初勝利
簡雍は、山賊が気絶したのを確認すると起き上がった。
劉備は既にほかの山賊の方に向き直り、剣を構えていた。
使ったことは無いが、丸腰よりはマシだろうと、簡雍は気絶した山賊から斧を奪い、劉備の隣に並んだ。
簡雍の眼には、山賊に襲われ、既に事切れた人々が写った。皆、苦悶の表情をしているのがわかる。どれほど辛かっただろう、どれほど苦しかっただろう・・・彼らのことを思うと、腹の底から怒りが湧き上がってくる。先程まで抱いていた恐怖は消え去った。
「憲和!」
「おう!」
二人は、まるで示し合わせていたかのように、お互いの背後を守り合う布陣をしいた。これで、少なくとも後ろから狙われることは無い。
二人は、次々と襲いかかってくる山賊を切り伏せていった。二人とも戦闘経験は皆無だったが、決死の覚悟がそれを補っていた。だが、それでも人間には限界がある。劉備も簡雍も、何度か山賊の斧がかすり、傷だらけになっていた。
何人倒したかもわからなくなった時である。
「玄徳兄!」
劉徳然が完全武装の護衛を引き連れて現れてくれた。
流石に分が悪いと察したのか、山賊達は撤退していった。辺りを静寂が包んだ。
「勝った・・・のか?」
「そう、みたいだね・・・」
二人は、背中合わせのまま崩れ落ちた。
勝った。俺達は、生き残れたんだ・・・
安堵すると同時に、二人の意識は深い闇の中に飲み込まれていった。