っている。あいつも一緒に来たはずだが、人と違うのか?
「レイク、ここのスライムは、血もだべるのか?」
「うん、水に流しておけば、きれいに食べてくれるよ。」
「よし、わかった。」
俺は気を取り直し、死骸を再度、倉庫へ収納した後、洞窟の端でまで行って水際に2頭を取り出して置いた。顎から喉が水につかるように伏せて置くとサイドバックからジャックナイフを取り出して死骸の喉に突き立てようとした。皮膚の上でナイフを滑らせるが、まったく刃が通らない。
「硬いな、全く刃が通らないぞ。傷すらつかないとはな。」
仕方がないので、光剣を手に取りナイフモードで光刃を発生させた。光剣では肉を焼いてしまい、血が出ないので皮膚だけを焼き切った。その後、ナイフを使って身を裂いた。動脈まで達すると血がドクドクと流れ始めたので頭を水につけ、もう1頭も同じ様に喉を切って水に浸けた。しばらくすると血もな抜け切るだろう。
テントに戻り、軽く昼食を食べた。なぜか、レイクもおいしそうに食べていた。対して美味しくもないのに…。
「そういえば、なんかメッセージが出ていたな。」
俺は、そう言うとARモニターの履歴を表示した。
「階梯が上がったのか。それに、特殊技能が増えてるな。」
現状情報に表示を切り替えた。
--------------------
現状情報
名前 ラムル
年齢 18歳
職業 第三銀河帝国 防衛軍軍人
人形使い(ドールマスター)
階梯 5
身体状況
体力 15/30 +20(更新)
気力 11/26 +16(更新)
魔力 25/25 +15(更新)
--------------------
装備
特殊能力
倉庫 階梯3
(略)
サイズは80mmから1200mmまで(更新)
収納数は70 (更新)
(略)
武器庫 階梯2
(略)
収納数は15 (更新)
(略)
格納庫 階梯1
異常状態耐性 階梯2
機神召喚 階梯3
異言語理解翻訳変換
魔力感知 階梯1(追加)
周囲の魔力を感知することができる。
方向と大雑把な距離が判る。
消費魔力 4 (5分間有効)
電脳感応(追加)
端末を介さずにルミナスとデータの
送受信ができる。
又、AI:アリスとの会話もできる。
--------------------
「試してみるか」
メニューを操作して機神召喚を開く、使えるのは「腕召喚」だけだ。
「腕召喚!」
『エラー、修理が完了していないため、「腕召喚」は実行できません。』
「だめか。次は、…『武器召喚』だが、ほとんど召喚出来ないな。フォトンライフル、フォトンキャノン、対空ミサイルポッド、他にもオプション武器が全て入っているが、あっ、高周波ブレードなら行けそうだぞ。召喚に5、維持に2か。」
俺はメニューを見ながら叫んだ。
「武器召喚! 高周波ブレード!」
頭上前方で光が煌めくと光の中から巨大な片刃のナイフが現れた。全長約2m刃渡り1.2mの高周波ブレードだ。高周波の振動で鋼鉄でも切る事が出来る。それが、今、俺の頭上にある。
「⁉️」
実体化したブレードが刃先を下に向け、重力に従い降ってくる。
「げっ!」
「ドスッ」っと音を立ててブレードが地面に突き刺さる。やがて、ブレードは陽炎の様に揺らぐとその場から消えた。
「戦闘人形が召喚出来ないとあんな武器だけ召喚しても使えないな。」
次は「魔力感知」を開いてみる。
「魔力感知!」
モニターが切り替わり、幾つかの赤い点が表示された。大きいのが1つ、小さめが2、細かいのが十数個。
「一番大きいのが、レイクか、俺と、ルミナスにも反応がある。あとは、スライムだろうな。俺は、現状情報に魔力が表示されていたからわかるが、何故、ルミナスに?」
俺は首を傾げた。
「そういえば、レイクが『不思議な力が見える』とか言ってたやつかな。」
今度は「電脳感応」を開いた。
「電脳感応!」
すると、頭の中に魔力感知のイメージが浮き上がった。
「!?」
AR端末から視覚に投影された映像と脳内のイメージ画像が重なっている。目を瞑っても脳内イメージは表示されたままだ。端末のスイッチを切り外してみる。脳内イメージは、消えない。
(消えろ!)
画面が消えるようにイメージすると、それが消えた。
(アリス!)
(はい、えっ⁉ マスター、今、声出していませんよね。)
(ああ、)
(「電脳感応」という特殊技能だ。)
(AIの私もびっくりです。)
(そうだな。レイク、聞こえるか?)
返事はない。レイクには聞こえない様だ。
「電脳感応、切断!」
いろいろ検証した結果、判ったことがある。
まず、「魔力感知」では、平面表示、視点表示、立体表示の切り替え及び、それぞれ拡大・縮小、感度調整が可能。ただし、距離は不確かさが残る模様。強弱は、赤い光点の大きさで表示。光点の調整はできないので拡大するほど、位置、距離があやふやになる。
「電脳感応」では、俺とアリスはルミナス経由で完全に同期できるようで相互に情報の送受信ができる。魔力感知のデータも共有できた。距離が関係するかどうかは不明だが、便利な機能ではある。
俺は、一通り検証が終わって寛いでいた。
「なあ、アリス。」
『はい、マスター。』
「食料は、あと何日分ぐらいある?」
『そうですね、4,5日分ぐらいでしょうか』
「そうか、そろそろ、食料の確保を考えないといけないな。魔虎とか、食えないのか?」
『食べれないことはないですが、肉食系の肉は、硬いのでやめた方がいいです。』
「近くに町のような集落はあるのか?」
『ここから西に約40kmにパルミエルと言う町があります。』
「40キロか、遠いなあ、道はあるのか?」
『全世界情報では見つかりませんね。』
「道があれば1日あれば着くと思うが…、無理だろうな…。レイク!」
「な〜に、」
「西にある町まで道はないのか?」
「森の外に近い所は判らないけど、無いと思うよ。」
「なら、途中で野営をするしかないが…」
見知らぬ世界の見知らぬ森の中でたった一人で野営をするのがどれほど危険か想像もつかない。無論、遭難した場合の訓練は受けてきたが、この森の危険度は異常に高い、さっき魔虎を倒したのも運が良かったからだ。俺は強いなどと自惚れる気はない。いや、自惚れたら最後、油断したら、死ぬ事になる。
この森には魔虎並か、それ以上の魔物と言う奴がいる筈。魔虎が群れを作っていると言う事は、警戒する相手がいると言う事だ。
だからといって、空や陸を戦闘人形なんかで移動したら、目立ちすぎる。
町に行くにしても、自給するのしても、森の様子を知らないと動けない。
「移送装置の設置も完了したし、まずは、状況把握だな。アリス、これから俺は、森へ入って様子を見て来る。一つ目の目的は、食糧の確保が可能かどうか。二つ目は、西の町への道があるか、だ。準備が終わったら出発する。」
『ラジャー!』
俺はサバイバルキットの一番奥からトランクケースを出した。中にはガンベルトとコスモパイソン、コスモセイバーの予備のエネルギーパックが8個ずつ入っていた。
その中から、ガンベルトを取り出し、腰のベルトから外したガンホルスターと光剣ホルダーを付け、エネルギーパックを2個ずつ取り付けた。そのガンベルトを腰に締め、トランクは閉めて「倉庫」へ収納した。
それと戦闘人形の収納庫から武器パックを取り出し、武器庫に収納した。
「それじゃあ、行ってくる。」
『お気をつけて、マスター!』
「ああ。」
「ラムル、あたしも行くよ!」
『レイク、マスターをお願いします』
アリスの言葉を背に俺とレイクは移送装置へ向かった。
俺は移送装置で森の洞窟へ来た。やはり、この感覚は慣れそうにないが、今は我慢するしかない。そのまま外に出る。結界の壁を通り抜けると魔虎達がいた。
「ガウ、ガウ(ボス、お出かけですか?)」
入口の直ぐそばにいた魔虎が話しかけてきた。当然、レイクの通訳だ。
「これから、西の町へ向かう為の森の探索に行ってくる。」
俺がそう言うと別の魔虎が声を掛けてきた。
「(お待ちください。)」
この雰囲気は、さっき交渉した個体かな。
「なんだ?」
「(西の森には、魔狼がいて危険です。)」
「危険なんか今更だが、無理はしない。ここでずっと居る訳にもいかない、町があるのなら、どんな町でどんな人がいるのか調べる必要がある。それに森の様子と、食料にできる生き物を調べて自給できるか確認しなければならない。」
「(どうしても行かれますか?)」
「食料も残り少ないんだ。行くしかない。」
「(判りました。どうしても行かれるのでしたら、我らの中から1頭お連れください。)」
そう言うと1頭の魔虎を呼んだ。
「(おい、お前が付いていきなさい。)」
「(はい、わかりました。)」
その魔虎が前に出てきた。
「(お供させていただきますので、よろしくお願いします。)」
「ああ、頼む。助かるよ。え~っと…、名前は?」
「(我等には、名はありません。)」
「ないのか? ん~、名前がないと不便だな。」
「(我らに、名は無くても支障がないので、不要です。)」
「俺が、不便だ。そうだな~、お前はコーガ[黄牙]だ」
「(有難うございます。)」
「それから、お前は、ソウガ[聡牙]だ。あと者は、必要があればつける」
指示をした方の魔虎を指さした。
「(ラムル様、有難うございます。)」
ソウガもコーガも嬉しそうにしていた。俺はそれに背を向けて歩き出した。
「行くぞ、レイク、コーガ!」
「は~い!」「はい!」「行ってらっしゃい。」
レイクは飛んで、コーガは駆け出して付いてきた。ソウガを始めとした魔虎達は見送ってくれていた。
俺たちは、湖岸沿いに森の西側へ向かう。時折、魔獣が、水を飲みに森から出てくる。鹿に似てるもの、猪に似てるもの、リスや兎のに似てるもの等々、生態系はかなり豊かなようだ。俺の知っている動物たちより、色合いはもちろん、体も大きく角や牙などが追加されていたりと色々と違っていた。どの魔獣も俺たちが近づくと一目散に逃げていくのだった。
「なんか、のんびりだね~」
「むう、そうだな。何かが襲ってくるような気配もないし、平和に見えるな。コーガがいるからかな?」
「(そうだと思いますが、油断は、しないでください、ラムル様。誰彼構わず襲ってくる魔獣も居ります)」
「そうだな。それはそうとペースを上げるぞ。このままでは日が暮れる。それまでには戻りたいからな。」
「(わかりました。)」
俺は、走り始めた。体調が良いようでかなりスピードが乗ってきた。並走するコーガも問題なく付いてきている。レイクもちゃんとついてきている。やがて、湖の西端についた。
俺の脳裏には、森のマップが表示されている。電脳感応により、アリスから周辺マップが送られてきているのだ。そこに俺の現在地点が、光点で表示されていた。
「この辺りから、森に入るか。コーガ、先導できるか?」
「(はい、大丈夫です。)」
以下、没原稿
「武器召喚! 高周波ブレード!」
頭上で光が煌めくと光の中から巨大な片刃のナイフが現れた。全長約2m刃渡り1.2mの高周波ブレードだ。高周波の振動で鋼鉄でも切る事が出来る。それが、今、俺の頭上にある。
「⁉️」
実体化したブレードが刃先を下に向け、重力に従い降ってくる。
「げっ!」
「ドスッ」っと音を立ててブレードが地面に突き刺さる。
俺は、右足と右手を上げ、しぇーのポーズの様に成りながら、辛うじて重心をずらし、掠めたブレードの横に片足で立っていた。
やがて、ブレードは陽炎の様に揺らぐとその場から消えた。
「危ねえ、比喩じゃなく本当に真っ二つになる所だったな!」
『マスター、ふざけてないで、真面目にやって下さい。』
「ふざけてなんかいない。まさか、真上に出てくるなんて思うかよ!」
『それはマスターのイメージの問題です! だいたい、マスターはいつもそうです。ぶつぶつ…』
「おかん」
『何か、言いました? そうやっていつもいつも人の話をちゃんと聞かずに…』
「人じゃないだろ。(AIだ)」
『なんですか?』
「なあんでもありません」
「なんだろうね、この二人(?)は。」
呆れるレイクであった。
◇◇◇◇
今回も読んで頂き、ありがとうございました。
没原稿は、消したくなかったので後書きに載せて見ました。
◇◇◇◇
2020/10/29 第10話から11話に話がつながっていないので、10話の前半を9話に移動し、10話に加筆しました。




