円卓会議
翌日。委員長集会の時間になり各々が各委員長を連れて集まった。
俺と一緒に行くのは保健委員長。任命は3年生のSクラスの生徒にした。
この学校で1番回復魔法を得意とする生徒を先生に教えてもらったところ、その生徒だったのだ。
容姿は日本人風。美形の部類に入るのではないだろうか。しかし右目に眼帯を付けており、綺麗な顔は全ては見えない。
長い黒髪をポニーテールにし、静かに歩く軽やかな女生徒である。
集会は生徒会庭園で行われた。
一般生徒は普段立ち入ることの無い場所。それ故に特別感を出すのにはもってこいだった。
俺の後ろで緊張気味の先輩にひと声掛け、談笑しながら庭園へ。
その途中でふと見覚えのある後ろ姿を見かけた。
「フラン?」
「ん?おー、シアン!」
俺の声に気付いたそいつは立ち止まる。
それから、いつも通りひとつにまとまった赤髪をふわりと浮かせ、フラン・マッケンジーは振り返った。
「なんでフランがこっちに?一般生徒は空きコマになった筈だけど……。」
「あぁ、なんかアガットさんに図書委員長やらないかって言われて。だから俺も委員長会議に行かないといけないんだよね。」
唯一生徒からではなく図書司書であるアガットさんから指示を受ける図書委員長。
なんとその職に俺の友達であるフランが着いていた。
正直フランほど時間のある時に図書館に行く人は俺を除いていない。不思議ではないことだけれど、それでもBクラスのフランがこういった役職に着けるのは驚きだった。
「Bクラスのマントは白に比べて目立つから、もしかしたら庭園内では気まずいかもしれないけど……。」
「分かってるって、それでも引き受けたんだからシアンが気にすることじゃない。」
「もし何かあったら絶対守るから。委員長になってくれてありがとな。」
委員長に着けばある程度の権力は握れる、それにその委員会によっては自己の能力が長けていないと務まらないものだ。
つまるところ、委員長になる生徒は殆どがSクラスだと予想出来た。Sクラスである生徒会役員が集めてくるのだからその人脈的なところも考えて。
かといってBクラスであるフランもこと本においてはSクラスの誰にも劣らないだろう。
しかし場の空気というものは違うものを嫌う。もしそれでフランが嫌な思いをしたら、それは委員会という組織を作り上げた俺の責任になるのでは無いか。
「そんな顔するな、俺は嫌な思いなんてしないし、したって職務を全うするつもりだ。」
俺の気持ちを呼んだかのようにフランは俺の肩に手を当てながら言った。
「それに、シアンがいるんだからもしハブられたところで仲間はいる。問題ないだろ?」
「フラン…ありがと。」
本当に見透かされているのだから驚かされる。
フランはとてもいいやつだ。こんな奴と友達になれて俺は嬉しくて堪らない。
「ところで、そちらはどこかの委員長さん?」
「ん?あ、あぁ。紹介が遅くなったね。
保健委員会の委員長だから、フランとは委員長仲間になるのかな。」
フランに言われて保健委員長を放置していたことに気付く。
お互い挨拶をして一緒に庭園まで行くことにした。
保健委員長は先程の話を聞いていたこともあり、Bクラスであるフランにも嫌な態度ひとつ取らなかった。
その後庭園につくなり保健委員長は俺の陰に隠れた。忍者みたい。
じゃなかった、恥ずかしがり屋さんのようだ。
フランも少し緊張している様子だったが、俺が腰を軽く叩くとニカッとこっちに笑いかけた。
「遅くなりました、生徒会会長弟子、保健委員長、図書委員長。到着しました。」
庭園内の建物に入り、会議室へ。
円卓に座っているメンバーを前に俺は宣言した。
会議室のようなものを昨日のうちに設置しておいたのだ。ちなみにここは昨日のお茶会の隣の部屋になる。
「よくいらっしゃいました。メンバーが揃い次第自己紹介の時間を取らせて頂きますのでまずはお席にお座り下さい。」
アッシュリー先輩がにこやかに、しかし威厳を持って発言する。会長の仕事をきちんと全うしていた。
俺たちはその言葉に従い、それぞれ委員会名の名札を置かれた席へと座る。
俺の席は会長の右隣だ。
各生徒会役員と弟子、その右隣に直属の委員長という形で円卓を囲んでいき、最後に、つまり生徒会長の左隣に図書委員長が座る。
まだ来ていないのはハース先輩と美化委員長だけだ。
会計であるキース先輩は先に来ている。委員長を連れてくるのは弟子の仕事だと誰が決めた訳でもないけれど、皆の所もそうしているようだった。
「すみません、遅くなりました。生徒会会計弟子、美化委員長。到着しました。」
席を眺めた頃、ちょうど扉を開いてハース先輩が入ってきた。連れている薄い緑色の短髪の低身長男性が美化委員長だろう。
「よくいらっしゃいました。これで全メンバーが揃いましたので自己紹介の場を取らせていただきます。美化委員長、ハース、席に着いてください。」
よく通る生徒会長の声が場を包み、その言葉を合図に生徒会本部初の顔合わせが始まった。
まずアッシュリー先輩が立ち上がりぺこりと一礼した。
「ではまず私から。5年Sクラス。生徒会会長、キングのカナメ・アッシュリーです。みなさんとより良い学校づくりが出来ることを期待しておりますわ。そして、」
トン、と背中を軽く叩かれて俺も立ち上がる。
「1年Sクラス。生徒会会長弟子のシアン・バークリーです。アッシュリー先輩の補佐をしつつ、皆さんと共に成長していきたいです。」
言い終えると2人で一礼。生徒会長という役職の自己紹介を終えた。
それから順に右回りに同じように自己紹介を続ける。正直名前を覚えることに趣は置いていない。役職と顔は一致が大切だ。
全員の自己紹介が終え、一瞬の静寂。司会でもある生徒会長へと向けられた視線を、生徒会長はそのまま俺へ流した。
「まず、僕が突然に言い出した委員会という生徒組織について。短時間で設立と運営が可能になったのはみなさんが集まってくださったからです。
ご協力ありがとうございます。そして、これからの仕事についてですが、皆さんの力を信じ、共に進んでいけたらと思っております。」
何をいえばいいのかわからないので取り敢えず組織を作った本人として挨拶をしておく事にした。
するとガヤ(キース先輩)から「堅苦しいぞー」とヤジが飛んでくる。
「えー、こほん。本日の集まりは顔合わせがメインです。この時間内に皆さん顔と役職を一致させるようお願いします。」
取り敢えず横の繋がりさえ作っておけばどうにかなるだろう。そんな感じに軽く発言をして、ふと目の前に座るウーズリーに違和感を感じた。
「では、それぞれ自由に雑談タイムとしましょう。」
会長はもっと楽観的で、丸投げで円卓会議は終わった。
しかし雑談タイムとは丁度良い。ウーズリーの顔色が曇っているのだから、同じクラスメートとして声を掛けたい所だ。
席を立とうとすると、隣からクイと袖を引かれた。




