コンペの景品は部長との...(ビールのツマミに納豆春巻)
結局、コンペ終了の10時まで、SNSが復旧することはなかった。
コンペ終了日の夕方には、表彰式が行われた。
1位はキラキラ☆豆乳クッキングの香織、2位は庶民派納豆ごはんの詩織、3位は生産工場に密着した味噌部門だった。
ちなみに二週間目までは、植物性プロテイン部門が筋肉美を見せつけて独走していたそうだが、R18規制を受けてアカウントが停止処分を食らったため、圏外となったらしい。
「じゃ〜優秀だった社員への豪華プレゼントの発表をしようと、思うんだよなぁ〜」
お酒も入り、少し酔っ払い気味の社長が上機嫌に話し出した。
「1位は、1泊2日の温泉旅行!豆乳部長と行っておいで、花野さぁ〜ん」
「やったー!花野ちゃん楽しもうねーん!」
豆乳部門はキャッキャとはしゃいで、楽しそうだ。
「とう...豆乳部長って、なんかええ響きやな」
「静かにしてっ」
社長は続けた。
「2位は、麻布の某会員制レストランでのディナー!こちらも納豆部長と行っておいで、井草さぁ〜ん!」
「なんで“部長と”って決まってんのよ...」
「同感だな。2位しかとれないような社員と飲んでも、実のある話ができるとは思えないな。」
「まぁ〜そう言わず!どうせなら社員同士の交流も深めたいと思ってるんだよなぁ〜!あはは〜!経費で落としてあげるから、好きなだけ飲み食いしてくればいいと思うんだよなぁ〜」
「それよりええんか、詩織。あの部長、1位やなかったら詩織の席ない言うてたで。」
「あ...あぁ〜...そうだった......」
“クビ”の2文字が詩織の頭に浮かんだ。あんなに就活がんばって、やっとこさ入社したのに...
床に手をつき、がっくりとうなだれる詩織を見て、「そんなに俺と飲みに行くのが嫌なのか」と、少しイラっとした納豆部長であった。
「どうせクビなら!今日は!ヤケ酒だぁー!」
ビールを1ケース買って帰宅した詩織は、帰宅するなり叫んだ。
「なぁなぁ、今日の晩飯なんや?」
「ビールの!つまみを!作る!ほら、早く納豆だしなさい!!」
「ほごごご、詩織、ワシ、そんなに食いきらん...ふごごごご」
詩織は溢れる納豆を乱暴に掴み、いったん深皿に入れた。
春巻の皮を広げ、さっと洗って水分を拭き取った大葉を重ねる。ピザ用のチーズと、先ほどの納豆を包み込んで、シュワシュワと高温の油で揚げ焼きにする。
ポン酢を添えれば納豆春巻の完成だ。
「くーっ!!ビールが進むー!」
「ほな、ワシもいただきます。ほぉ〜皮がパリッとして!アツッ!中身アツッ!」
「なによ、あの、鬼部長。パワハラの権化...」
「あれ、詩織、どしたん?」
「気にくわなーい!俺様が手伝ってやったみたいな偉そうな態度!後輩が困ってる時に手を差し伸べるのは先輩として当たり前でしょーが!それに!よく頑張ったねのひと言もなく!!2位のつまんない女って何よー!!」
そう、詩織は酒に弱い上、酒癖が悪いのだった...。
麻布で部長と飲むなんて、大丈夫やろか、と心配になる納豆親父であった。