薬草
さて。ウィルと友達になったがやることはいつもと変わらない。
薬草を探して集めるのだ。そして家に帰ったら薬を作るのだ。
といっても、俺は薬草がどこにあるか知らない。
普段調合しているものは勿論分かるけれど、新薬の研究に使うものに関しては何処にあるかを探し出してから始まるのだ。
図鑑は全て眺めて昨日貰ったスキルで頭に全て入っているから知識には不足はない。
しかし使用する薬草がこの広い森の何処にあるのか、そもそもこの森に有るのか。そんなのは分からない。
いや、まてよ。この森に住んでいるこんなにいるウィルなら、或いはひとりくらい知っているかもしれない。
「ねぇウィル。ピリn……あーー、えっと、解熱作用のある薬草とかって、何処にあるか分かるかな?」
一応聞いてみる。勿論ダメ元だ。
そもそも高度な魔法を使う妖精が薬草をいちいち知っているとは思えない。
「げねつ?」
「うん、熱を下げる働きがあるものってないかな。」
「下げるか分からないけど、氷のやつならあるよ。あついなら冷たくするんだよね?」
氷のやつってなんだ。取り敢えず案内してもらって見てみよう。分からなければ持ち帰ってその成分を見てみればいい。
暫く歩くと青白い実のついた花を見つけた。
それがその『氷のやつ』の正体で、昨夜読んだ図鑑と照らし合わせると『花雪』だ。
図鑑によればこれは水に限りなく近い成分で出来ており、氷の実がついているのだと言う。
実を取ろうと手に触れた瞬間、その氷の実は溶けて水になり落ちてゆく。
これが、雪と呼ばれる由来だ。薬草としては使えないだろう。
「ん?これは……」
花雪の隣に、花雪より少し濃い青の花が咲いている。
前世の薔薇に近い形の、幾つもの花弁が重なった花。
「青花弁だ!」
青花弁。とても脆く育ちづらい為自然の中で見つけるのは勿論、栽培も極めて困難だと言われているが、強い解熱作用のある花である。
こんなところで見つけることが出来るとはなんてラッキーなんだろう。
「ウィルありがとう!花雪は使わないけど、こっちの青花弁が凄く必要なものなんだ!」
「シアン喜んでる。良かった!」
ウィルを指で撫でてやり青花弁を摘む。
あぁ、早く家に帰って栽培方法を突き止めたいものだ。それに成分分析をすれば新薬の研究にも繋がるはずだし。楽しみだ。
「シアン、僕それたくさんあるとこ知ってるよ」
わくわくと想像を膨らませていると、ウィルの1人が俺の裾を掴んだ。
いっぱいある所?栽培困難な青花弁の花畑でも有るのだろうか。
ウィルに案内されさらに奥へと森を進む。
すると段々と茂みは緑から深緑、緑青、そして淡い青色に変わっていった。
「ここ」
ウィルがそういって指をさした場所は、一面の青だった。
青花弁の花畑だ。
「このお花、僕の色。好きだから集めて育てたの。シアンが必要なら、持ってっていいよ。」
「育てたのか!?」
「育ててない。僕らは魂を操るから、お花ともお話出来るの。仲良くなったの。お花も、友達なら摘んでいいよって言ってる。」
魂と会話。植物も生きているってことか。
当たり前だけれど、当たり前じゃないし、しかしありえない話ではない。
現に人間の手による栽培がほぼ不可能と言われているこの花がこうして茂っているのだから。
「そっか、ありがとう。」
そう言って花を優しく撫でた。昨日貰った全ての種族と話せる、という翻訳機能は喋らない相手では意思の疎通は取れない。
それでも、声をかけて数本の花を摘んだ。