上司の仕事を押し付けられている男の話
久しぶりに短編です。
社会問題シリーズにしようかと思っていながらやめていた話を短編として作りました。
「こんなことできませんよ」
俺は今、断っていた。
「おい、部下のくせに生意気だ。新人なのだから仕事が多いのは当然であろう」
俺は上司に仕事を押し付けられていた。
この春、地方国立大学を卒業した俺はこの会社にめでたく入社した。中堅の会社だ。事前にネットで情報などを調べたがブラック企業であるとは噂されていなかった。実際にブラック企業ではないことは分かった。ただ、1つ。問題であったのは俺の上司だけであった。
「おい、長谷川。しっかり、この仕事を週末にお願いな。じゃあ、俺は帰るから」
俺の名前は長谷川。つまり仕事を押し付けられた本人だ。
俺の机には上司に押し付けられた大量の種類の束がどーんと置いてあった。
「長谷川君。大丈夫? 手伝おうか?」
隣の席の三沢さんが声をかけてきてくれる。
俺と同じ今年入社した同期だ。とてもやさしい人である。ブロック大学を卒業している頭のいい人だ。気遣いがとてもできる人である。
「ありがとう、三沢さん。どうしても辛かったら手伝ってもらうかもしれない」
俺は、三沢さんに迷惑をかけたくなかったので今日は断っておく。
彼女は今日彼氏とデートの日だったはずだ。仕事で邪魔するわけにはいかない。遠距離恋愛のはずなので貴重な日だ。
「わかった。でも、辛かったらいつでも声をかけてね」
そう言って彼女は帰っていった。
チクタクチクタク
時刻は23:30。
上司が定時に帰り、三沢さんが19:30に帰ってからもうこの会社には誰もいなかった。誰もではない。いるのは俺だけだ。
何で、俺だけがこんな目にあうんだ。
俺の仕事は簡単なプログラム作業だ。そして、上司─柊という男だが彼の班に俺は配属された。彼のことはこの会社でとても有名だった。いわく、仕事をしない人。隙あらば仕事を部下や他の人に押し付けている。そして、できた仕事を自分の手柄にするらしい。それでも彼が他の人から恨まれながらもこの会社を首になっていないのはどうもこの会社の出資者の関係者らしいからだ。会社としては出資者を無視するわけにはいかない。
犠牲に会うのはいつも部下。彼の部下は何人もやめていったらしい。今年、彼の部下なのは俺ともう2人いた。しかし、2人とも辞めていった。残ったのは俺1人。俺もこの会社を辞めようか。
そんなことをここ数日考えているがせっかく働き始めた会社を辞めてこれからの生活ができるかどうかとても怪しい。
ああ、俺にもっとやめる勇気、文句を言う勇気があればよかったのに。
「上司め」
文句を言う勇気がある人よ。
きちんと仕事は自分の分はきちんとやるように言おう。そうしないと俺みたいに仕事が押し付けられてしまうぞ。
今日は、もう終電が行ってしまったな。
時刻は0:50分。
ズルズル
「ああー、深夜のカップラーメンはとてもうまい」
俺は何が幸せなのかわかんなくなっていた。
寝ようか。
俺の机の引き出しには書きかけの退社願がひそかに入っているのだった。
仕事を押し付ける上司なんて嫌だよね。