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それでも実際に食べた感想をもらわなくては話が進まないので、芽衣はルスタに訊ねる。
「試食してもらえます?」
「あ、ああ」
魚を食べることに抵抗があるルスタは戸惑いながら返事をした。
そんなルスタの心の準備など気にせず、芽衣はカパッと水煮缶のフタを開ける。すると好奇心の方が勝ったのか、ルスタとエディルが興味津々で覗き込んできた。
「ほぉ…随分大きな魚が入ってるな」
「そうですね」
中にゴロッと大きな身が入っていることに驚いている。そして眺めているだけの二人に芽衣が「サバ缶美味しいですよ?」と首を傾げて云うと、覚悟を決めたようにエディルが皿とフォークを持ってきた。
恐る恐る中身を取り出し、半分に切り分けて皿に置いている。ルスタとエディルはまず匂いを嗅ぎ、そして勇気を出してサバを口にした。
「むっ!」
「これはっ!」
不安そうな顔をしていた二人だったが、口にすると予想していたよりも美味しかったらしい。
「魚全体的に味がついているし、何より生臭くない!」
「こんなに大きな身が入っていて、市場で売られている缶詰より油がギトギトではないんですね」
「骨っぽい物まで食べられるとは…嬢ちゃんの持ってきた缶詰は凄いな」
もぐもぐと味わいながら感想をくれる。
「これだったら間違いなく売れるだろう」
「そうですね。確かに市場に出回っている缶詰よりずっと食べやすいです」
エディルも頷く。
「で、もう一つの方は味が違うのか?」
「はい。こっちは味が濃いですよ」
ユイオンには味噌がないようなので、味噌の濃い味に驚くだろう。
先程と同じように缶を開け、中身をルスタとエディルに見せる。濃い茶色に二人は驚き、戸惑っている。
「こっちは随分色が…」
「これも先程と同じサバという魚を使っています。茶色なのは味噌という調味料を使って味付けしてあるからです。濃い味なので、お米という主食やお酒が欲しくなる人もいるそうです」
「ほぉ…」
酒と聞いたルスタの目が輝き、今度は抵抗無く味噌煮を食べる。
「んっ! 味が濃い! なるほど…確かに酒が欲しくなるな」
ニヤリとルスタが笑うが、エディルが「仕事中です」と静かに告げていた。
「確かに先程の物より味が濃いですね。ですが、これを疲れている時に食べれば元気が出そうですね」
エディルも驚いていた。
「これは携帯食というか、つまみにもいいな」
モゴモゴと味噌煮を噛み締めながらルスタは云う。
二人は黙々と食べ、あっという間に完食した。
食べ終わったのを確認し、次はクラッカーを取り出した。缶詰だけだと物足りないかもしれないと思い、日持ちするクラッカーも用意した。
「これは?」
「これはクラッカーといって…クッキーやビスケットなどのように焼いた物です」
「ビスケット?」
どう説明しようか悩んで、一般的なクッキーとビスケットという名を出したが、どうやらビスケットは無いらしい。
「ビスケットはクッキーのような焼き菓子です。材料は一緒ですが甘さとか油の量とかで名前が違うと聞いたような…」
材料は一緒でも国によって名前が違う…といったようなことを本で読んだ気がする。
「ほう? それでそのクラッカーは菓子だと?」
「お菓子としても主食代わりとしても使えます」
「でもクッキーと同じような物なんだろう?」
「これはあまり甘くないので、この上にチーズや野菜、肉なんかを乗せて食べるという方法も出来ます」
「なんと! クッキーにそんな食べ方が!」
新しいクッキーの食べ方にルスタは驚いているが、エディルが「これはクッキーじゃなくてクラッカーです」と注意する。
「携帯食のパンが硬いので、パンのように腹持ちはしないかもしれませんが、こういった物はどうかと…」
「これも試食しても?」
「はい、どうぞ」
封を開けてルスタとエディルに渡す。
二人は匂いを嗅いだ後、パクッと口に入れた。
「んっ…」
「ほんのり塩気があって、美味しいです」
エディルは気に入ったようで何枚も試食し、口をモゴモゴとしていた。
そして一通り試食を終えたルスタは頷いた。
「これも売り出してオッケーだ。ただ、あまり仕入れ出来ないんだろう?」
「ええ。今販売している物の仕入れを少し減らして…という形になってしまうかと」
「まぁ…嬢ちゃんの力は特別だからな。無理しない程度に頑張ってくれ」
「はい」
前回と同じように販売価格を決め、次の開店日から販売することを決めた。
サバ缶2種類とクラッカーは新しい携帯食として、冒険者や行商人、そして何故か主婦にも大人気の品となった。
新しい携帯食の話を聞いたラディも店を訪れ、「本当に美味しいです。これで外での食事も楽しくなります。ありがとうございました」と涙を流していた。