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いつものように仕入れを終えると、ウサギが笑顔だった。
「これはもしかして…」
『いつもご利用ありがとうございます。あなたのレベルが上がったので、200円以下の全商品が1日40コまで購入出来るようになりました。おめでとうございます』
拍手とお祝いの花が舞っている。
「おおっ!」
レベルが上がったと知り、慌ててステータスを確認する。
小日向芽衣:
異世界人
年齢:19歳
職業:商人
レベル:3
魔力:900
魔法:火、水、生活魔法
スキル:異世界商品取寄せ、鑑定
持ち物:マジックバッグ、スマホ
となっていた。
「でもまだ100円ショップでしか買えないんだね」
それでも200円までの商品なら買えるようになったので、少しずつ進歩していっているらしい。
「200円商品ってことは、少し良い物も買えるってことだよね」
化粧品関連で良い物は200円で売っているのを見たことがある。キッチン用品や雑貨も150円で売られている物を見たことがある。
「時間はあるし、どんな商品があるか見てみようかな」
早速芽衣は新しく増えた商品を見るために、また異世界商店を起動させた。
本日は王都日本人会。不定期で美月たちと時々近況報告のようなものを行っている。そのおかげかだいぶ打ち解け、今では敬語を使うことなく気軽に話せるようになった。
「芽衣ちゃんがサバ缶を売り出してくれたからか、遠くの依頼を受ける冒険者が増えたのよ」
美月がニコニコと報告してきた。
今までは携帯食がイマイチということで、付近に街や村がないところへの依頼は人気がなかった。そのため報酬を少し高めに設定していたが、それでも引き受ける冒険者は少なかった。
だがサバ缶やクラッカーが売り出された途端、少し遠くへ行ってもいい、という冒険者たちが増えてきたそうだ。遠方に向かう冒険者増加により、報酬も徐々に元の金額へ戻していっているそうだ。
「水煮と味噌の2種類もあるから、アレンジ料理も沢山出来るしね」
航太もニコニコとしている。
どうやら自分の部屋でサバ缶のアレンジ料理を色々と作っているらしい。
「サバ味噌でなんちゃって味噌汁も出来るし、そこに青ネギとうどんを入れると美味しくて本当に助かるよ」
「何その美味しそうなメニュー! 今度試してみる!」
流石料理人である航太。手に入れた物で色々アレンジレシピを試しているらしい。芽衣も早速真似してみようと思った。
「そういえばパスタとうどんはあるけど、ラーメンや蕎麦、素麺なんかもあるの?」
うどんの話が出たので、他の麺類を露店で見かけたことがないと思って訊いてみると、全員見たことがないと云う。蕎麦はそば粉があるか分からないが、ラーメンと素麺は小麦粉でそれらしい物を作れるはず。
不思議に思っていると、航太が「これは僕の意見だけど…」と前置きをして話してくれた。
「多分ラスターニャの人たちは細い麺が苦手なのかもしれない。それに麺を液体に入れて食べるっていうのは、地方での慌しい食事って印象らしくて…。だから王都ではうどんもそんなに売れてないんだって」
「そうなんだ」
どうしても食べたくなった場合はやはり異世界商店で購入するしかないようだ。
「でもサバ缶が売れてるから、そのうちうどんも人気になるかもね」
「サバ缶を使った料理が流行ってるって聞くし、それに一部の食堂ではサバ味噌をおつまみとして出しているとか」
ルスタや買いに来た客に「味が濃いので、お酒と一緒に食べるといいかもしれません」なんて伝えてしまったので、その話を聞いた店員が実際に酒と共に試食してみたところ、酒と合うということで早急にメニューに加えたそうだ。サバ味噌と共にクラッカーもおつまみとして出されているところもあるらしい。
一般家庭でもサバ缶を使ってスープを作ったり、サバ缶と野菜を炒めた物を作ったりと、メニューの開発・アレンジをしているらしい。
「少しずつ食事メニューの改善が進んで行ってるから、薄い味のお店は少なくなっていくと思う」
実際に航太が働いている店でも、塩を使う量が少しだけ増えたらしい。
「美味しい物を食べると、今までの味に満足出来なくなっちゃうんだよね」
優真の言葉に航太は苦笑していた。
「食べ物といえば、そろそろ夏が近いから露店で氷菓子が増えるわね」
「あと王都の夏祭り!」
「夏祭り?」
ラスターニャにもお祭りはあるんだな…と思った。
どうやら王都の夏祭りは毎年2日かけて夏の暑さに負けないよう、活力を得るために行われているようだ。
「航太のとこは今年も屋台を出すの?」
「勿論」
「去年のサンドイッチは人気あったね」
「うん。今年もサンドイッチにしようか?って店の人たちと話してるんだ」
航太の店ではサンドイッチの屋台を出したようだ。しかも客自身が選んだ具材で作ること、注文があれば食べやすいサイズに切ったことなど、目新しいことばかりで沢山売れたらしい。
「冒険者ギルドは今年も何かやるの?」
「色々案は出てるけど、中々決まらなくて…」
去年はスライムの素材でスーパーボールを作り、スーパーボール掬いをやったと云う。物珍しいということで、こちらも人気だったようだ。
「皆の話を聞いていると、夏祭りは縁日っぽいね」
芽衣が思ったことを云うと、三人は頷いた。
「そうなんだよ。何でも何年か前の勇者が「夏といえば夏祭り!」とか云って、民の士気を高めるために始めたんだって」
「へぇ~」
そのためか飲食や遊戯の屋台が多く出ているそうだ。
「あっ、芽衣ちゃんも屋台出したら?」
美月に声をかけられ、芽衣は驚く。
「えっ? 個人で屋台って出せるの?」
「勿論。商業ギルドに申請すれば、許可がもらえるのよ。だから露店と同じように近隣の村から持ってきた野菜を売っている屋台とかもあるの」
「そうなんだ…じゃあ少し考えてみようかな」
飲食の屋台も面白そうだし、冒険者ギルドのような遊戯の屋台も面白そうだと芽衣は思った。
「もし芽衣さんが屋台を出すのなら、俺も手伝うよ」
「ありがとう優真くん」
(屋台のことはちょっと考えてみよう)
もし屋台を出すとするなら、またルスタに相談しなくてはいけない。まだ時間はありそうなので、夏祭りに参加することを真剣に考えてみることにした。