始業準備
教室に入るとウーズリーが席で腕を組みながら入口を向いていた。
このクラスは俺とウーズリーのみ。つまるところ、もし待っていたとしたら俺を、ということになる。
「ウ、ウーズリー?」
「バークリー、貴方あのBクラスとはどういった関係?」
恐る恐る声をかけると、待ってましたと言わんばかりにウーズリーは声を荒らげた。
あのBクラス、というのはフランの事だろうか。
「フランのことなら、入学前に仲良くなった友人だよ。それが、どうかしたの?」
「あらそう。ご友人なら忠告しておくわ。貴方のためにも彼の為にも、あまり関わらない事ね。」
「……は?」
関わりを持つな、というのはフランと、という事だろう。
しかしフランは何か悪いことをしたか?
そもそも、ウーズリーは今朝フランとすれ違った程度のなんなら顔見知りでもないはず。
もしくは、同郷…でもないか、ウーズリーはもともとこの街の人間だ。では何故。
「勘違いしているようですが。私は何も彼だけをしている訳ではありません。私以外の生徒と、ということです。」
ん?何、ヤンデレ的な奴ですかね。
ウーズリーとそんなに仲良くなるイベントも発生してないし、何より俺ウーズリーのこと全然知らないから交際とかどうこうの話にもならないと思うんだけど…。
「いい?この学校が能力でクラス分けされている理由、それは魔法争いを避けるためなの、分かってる?」
「へ?魔法争い?」
聞き馴染みのない言葉に思わずオウム返しをしてしまった。
「魔法には己の魔力とは別にスペルが必要よ。そのスペルは使うものが少なければ少ないほど稀であり高い威力を持つ。そして、魔法は全てに汎用されるの。」
ウーズリーの説明によると、各教科において高いスコアを出すということは、希少なスペルを使い且つそれが使いこなせないと出来ないことらしい。
武術においても、早く動く相手を捉えるのには魔力がこもった目が必要だし、相手を殴る際には魔力のこもった闘気を纏う。
薬学なら調合時に、音楽なら奏でるメロディーに、というようにどの分野においても無意識に魔法は必要不可欠なものとなっているのだった。
そして、それらで高い点数を叩くSクラスは魔法のスペルが狙われやすい。
といっても、盗むではなく、継承狙いだ。
弟子入りあるいは結婚。そうすると強いスペルを一緒に使わせて貰う儀式が行われる。それが継承。
そしてその儀式は、時には無理やり行われることもある。それが魔法争いだ。
「つまり、魔法争いが起こらないよう、ある程度のレベルで生徒を分けて接触させないことにより守ってるのよ。分かった?」
「それは、別クラスの人と関わると魔法争いに巻き込まれる可能性がある…ってことかな。」
「そうよ、そう言ってるじゃない。」
なんだ、恋愛イベントじゃなかったのか。
ウーズリーなりに心配しての言葉だったようだ。でも、
「そっか、ありがとう。でもね、フランは大丈夫だよ。」
「な、なんで言いきれるのよ!」
「だってフラン、スペルは多分一流だもの。」
「は?だって、Bクラスよ?」
と、ここで会話を切るようにマッケンジー先生が入ってきた。
挨拶をして先生は教壇に登り始業の準備を始める。
「あのね、ウーズリー。フランのフルネームはフラン・マッケンジー。」
「マッケンジー…?」
「そう、赤髪の、耳長族の、マッケンジー。」
ちらっとウーズリーはマッケンジー先生を見て、その後空を見る。きっとフランの顔を思い出しているのだろう。
「つまり、マッケンジー先生の弟か、息子?」
「そう、この学校で1番成績のいいクラスの魔法の授業を担当しているマッケンジー先生の、だよ。多分だけど。」
フラン・マッケンジーとフィニアン・マッケンジー。
同じ赤髪で同じ種族の同じ名前。多分、血族だろう。ならば同じスペルだ。
この学校の中で、優れた魔法を使う先生の血族であれば、僕らとの魔法争いとは無縁に違いない。
「ま、確認はしてないからまだ言い切れはしないけど、でもそういうことだよ。」
心配してくれてありがとう、と言葉を添えた所で始業のチャイムがなった。
先生の声に従い起立礼をし着席。点呼…といっても、2人だけなので先生が確認をしたところでホームルームが始まった。
隣にいるウーズリーは何故か顔が赤く下を向いていた。




