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02

「それじゃまずは僕の家に行こうか」


「はい」


 王都に辿り着いたところでどこに行けばいいのか分からない芽衣は、ただ頷いてリーシャの後に付いて行く。

 突然森から現れた芽衣に対して色々と聞きたいことがあるようだが、今のリーシャは必要最低限の言葉しか話さなかった。そうして森から20分程歩いたところで王都に着いた。

 王都という名の通り、ここには大勢の人々が暮らしているのだろう。城壁はとても高くて遠くには城らしき塔が見えるだけ。その城壁がある部分はとても広く、どこまでも続いているように見えた。

 そんな立派な城壁のある門付近では、中に入るための人たちが列を作って並んでいる。どうやら門番たちが1人ずつ確認して中に入れているようだ。


「本来なら門で身分証を提示してもらうんだけど…」


 リーシャは芽衣をチラッと見た。


「詳しい話はまた後で聞くけど、身分証は持ってないよね?」


 どの身分証でもいいのなら、免許証と学生証は持っている。だが、リーシャが訊いているのは多分この世界の身分証のことだろう。


「…はい」


「そっか…。それじゃ今回だけの裏技を使おう」


「?」


「門番に身分証のことを聞かれたら『盗賊に奪われて…』って云ってね」


「え?」


 リーシャの言葉にもう少し詳細を聞きたいと思ってしまったが、当のリーシャは並んでいる列を無視して門へと近づく。すると門番の一人がリーシャに気付き、声をかけてくる。


「これはリーシャ様。本日の練習は終わりですか?」


「ああ。それと…森の近くで盗賊に追われていた子を見つけたのだが…」


 今までの優しい口調とは違い、凛々しい口調に芽衣は驚く。それに様付けで呼ばれているので、宮廷魔術師というのは本当のことなのだろうと思った。

 これからはリーシャに対する態度や口調を改めなくてはいけないかも…と思っていると、『盗賊』という言葉に反応したらしい門番は芽衣を見て驚いているようだった。


「その盗賊はどうなったのですか?」


「ああ。僕がちょっと魔法を使って追い返した」


「そうですか…。それで失礼ですがあなたの身分証は?」


 そう問いかけられて、芽衣はハッとした。


「それが…盗賊に…」


 なんとかそれだけ云うと、門番は悲しそうな顔をした。一応バッグをかけてはいるが、それはリーシャが取り戻すことに成功したが、中身は全て盗賊に奪われた後だと思ったのだろう。


「…本来ならこちらで身分証の再発行をしていただくのですが、今回はリーシャ様がご一緒なので、王都内で再発行していただいてもかまいません。そのかわり、リーシャ様はちゃんと身分証の再発行手続きまでお付き合いして下さいね」


「分かってるよ」


 どうやらリーシャは門番の信頼を得ているようだ。


「それでは、自分は職務に戻りますので」


「ありがとう」


 門番はきっちりと敬礼をするとすぐに他の列の対応に戻って行った。


「それじゃ行こうか」


 リーシャに促され、芽衣は後を付いていくように門を潜り、無事王都に入った。


「うわ~」


 門を抜けると、そこはまるで中世のヨーロッパのような光景だった。まず目に付いたのは建物で、そのどれもが木造や石造りだった。建物や王都内の活気などがまるでテーマパークに来たような感じがして、思わずワクワクとしてしまった。


「ほらほら、早く行くよ」


「あっ…すみません」


 立ち止まって瞳を輝かせて辺りを見回している芽衣にリーシャは苦笑していた。その声を聞いて芽衣は慌てて着いて行く。

 リーシャの後を付いて歩いているが、王都内の道は全て石畳のようで歩きやすかった。

 商店で賑わう人通りの多い大通りを歩き続け、また門を潜り真っ直ぐ歩く。すると一気に雰囲気が変わった。今までは賑やかで人も多かったが、こちらでは歩いている人も身なりも仕草も上品で、この区画はとても高級な感じがした。

 それに城に段々近づいてきている。なのでここは貴族やお金持ちの人たちが住む区画ではないか?と芽衣は思った。

 それでも実際今あるいている通りは先程のメイン通りと繋がっており、門はあるが開きっ放しで門番もいない。そのため行き来も自由なようで、ある店を覗き込んでいる人は「もう少し頑張れば買える」と云っていた。


(ここは少し値段の高い物を売っているエリアってことかな?)


 辺りを見回した芽衣はそう感じた。

 そうしている内にリーシャは途中の道を1つ曲がった。芽衣は慌ててリーシャに付いていく。

 メイン通りから横に入っただけで、そこは閑静な住宅街――日本で云うと高級住宅街のように、広くて立派な家が建ち並んでいた。どの家も一軒の敷地が広い。


「ここって…」


「ここら辺は貴族の屋敷が多いかな。いちおう僕の家もここにあるから覚えておいてね」


「え!?」


 初めて来た場所で、しかも同じように広い家ばかりで見分けがつかない。


(ちゃんと覚えられるかな…)


 覚えられるか不安になりつつも、リーシャの後に付いていく。

 そうしているうちにリーシャがある一軒の前で止まり、自ら門を開ける。どうやらここがリーシャの家のようだ。今まで歩いて見てきた家と同じように敷地が広い。


「ようこそ、我が屋敷へ」


 門を開けてリーシャが芽衣を迎える。芽衣は驚きながらもリーシャの後に続いていく。庭はきちんと手入れがされていて、綺麗な花が咲いていたり、植木も刈り込まれてトピアリーのような物もあった。

 庭を眺めながら歩いていたが、それでも敷地が広いため門から玄関まで2分ぐらいかかった。

 玄関のドアに辿り着くと、中からスッとドアが開いた。


「おかえりなさいませ、旦那様」


 ドアが開ききると、執事服を着た男性とメイドたちが並んで出迎えてきた。


「ただいま。留守中に何か?」


「いいえ。…ただ王城から『明日は城に来るように』と伝言が」


「その指示はサルマーか…。仕方ない、明日は城に行かなくては」


 身分が高いと色々と忙しいようだ。

 リーシャと執事のやり取りに呆気に取られていると、目を丸くしている芽衣に気付いた執事が声をかける。


「それで旦那様、後ろにいらっしゃる方をいつまでお待たせするつもりですか?」


「ああ、今から応接室に向かう。お茶の準備をよろしく。あと部屋の準備も」


「はい、かしこまりました」


 執事はリーシャに一礼をすると、メイドたちに指示を出した。


「さて、メイちゃんはこっち」


「はい」


 リーシャの後に続いて歩いていると、廊下には落ち着きのある美術品が飾られているが、そのどれもが価値のありそうな物ばかりだった。

 とても立派な屋敷に驚いているうちに、応接室に到着したようだ。


「とても素敵なお屋敷ですね」


 芽衣が話しかけると、リーシャは苦笑した。


「本当はもっと小さい家で充分なんだけど、いちおう国に貢献してるから、そんな人が小さい家に!って云われたり思われたりすると、どうも国からの給金が少ないように思われるようでね。それによって騎士や兵士、それに研究者とかが幻滅して働き手が減る可能性があるって云われてね…」


「…大変ですね」


 国に貢献している憧れの人の家が小さい――それは目標を掲げている若者たちにとってとても衝撃的だろう。そんな裏事情を聞いてしまった芽衣は、王様とか偉い人たちにも色々と事情があって大変なんだね…と思った。


「はい、ソファーに座って。楽にしていいからね」


「ありがとうございます」


 歩き疲れた身体を少し休めたくて遠慮なくソファーに座る。するとそこへタイミング良くメイドが部屋に入って来て、紅茶とお菓子を用意してくれた。


「紅茶もお菓子もいっぱいあるからね。遠慮せず食べていいよ」


 リーシャの言葉に芽衣は苦笑した。けれど買い物に出てから飲み食いはしていないので、この言葉は嬉しかった。礼儀作法も分からずに思い切って紅茶を一口飲んだ。


「美味しい」


 温かい紅茶は芽衣の疲れた身体を温めてくれた。

 芽衣が落ち着いた頃合いを見計らって、リーシャは真剣な顔で訊ねてきた。


「メイちゃん、君はこの世界とは違う、異世界から来たんだろう?」


「!」




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