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In the breeze  作者: PeDaLu
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ショッピングモール

晃と三葉。二人だけの時間の速度。一体それはどのくらいの速度で、どのくらい大切なものなのか

目的地に向かう電車の中で太陽に作られた光の輪を眺めながら今朝のことを思い出す。


「三葉、おまえいつもそのリボンで髪を結んでるけど、なんか理由があるのか?」


「理由なんて無いわよ。ただ気に入ってるだけ。ずっと着けてるからトレドマークみたいなものよ」


今朝はゆっくりしたものだった。心地の良い音楽で目が覚めた。ベッドから身体を起こすと窓越しに三葉が気持ちよさそうに朝のそよ風に黒髪をなびかせてステレオで音楽を聴いている。


「なんだ三葉。今日は早いんだな」


「おはよう晃。こんな気持ちの良い朝にぐーすか寝てるのは勿体ないわよ。そうだ。折角だから買い物に付き合ってよ」


「別に構わないけど、どこに行くんだ?」


「新しくできたアウトレットモール」


「ああ、あそこか。オープンして間もないから混雑してそうだな」


「だから行くのよ。オープニングセールやってるわよ。あと。朝ご飯作ってあるからこっちに来なさいよ」


三葉の家で朝ご飯は久しぶりだ。毎回こうやって三葉の家に入るのは慣れているつもりだが、少し緊張する。


「朝からキッシュとな?」


「なに?なにか文句あるの?」


「いや、朝から手が込んでるなって」


「朝早く起きたし、卵が余っていたのよ。たまには良いでしょ。こういうのも」


「まぁな」


テレビもつけずに静かな時間が流れる。特に会話をするわけでもなくフォークとナイフが食器に当たる音だけがリビングに添えられていた。



「なぁ三葉、アウトレットでなにか欲しいものでもあるのか?」


「んー、なんか欲しいものがあれば買うわよ。買い物には目的なんてないの。女の子はそういうものなの」


目的地のアウトレットモール。案の定の人混みだ。


「うわぁ……混雑してるとは思ったけども、ここまでとは……」


「ガラガラで殺風景なショッピングモールよりもマシでしょ」


俺たちの住む町にもショッピングモールはあったのだ。かつては人気があって繁盛していたのだが、隣町に大型ショッピングモールが出来てあっという間に寂れてしまった。中学まではよく行っていたんだが。


「で、三葉、この靴屋に入るんだろ?」


「ん?入るけど?なんで?」


「いや、何となくな。入る気がした」


「そう。私の好みがようやく分かるようになったのかな?」


三葉は機嫌良くお店に入り試し履きを続けている。いくつかの靴を持ってきては俺にどれが良いか聞いてくる。


「三葉、いいのか?なんか俺が選んでばかりだけど」


「いいのよ。自分で決めるより踏ん切りがつくの」


「後で俺のせいにしないでくれよ?ところで。座らないか?足が棒のようだ」


「晃は運動しなさ過ぎなのよ」


今日は天気がいい。気持ちの良い天気だ。中庭に置かれたパラソル越しに青く澄んだ空が見えた。三葉は4歳児位だろうか。両親に両手を引かれて歩く家族を、目を細めて見て、視線をショッピングバッグに移しながら髪を解いた。自由になった黒髪が太陽に照らされてハイライトが髪の動きにあわせて移動する。


「なんだ。そのままの方が可愛いのに」


「ん?お世辞、ありがと」


三葉はショッピングバッグから取り出した青い髪留めを取り出していつものようにポニーテールにしてしまった。あの髪留めも三葉がいくつか持ってきたものから俺が選んだものだ。長いつき合いだ。あいつが好きな色は青、ということくらいは分かっているつもりだ。


「ねぇ晃。今日はウチで晩ご飯食べていかない?」


「なんだ?また出張か?」


「そう」


三葉が自分を晩ご飯に誘うのは、いつも決まって両親が出張で居ないときだ。ショッピングバッグを持って歩き回って疲れていた俺は条件付きでそれに付き合うことにした。


「別に良いけど、ご飯が出来るまで俺はソファーで寝る。ご飯を食べて休憩したら帰るぞ」


「いいわよ。それで。荷物持ってくれたしね」


私はこんな時間が欲しかったんだ。なんでもない時間。静かな時間。


ハンバーグを作り終え、リビングのソファーで寝息を立てている晃を上からのぞき込みながら、そんなことを考えていた。


「うわっ!」


「なによ。ご飯出来たわよ」


「俺の顔に落書きでもしようとしてた?」


「なんでそんなことするのよ。冷めるから早く」


三葉の作るハンバーグは美味しい。以前、一緒に出てきたコーンスープも美味しいって誉めたら、粉のカップスープよ、と怒られたことがあるから、今は面と向かって美味しい、というのは言わなくなったが、ごちそうさまの言葉にその感謝を込めて言うことにしている。


「うーん、、やっぱり最近のバラエティー番組はうるさいばかりでちっとも面白くないな」


「そうね」


ばふっ!


俺がテレビを消してリモコンをダイニングテーブルに置いてもたれると同時に膝の上にクッションが降ってきた。続けて三葉の頭も降ってきた。


「おま……」


「減らない。疲れた。たまには良いでしょ」


俺もこんなに疲れてるんだ。三葉も疲れているのだろう。暫くしたら起きあがらせて帰るとしよう。


「んあ……」


「あ、やっと起きた。もう23:00だから家に帰ってお風呂に入った方が良いわよ?」


風呂上がりの三葉が髪の毛を拭きながらこっちにやってくる。リンスの匂いだ。いつもの三葉の匂いだ。


「なにぃ?もしかして一緒にお風呂に入りたかったとかぁ?すけべ。えっち」


寝過ぎた自分にため息をついたら三葉がそれに反応してそんなことを言ってきた。


「お前な……高校3年生にもなって……」


「冗談に決まってるでしょ。それとも何かな?本気にした?」


「だから……、まぁいいや。ってかなんで起こしてくれなかったの」


「お風呂に入っていたから」


「なんでお風呂に入る前に起こしてくれなかったの」


「面白そうだったから」


「なにが」


「起きたら私が居なくて、探したらお風呂に入ってた、ってなってたら晃、どんな反応するのかなって」


「間違えて脱衣所開けちゃって万が一になったらどうするつもりだったんだよ」


「あ、やっぱり。スケベ。えっち」


ひとしきり俺をからかって満足したのか、おばさんには連絡してあるから鍵は締めてから明日返して、と言いながら洗面所に歩いていった。


自宅のお風呂でシャワーを浴びながら今日の出来事を思い出す。


「なんだろうな。妙に懐かしい感じがした。あの潰れたショッピングモールでも同じようなことがあったのかな……」

今日の出来事を反芻しながら一日を終える晃と三葉。今日という時間は自分達にとって何だったのか。

次回、確認。どうぞお楽しみに

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