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納豆親父、登場(疲れた身体には納豆汁)


2ヶ月もの泊まり込み研修を経て帰宅し、何か飲み物をと冷蔵庫を開けると、そこには納豆が座り込んでいた。



「ばぶ」




そうだそうだ。1パックだけ残して家を出てしまったんだった...納豆ってしゃべるんだっけ?



「ばぶ」




納豆のパックからは腕2本足2本が生え、目玉親父くらいのサイズ感だった。目玉親父、生で見たことないけど。




悪い夢でも見てるんだ、と思って冷蔵庫をそっと閉め...




ドカッ!!!



「なんやねん!ばぶー言うてるやろが!!」


「ぴいっっ」


閉めかけた冷蔵庫のドアを乱暴に蹴って目玉親父が飛び出してきたので、変な悲鳴をあげて後ろの壁に激突した。




「ワシは納豆親父ゆうんや。お前、名前は。」


「い...井草詩織...」


「あぁん?くさいおしり?」


「違うわ!」


ボカァン!




詩織の右の拳がクリーンヒットし、納豆の白いパックが少しひしゃげた。


「い...いぐさ、しおり...さん...」





納豆親父は身の上を語り出した。


大阪から徳川将軍の城下町(ということは、江戸時代からやってきたのか?)に移ってきて、小さな納豆屋を開いたこと。

毎朝、町の中を売り歩いていたものの、においやネバネバを不気味がられて、なかなか買ってもらえなかったこと。

少ない儲けも、女に騙されて奪われてしまったこと。

残りの金を全部使って酒を飲んでいたら、河原で寝てしまったこと。


...気がつくとこの箱(冷蔵庫)に閉じ込められていたこと。




「ワシ、人間に戻りたい...」




納豆親父がシクシクと泣くと、かつお節の香り高いつゆが滴り落ちた。



「わかった、わかった。いや、わからないけど、とりあえず泣き止んで?」


「ところで腹が減ったんやけど、なんか食うもんある?」





帰りにコンビニで惣菜を買っていた。おにぎりと、サラダと、五目豆。




「これでええわ」




納豆親父は五目豆を選ぶと、袋をあけて大豆だけを取り出してポリポリと食べはじめた。


「うまい、うまい」




納豆親父が食べるたび、頭の部分...つまり白いパックの部分が膨らんでいくように見えた。すると...



パカッ...





蓋が開いて納豆が溢れてきた。

なるほど、大豆を食べると、納豆が生成されるのか。なるほど?



詩織は呆れ...いや、感心するとともに、いいことを思いついた。


「その納豆、少しもらえる?」


「ええで」



納豆親父は蓋を抑えて、中身を取り出しやすいようにした。

詩織は納豆をすくい上げると、まな板の上にのせて刻みはじめた。


鍋に水と、ひき割り状態になった納豆を入れてグツグツと沸騰させる。出汁入りの味噌を溶かして、サッと七味を振れば...





「納豆汁の完成!」


「ほぉ〜納豆は味噌汁の具にもなるんか」


「食べてみる?」


「...うまい!ネバネバも少なくなるし、七味の香りが食欲をそそる!なにより身体が温まってええな〜」





ちなみに卵を入れると更にまろやかになって美味しいのだが、あいにく切らしていたので、それは次回に。


詩織も納豆親父の横に座って、アツアツの納豆汁と、コンビニで買ったおにぎりとサラダを食べはじめた。



「ワレ、生の草食うんか」



納豆親父はゲゲゲと笑った。

まったく妖怪みたいな奴だ。

というか、それを言うなら納豆親父は自分のうんこ食べてるようなものだ...





「で、これからどうするの?」


「そやなぁ〜...飯もうまいし、とりあえずこの家おっていいか?」


「...嫌だって言ったら?」


「外に出て大声でワレの名前さけんだろ。いぐざぁぁぁ〜じおり〜〜ィィィ!!!」


「やめて、ほんとマジでやめて」




こうして半ば脅されるような形で、1人と1パックの共同生活がはじまった。

ちなみに詩織は食品会社に勤めており、納豆の商品企画室に配属されるのは次の話。





ひととおり食べ終えると、納豆親父は冷蔵庫に戻っていった。


「腹も膨れたし、ちょっと寝るわ」




明日も五目豆買って帰らないとな、と思いながら、詩織もベッドに横たわった。



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