詩織、コンペで奮闘(毎日飽きない納豆ごはん)
「こんにちはーっ!かおりのキラキラ☆豆乳キッチンでーすっ☆」
詩織のスマホ画面で、香織が豆乳マカロンを作っていた。
社内コンペが始まって一週間が経ち、香織のクッキングアカウントはすでに3千フォロワーを獲得していた。
一方詩織のフォロワーは、たったの10人...
詩織はオフィスで頭を抱えていた。
「まずい...これはマズい...」
「まだ10人だってな(怒)」
「ひゃぁぁっ」
後ろから部長が話しかけてきた。
この部門に配属されて分かったことがある。それは、部長が噂通りの鬼であること...
2年目の先輩が泣かされ、5年目の先輩は3日間徹夜をし、部長の歳上であるはずの古参社員も、風邪だと言って二週間は休んでいる。
こんな部長に絡まれたら、詩織のメンタルはズタズタになるに決まっている。
「ちゃんと営業してるのか」
「は...営業...?閉店は、してないですけど」
「違う!(怒)営業活動だ。まずは身近な人に宣伝してフォローしてもらえと言ってるんだ。」
そういうと部長は、一番大きいホワイトボードに詩織のアカウントを書いて、フロア全体に聞こえるよう言った。
「今から10分以内にこのアカウントをフォローすること。フォローしない者は今期のボーナス減額。それと井草、俺が手伝ったのに1位もとれないようなら、納豆部門に席はないと思え」
部長の一声で、納豆部門の先輩たちが続々とフォロワーになってくれた。
すると、一気にフォロワー数が増えて注目度が上がったのか、社員ではないユーザーもフォロワーに混ざりはじめた。
「すごい...」
「納豆の部長さん、仕事は的確だからねー。性格も、昔はもう少しまろやかだったんだけど」
気づくと隣に豆乳部門の美人女部長が立っていた。
「あ、ごめんね、覗き見みたいで。花野ちゃん探しに来たんだけど、ここにはいないみたいね。」
そう言うと、華奢な手をひらひらさせて、花のような笑顔で去って行った。
「ええ女やなぁ〜しぼりたての豆乳みたいな香りしたわ〜」
「ちょっと、やめてよ、変態」
その後も順調にフォロワーは増え続けた。
詩織がアップロードしていたのは、“毎日食べられる納豆ごはん”。
毎日食べても飽きないよう、しかし手軽さは損なわないよう、身近なおかずのちょい足しを提案していた。
定番のしらす、オクラ、イカそうめん、変わり種ではウィンナー、揚げ玉、海苔の佃煮などなど。
一応“映え”も意識して、てっぺんにはツヤツヤの卵黄をのせて。
コメントには「これなら私も作れそう!」「明日の朝ごはんの参考にします!」といった声が溢れ、詩織の目指した“庶民に愛される”というテーマが成功したようだった。
そして、コンペ終了日の朝、起きてすぐにSNSを起動すると...
「やった...1万フォロワーに到達してる!」
「香織のフォロワーは何人なん?」
「1...1万100人...」
「集計は10時やろ?100人くらい何とかならんのん?エイギョウせえや!」
「そ、そうだね...!」
詩織はプライベート用のSNSアカウントを開き、友達一人一人にメッセージを送っていった。
(あと100人なら...お願い...!)
詩織が友達にメッセージを送り終え、納豆ごはんのアカウントに戻ったときだった。
更新ボタンを押すと画面が真っ白になった。
“サーバーが見つかりません”
「えぇっ...えぇーっ!?」
「どないしたんや?」
「SNSが...ダウンした......」