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冷たさ

「ムイ様、ご機嫌いかがでしょうか」


細く高い声に、ムイは振り返った。ガゼボの中、ムイは期待した声と違っていることに落胆はしたが、直ぐに自分を立て直し返事をした。


「はい、元気です」


ムイは、後ろに立っているユウリを振り向きながら見上げた。


「……ユウリ様は?」


朝早く、ムイがガゼボに寄ったのを客室の窓から見ていたのだろう、ユウリは白いシンプルな寝間着を着ていた。一枚の布に、ユウリのふくよかな身体のラインがくっきりと浮かび上がっている。


その寝間着に、金糸のような真っ直ぐの金の髪が降りかかり、朝日に照らされてキラキラと輝いている。

髪が、ユウリがニコッと笑った拍子に肩から、流れるように滑り落ちていった。


(……溜め息が出るくらい、綺麗な人)


ムイは、自分の腕を見た。細く丸みのない身体。


ムイが初めてリンデンバウムの城に連れてこられた時は、もっと痩せこけていて、みすぼらしい格好だった。


(ここへ来て、しっかりと食べさせていただき、それでここまで……)


腕をひっくり返す。


(それでも、ユウリ様に比べれば……)


「ムイ様、ムイ様は本当にリューン様とご結婚されるおつもりですか?」


突然の内容に、咄嗟に返事が出来なかった。ムイが言葉を探していると、ユウリが矢継ぎ早に言葉を発していった。


「国王陛下がムイ様を呼び寄せたいと申していました。このような辺鄙な地におられるより、国王陛下の元へ行かれた方が、ムイ様にとってもお幸せではありませんか?」


「ですが、私はもう歌を、」


「陛下の元で、少しずつ歌を取り戻せば良いのです。陛下がきっと良い医者を当てがってくださいます」


「わ、私はリューン様のお側に、」


ムイは慌てて言った。ユウリの強引さに反抗する気持ちも出た。思いも寄らぬ大きな声に、ユウリも少しだけ怯んだ。


「ムイ様、ご結婚はいつのご予定ですか?」


「……私、私にはわかりません」


「詳細はまだ決まっていないようですね。では、それまでにリューン様に好いてもらわなければ」


はっと、顔を上げたムイの視線に、冷ややかな表情のユウリの視線がぶつかった。


「リューン様はお優しくてとても素敵なお方ですね。お噂はかねがね耳にしておりました。不幸な領主様というのと同時に、とても見目も麗しく素敵な方だと。まさにその通りでございました。わたくし、リューン様に恋してしまいましたの。わたくしなら、リューン様の奥方に相応しいと思うんです。だって、わたくし、」


ユウリが、口元を上げる。


「ローゼンタール家の第二王女ですから」


「え?」


訊き返したムイに、ユウリは言葉を浴びせかけた。


「そうです。わたくしの父は陛下ととても親しくさせていただいております。リューン様には何もお聞きではいらっしゃいませんか? 最近は、リューン様とムイ様がお話しする姿をお見かけすることもありませんが、本当にご結婚を?」


呆然とする。


ローゼンタール家は、国王の側近において代々その地位を受け継いでいる名家だ。


ムイが国王の歌姫として王宮に在籍していた折、何度かその名前を耳にしたし、反対に王宮の大広間で歌を披露したこともあるので、もちろん側近であるユウリの父親も、ムイの歌を耳にしているだろう。


「陛下よりムイ様をお連れするようにと仰せつかっておりますし、それに、」


ユウリは肩から滑り落ちた髪を両手で掴んで背中へと回した。


「リューン様との結婚に賛成してくださっています。もちろん、このわたくしとの結婚です」


「…………」


「上手くいくと思いますの。ムイ様が陛下の元で歌姫の名声を取り戻すことと、わたくしがリューン様の妻になることのどちらも」


ムイは頭を殴られたようなショックを受け、動けなかった。


「その方がムイ様にとっても最良の選択だと思いますし、」


ユウリはくるっと踵を返した。


「リューン様にとっても、幸せだと思いますけど」


ムイは呆然としながら前を向いた。考えがまとまらず、視線は宙をふらふらとして、定まらない。


ただ、ガゼボのベンチがひやりと肌に冷たかったのは覚えていた。


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