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携帯食のことをルスタに相談するため商業ギルドへ向かった。
以前はリーシャが事前に手配してくれていたので、すんなりルスタに会うことが出来た。が、今日は芽衣一人。あのロビーで順番待ちをしなくてはいけない。
「お昼ぐらいまでには会えるといいけど…」
軽く息を吐いて、芽衣はギルドのドアを開けた。
相変わらずホテルのような広いロビーには大勢の商人たちで混み合っていた。
「えっと…カウンターで申請だっけ?」
確か商人たちはカウンターで申請をして、その後名前が呼ばれるまで待機しているという。
どこのカウンターで申請すればいいのかオロオロしていると、入り口にいた職員に声をかけられた。
「本日はどのようなご用件ですか?」
案内係らしい綺麗なお姉さんにニッコリと営業スマイルで訊ねられ、芽衣は少しドキドキしてしまう。
「あっ、ギルマスのルスタさんに会いたいのですが手続きが分からなくて」
「失礼ですが、お約束はありますか?」
「いいえ。販売する商品について相談したかったのですが…事前連絡が必要ならまた出直します」
そうだよね、こんな立派なギルドのギルマスだもん。すぐ会える訳ないよね…と心の中で呟いていると、対応してくれている職員はハッとしていた。
「失礼ですが、メイ様ですか?」
「はい。芽衣です」
名前を聞かれて頷くと、職員は「こちらで少々お待ち下さい」と云って去ってしまった。
云われた通り大人しく待っていると、先程の職員が戻って来た。
「お待たせしました。ギルマスの元へご案内します」
「ありがとうございます」
職員に案内され、ギルマスの部屋へと向かう。
「ギルマス、メイ様をお連れしました」
「おう」
ドアに向かって声をかけると、部屋の中から返事があった。
「失礼します」
職員と共に部屋へ入る。
「よう嬢ちゃん。店の調子はいいみたいだな」
「おかげさまで」
ソファーに座るように云われ、遠慮なく座らせてもらう。すると対応してくれた職員が紅茶を用意してくれた。
「まずはコイツの自己紹介だ」
ルスタはここまで案内してくれた職員を紹介してくれた。
「コイツはエディル。ギルドの案内人として入り口に立っていることが多い。今度からエディルに声をかけてくれれば面倒な手続きなしで俺のところまでスムーズに来れる。それと今後エディルには嬢ちゃんとの面会にも立ち会ってもらう」
「エディルです。よろしくお願い致します」
「芽衣です。こちらこそよろしくお願いします」
ペコッとお辞儀をする。
「それで? 今日は商品の相談だと聞いたが…」
「はい」
芽衣はマジックバッグから缶詰を取り出した。芽衣が用意したのはサバの水煮缶とサバの味噌煮缶の2種類だった。
「これは缶詰…だよな」
「はい。魚の缶詰です」
「魚!」
携帯食として出回っている缶詰は野菜のオイル漬けと肉のオイル漬けの2種類。露店や店舗も見てみたが、どこにも魚の缶詰は無かった。
「魚は傷みやすいと云い、王都でも生魚を買う人は滅多にいない。それを缶詰にして売ると?」
「はい」
「…」
ルスタの云う通り、港から王都まで馬車で急いだとしても半日はかかる。氷魔法を使える人ならば魚を凍らせることが出来るのだが、運搬中の温度管理が大変だと聞く。それでもいちおう生魚は売られているが、皆食中毒が怖くて買わないらしい。
ルスタは険しい顔をして缶詰を見つめている。
そこで芽衣は露店で売られていた携帯食を食べた感想を口にした。
「実は先日携帯食を食べてみたんです。干し肉は硬いし、オイル漬けは油たっぷりだったのと、素材自体に下味がついていなかったので全然美味しくなかったです」
「はははっ。あれは保存目的の食料だからな」
「それであまりにも美味しくなかったので、再利用して調理してみたんです。まぁそれは美味しく出来たので、外で調理するのであれば簡単な作り方を…と思っていたんですけど、冒険者の人たちは荷物の関係もあって、滅多に外で調理しないと聞きました。それでも手軽に美味しい物が食べたいと云っていたので、こういった物はどうかな?と」
う~ん…とルスタは唸って、缶詰に険しい視線を送っている。
どうやら過去に魚介類を食べて体調を崩したらしい。そういった過去があるのなら、魚を避けてしまうのは仕方ない。
けれどこのサバ缶は日本で売られている物なので、ルスタや魚が苦手な人たちにも安心して食べてもらえると思う。
チラッとエディルを見てみると不安そうな顔をしているので、王都の人は魚介類が苦手らしい。
氷漬けされて運ばれてくるとはいえ、水揚げから時間の経った生魚を調理して食べるには勇気がいると思う。
(さて、どうしようか…)
ルスタとエディルは缶詰を見つめたまま動かなかった。