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透明の雪  作者: 中井田知久
2/5

多分、溶けるんだよ。

そうやって、仲良くなった私と君は、霧のような雨が降る中、相合傘で学校から帰っている。

「バカだね」

くすりと微笑みながら、私の顔を見詰める君は、柔らかい。その声を捕まえたくなる。でも捕まえた瞬間、私の手の指から零れ落ち、霧の中に溶け込んでしまうのだろう。

「今日、晴れだと思ったのにな」

「思うと天気予報を見るのは違うんだよ」


君は空を見上げる。喉ぼとけが少し尖っていた。

「君は何時も正論を言う」

「君は何時も想像で物を言う」

と私の揚げ足を捕る。

傘の先から雨の雫が、ぽたりと私の紺色のブレザーの肩に落ちる。落ちた瞬間、黒い染みをつくり、僅かに拡がっていく。君はそっとハンカチで私の肩を撫でる。制服の袖から見える白い腕が私の目の前に見えていた。

「君、溶けてしまいそう」

ふと漏らした私の声を聞いて、君は制服の袖を直し、ハンカチをズボンのポケットに突っ込んだ。そして、私の目を見る。

「多分、溶けるんだよ」

と、急に、何時もの冗談を言っているような顔とは違う顔をする。これは多分、悲しんでいるのだろう。私は言ってはいけない言葉を言ったのだろうか。

「いなくならないでよ」

「うん」

君は相合傘を捨て、腕を伸ばし、雨を掴むかのように空気を掬い取った。ほらと言って私の前で拳を開いた君は、今まで見たことない顔をしていた。大きな目、大きな笑顔、

「いなくならないで」

と私が言うと、

「キスしてもいい?」

と君は言った。私は頷いた。私の口から出た、思ってもみなかった綺麗な返答は、ショパンの旋律ようだ。君は私の目を見詰めながら、私の唇にそっと唇を重ねた。じんわりと君の唇を唇で感じる。3秒してから、君は唇を離した。

「ありがとう」

と君が微笑むので、

「どういたしまして」

と私は深々とお辞儀をした。君は大きく笑った。温かい唇の感触がまだ私の唇に残っている。


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