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前世の記憶を持つ天才薬師  作者: 覡
第1章 幼少期
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火の玉

チェスターが風邪を引いた。

よって、今日の薬草採取は中止であり、薬草がなければ薬の調合も出来ないため今日はお休みである。


なんてのは、納得ができなかった。

毎日森に入っているのだからチェスターが居なくたって薬草採取くらいできる。

危険だって言ったって、魔族を見たら逃げれば向こうも追ってこない。


「お父さん。1人でも大丈夫です。行かせてください。」


チェスターは頑なに拒んだが、俺もめげずに頼みまくったらやっとOKが貰えた。

しかしいつも行く時間は午前中。OKが貰えたのは昼飯が終わってからのことだった。


「暗くなる前に帰ってくること、絶対です。分かった?」

「はい!」


アンがくどいほど注意するが、俺は全てに元気に答えた。

早く薬草を取りに行かねば夜薬の調合ができないではないか。早く行かせてくれ。

そんなことを思いながら、最後にアンが魔法をかけてくれた。

帰りたいと願えば帰り道が分かる魔法だそうだ。

いつも採取する場所に行くから迷わないとは思うが…。


「お母さんありがとうございます。行ってきます!」


そう言って俺は家を出た。

行くと言っても家の目の前の森だ。心配はいらない。

前世ではこんなに薬マニアだったか、と思うほど最近は薬作りが楽しい。

チェスターの遺伝もあるのか、はたまた異世界だからか。

日本で行っていた薬調整とは全く違くてとても楽しいのだ。


いつも通りの道を抜け、開けた所に出る。

毎日通っている道には木々に印を付けていて、足場もしっかりとした道を歩いてここまで来ることが出来るのだ。

さてと、昨日の薬作りで足りなかったのはピリン系の物質…。それとなる薬草はあるだろうか。


と、草を漁っていると視界で何かが動いた。


魔族。直感で分かった。

逃げなくてはいけない。いや、ちょっかいを出さなければ襲っては来ない。

だからまずは相手を確認するところからだ。


左にゆっくり顔を向ける。

動いた茂みの方へ。ゆっくり、ゆっくりと。


そして、ソレと目が合う。

手のひらサイズの、青い光。

日本の妖怪で火の玉というのがあるが、それから同じ色の胴体を小さく出して、手と足を付けたようなもの。


それが、いた。


1匹だ。怯えたようなソレは、こちらをじっと見ていた。

俺もまた、ソレから目を離すことなく見ている。

間違いなく魔物だった。小人族か、あるいは妖精の類だろう。

ゆっくりゆっくりと、後ろに足を引いて逃げる。

その時、


「〜〜〜〜、?」


怯えたような声で、ソレは俺に向かって声を掛けた。

害はない。そう思った。

それが罠であったなら、そこまでだ。

でも、きっとソレは困っていて、それが異族である俺にまで縋る程なのだろう。

もしここで手助けして殺されたら、そこまでだったと割り切ろう。


「どう、したのですか?」


ゆっくりと、ソレに近付く。

また、ソレも怯えながら、俺に近づいてくる。

手と手が触れる。青い火の玉は、熱くはなくむしろ冷たかった。


「〜〜、〜〜〜。」


ソレは困った顔で俺の手を掴んだ。

俺も、同じような顔をしていたと思う。


「仲間は?お家はどこですか?」

「〜〜……。」

「おうち、分からなくなってしまったのですか?」

「〜〜〜。」


言葉が通じているかは分からないし、俺には通じていないから間違っている可能性も高いが、この子はきっと迷子だ。…と、思う。

不安で仕方がないのだろう。一緒に、家を探してあげてもきっと罰は当たらない。


「あ。」


アンに出かける前にかけてもらった魔法。家に帰るための魔法。

あれを、このこのために使えばいいじゃないか。

もし迷子なら、それで丸っと解決だ。


「抱っこして大丈夫ですか?」

「〜〜〜?」

「えっと、…失礼します。」


そっと優しく火の玉を抱える。そして唱える。


「このこの家に、帰りたい。」


すると目の前の草がパァと明るくなり、1本の道ができた。

その道は森の奥に続いており、きっとこの道の先が、このこの家なのだろう。


「では、行きましょう」

「〜〜!」


少し火の玉の表情が明るくなり、僕の頭の上に飛び移った。

どうやらそこが気に入ったらしく、僕が歩き出しても頭に座っている。


光の筋を辿りながら、通る木々に印をつけ、俺は森の奥へと進んだ。

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