01
ご都合主義ありの異世界転移モノです。
今後もゆっくりと更新していく予定です。よろしくお願い致します。
辺りを見渡すと、どこまでも木々が続いている。
「何これ!? 買い物しに行っただけなのになんで!?」
これが夢なのか現実なのか分からず、けれど周りの景色が突然変わったことにただ呆然と立ち尽くす。
小日向芽衣は買い物をしに駅前まで行き、今は自宅に帰る途中だった。それなのにふと周りを見渡すと、見知らぬ土地に居る。
「と、とりあえず人がいるか探さなくちゃ」
手に握っているビニール袋を失くさないように抱きかかえ、木々の合間を歩いていく。
「どこまでも木が続いてるってことは林か森? だとしたら出口までまだまだかかるよね」
ハァと溜め息を吐きながら歩き続ける。
(こんなに広い森なんて近所にはないはずなんだけど…)
ただ直感で歩いているのだが、本当に出口に辿り着けるかどうか不安になる。出口の見えない森をひたすら歩き続けると、次第に息も上がってくる。
辺りを見渡しながら歩いていると、見たことのない草やキノコなどが沢山生えていた。中にはいかにも怪しい毒々しい色の植物などもあり、つい足早になってしまう。
「全く知らない場所でこんなに体力を使うなんて…」
確認のために遠くを見ると延々と木々が続いていて、まだまだ先は長いようだ。一度立ち止まって乱れた呼吸を整える。
「いつになったら出られるのかな…」
軽く休憩を入れた後に再び歩き続けていると、少しずつ目の前が明るくなってきた。
「やった! 森から出られる!」
久しぶりの明るさに喜ぶ芽衣は、つい駆け足になる。
そして気がついたら全力疾走していて、やっと森を抜けた!と思うと、そこには一人の男性が掌から炎を出していた。その掌は山積みになっている枝に向けていたが、芽衣が現れたことで炎はポシュッと変な音を立てて消えた。
「え?」
「え? 人?」
男性と目が合い、二人同時に驚きの声を上げてしまった。互いに様子を窺っていたが、先に声を出したのは男性の方だった。
「いや~変なところを見られてしまった。僕はリーシャ。いちおう宮廷魔術師なんていう職業に就いてるよ」
宮廷魔術師という言葉とリーシャが魔法を使っていたのを見たので、ここは芽衣のいた日本ではないことが分かった。
(森にいた時にもしかしたら…って思ったけど、本当に日本じゃないんだ。でもじゃあ私、どうしてここに居るんだろう?)
沢山の疑問が浮かんでくる。考え事をしている芽衣をリーシャがジロジロと見てくる。
「ま、魔法の邪魔をしてしまってすみません」
リーシャの視線に気付き、芽衣は慌てて謝る。
魔法を使っていたのは、どうやら枝に火をつけて焚き火をしたかったらしい。そういった日常のことでも魔法を使うんだ…と芽衣は思った。
「それで、君はどこから来たの?」
「えっと…この森の奥です」
どう話そうかと悩みながらも、言葉を濁しながら答えた。森から来たのは本当のことだし、正直に日本から来たと答えても、リーシャがそれを受け入れてくれるか分からない。何よりリーシャが信頼出来る人なのかも芽衣には分からない。
「そっか。でもこの森にも魔物はいるから気をつけてね」
「え?」
ここまで来る道には魔物はいなかったので、この森が危険だという認識はなかった。
(そっか…魔法のある世界だもんね。魔物とかいてもおかしくないよね)
「き、気をつけます」
今後どうなるか分からないが、この世界には魔物もいるということを忘れないように!と自分に云い聞かせる。
「それで君はこれからどうするの?」
「えっと…人がいるところに行こうかと思っているんですけど…」
「人がいるところ…街か村にいって、それで何するの?」
リーシャは矢継ぎ早に質問してくる。それに対して芽衣はどうしようかと考えた。
ここは日本ではないので家はないし、両親や友達もいない。住む場所などの生活するのに必要な物などもどうやって揃えていけばいいのかも分からない。
「…何をするか…それはまだ考え中で…」
どうすればいいのか分からず、考えも纏まらない。困惑しながら答えると、リーシャは明るい口調で訊ねてきた。
「そっか。だったら僕のいる王都に来る?」
「王都ですか?」
「そう。王都なら人もいっぱいいるし、住み込みの仕事なんかもあるよ」
「…」
確かに王都ならば、国で一番栄えているのだろう。人も大勢いるし、買い物や仕事もしやすいだろう。
芽衣は少し考えてから、リーシャの提案を受け入れることにした。
「王都まで連れて行ってくれるんですか?」
「うん、いいよ。僕もそろそろ帰る時間だし、連れて行ってあげるよ」
リーシャは笑顔で答える。
「お願いします」
ペコッと頭を下げる。
「了解。それで…君のことは何て呼んだらいいのかな?」
芽衣は今まで自分が名乗っていなかったことに気付き、慌てて自分の名前を告げた。
「芽衣です」
「メイちゃんか。可愛い名前だね」
ニコッとリーシャは笑った。