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同期は気が強かった(食感が楽しい柴漬け入り納豆)

「な......納豆研究室...」



翌日、会社に着いて内示のメールを確認した詩織は、がっくしとうなだれた。




詩織の勤めるカワイ食品では大豆製品を主に扱っており、女性社員の多いキラキラした豆乳部門や、マッチョなイケメンが揃う植物性プロテイン食品部門などが存在する。

他にも選択肢はあったはず...なのに、詩織が配属されたのはネバネバの納豆部門...

しかも納豆部門の部長は、自身が優秀な分、部下にも同様のレベルを求めるため、相当に人使いが荒いと聞く。




「よかったやん、ワシの研究したってや♡」



カバンから、こそっと納豆親父がつぶやく。

会社には連れて行かないつもりだったが、大声でわめくので仕方なく鞄に入れて連れてきていたのだった。


詩織はイラっとして、カバンのチャックを乱暴に閉めた。



「えぇーーーっ!?なんでアタシだけ納豆部門の机なんですかーー!?!?」



高いキンキン声が響いた。

詩織の同期、花野香織だ。胸元のあいたシャツをタイトスカートにインして、靴はピンヒール。夜は丸の内を闊歩していそうな派手目なOLだ。



「悪いわね、1ヶ月もすれば、こっちの机も用意できるから」




美人な女部長に連れられた香織は、明らかに不満そうな顔で、詩織の横にドカッと座った。





「あの...もしかして、香織さんも納豆部門...」


「そんなわけないでしょ!アタシは豆乳部門の配属!机が足りなくて、一時的にここにいるだけ!」


「そ...そうなんだ...」


「このフロア、ネッバネバして納豆くさくて働く気がしなーい!」


「そ...そうだよねぇ...」





そのとき、背後から冷気を感じた。


「井草さん、納豆研究室への配属おめでとう。」





部長だ...まずい...さっきの会話絶対聞かれた...



「ネバネバして納豆くさい部門かもしれないが、君に求めるのは給料に見合った純粋な労働力だ。働く気がなければいつでも辞めてもらうから、そのつもりで。」


「まぁまぁ〜、そんなに新人をしごかなくてもいいと思うんだよなぁ〜」




救世主は、カワイ食品の社長だった。



「井草さんが研修で提案してくれた商品、経営層へのアンケートでぶっちぎりの1位だったんだよなぁ〜。一応、納豆部門はわが社の肝だから、優秀な新入社員を配属しようと思ったんだよなぁ〜」



社長のフォローにほっとした顔の詩織の横で、香織は憤慨していた。



「あんなのが1位なのー!?経営層も見る目ないのね!っていうか、そもそも納豆を使った新商品を企画しろって時点で地味なのよ!今の時代に必要なのはネバネバじゃなくてキラキラ!映え!別の大豆食品だったら、絶対にアタシが1位だったんだから!」



あんなの......地味...ネバネバ......

香織の、社長にすら物怖じしないストレートな言葉に、詩織は少し傷ついた。




「ほうほう〜、なんだか不満そうだなぁ〜。あ、そういえば今度SNSを使った社内コンペがあるんだよなぁ〜。花野さん出てみたらいいと思うんだよなぁ〜」


「社内コンペ?」


「そうそう〜、1ヶ月間のうちに、自社の商品を使ってSNSのフォロワ〜数を一番多く稼いだ社員に、豪華商品をあげようと思うんだよなぁ〜」


「出る!SNS...キラキラ...アタシの主戦場...!!詩織、あんたも出なさいよ!そしてアタシのフォロワー数にひれ伏すのよ!」


「あぁ〜そういえば、納豆部門は出場者決まってないんだったっけなぁ〜」


「そうですね。他の社員は要領が悪くて忙しそうなので、暇な新入社員にやってもらいましょう。」





その日、帰宅するなり詩織はため息をついた。



「あの会社で、私の意思は、尊重されない」


「詩織、一言も口はさまんうちに、コンペ出場決まっとったな」


五目豆をあさりながら、納豆親父が言った。


「あの香織って女、納豆をさんざんバカにしてきて、なんか腹たったわ〜。靴の中に2〜3粒、納豆つめたろか」


「それは陰湿すぎると思うよ...」




「そういえば、詩織は研修で何を提案したんや?」


「少量の漬物...柴漬けとかタクアンが、みじん切りになって入ってる納豆パック。漬物って一袋の量がまぁまぁ多いし、朝サッと食べるときに包丁を出して刻むのって面倒だと思って」


「ほぉ〜ん...なんならワシが、味をみてやろか?」


納豆親父は期待に満ちた目で詩織を見上げながら、自分の蓋を開けた。





「うまい!シソの香りって納豆に合うんやな〜!漬物のコリコリした食感もええなぁ!」



詩織は、コンペのことを考えはじめていた。

納豆部門から出場するのであれば、納豆を使ってフォロワー数を稼ぐ必要があるが、キラキラとか映えとか、そんなものは表現できそうにない...



「ところで、香織は何を提案したんや?」


「バラの香りの納豆」


「げぇ〜っ、そんなん食わんでも分かるわ、美味しゅうないやろ。納豆は、漬物とか、生卵とか、白米とか、素朴な食材とあわせてこそ庶民から愛されるんや。」





昔ながらの素朴な納豆ごはん...

地味だ。けれど、確かに庶民から愛されるかもしれない...


「明日の朝から、コンペ用の写真撮影はじめるね」


「ヨッ!優秀な若手!期待しとるで〜!」


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