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開戦-勇者対魔物②


「しっかし凄い数だな・・・」



 ドラン連邦国と旧レムリア皇国の境で佇む異世界勇者達。その内の一人がこぼした独り言に反応出来た者は居なかった。当初は数千と思える数だった魔物軍はあれよあれよという間に目の前を覆い尽くす程の軍勢となっていたのだ。

 どうやら見回りが発見した魔物達は先行する斥候だったようだ。後ろから進む本隊が合流した敵軍は視界に納まらない程に膨れ上がっていた。



「う・・・あ、あ、・・・」

「そ、そんな・・・」



 彼らに同行していたドラン連邦国の騎士達5000人からは声にならないうめき声が聞こえてくる。



「心配しないで。まずは私達が遠距離から魔法で一気に攻撃します。あれだけ広がっているんだから良い的だわ。それだけでかなり減らせると思うから。」



 ミユキが騎士達に声を掛ける。自分達は常人よりも強力な力や魔力を持っているが、同行してきた騎士達はそうでは無い。あまりの敵の数に恐怖しているのは当然と言えた。



「おい、あれマジでやるのか?無理じゃね?」

「ああ、逃げた方が良かったりして・・・」



 なにせ自分の同級生達もがしり込みしているのだから。



「もうっ!昨日も言ったでしょ!やるしか無いって。私達はもうドランの一員として既にほかの国と戦っているのよ?今更逃げたって無関係で通る訳無いじゃない。寧ろ皆で集まってる方が安全よ、仲間から逸れた敵兵なんて嬉々として襲ってくるわよ?」



「まあ、そりゃそうか・・・」



 まるで緊張感の無いやり取りを見て騎士達も少し落ち着いたようだ。なんとか戦意は折れずにいる。



「まずは私達が一斉に遠距離から魔法で攻撃するわ。私達ならそれで1500匹くらいなら攻撃することが出来る筈。」



「おおっ、さすがは勇者殿!」

「ああ!頼もしいぜ!」



 口々に騎士達は異世界人を褒め称えている。さっきまでの会話が事実なら仮に敵軍が10万いようが70回足らずの魔法で殲滅が可能なのだから。そして異世界から召喚された彼らは莫大とも言える魔力を持っており、全員が優に100回以上の魔法の連続使用を可能とする。決して分が悪い賭けでは無いのだ。


 要は敵が距離を詰めるまでにどれだけの魔物が削れるか


 それが戦局を左右することになるだろうと。敵にも魔術師は居るだろうが、射程距離と威力では負けない自信が彼らにはある。それは数年もの間、この過酷な世界で生きてきた彼らが持つ矜持なのだろう。仲間を助けるためにある者は襲ってきた盗賊を殺し、また別の者は対立する貴族に嵌められた仲間を助けるため護衛の騎士や兵士を殺した。

魔物以外にも対人戦の経験も積んだ彼らは、クラウド戦以降負けたことなど唯の一度も無い。



「それじゃあ全員戦闘準備に入ってくれ!射程距離に入った魔物には遠慮するなよ!」



「「「おおっ!!」」」」



 ナオキの声で全員が戦闘態勢に入っていく。それぞれに割り振られた範囲に侵入した相手を殲滅すべく彼らは出発前に決められた配置についたのであった。





 そして遂に魔物の群れの侵攻が始まった。



 当初離れたところからの魔法の打ち合いが予想されていたが、実際は何の支援も無く魔物が突っ込んでくるだけであった。これに異世界人達は敵側の策を疑ったが、そもそも聖十字国にとって魔物とは使いつぶすための捨て駒である。その魔物を助けるために援護しようとする者など居なかったのである。


 予定通り射程距離に入った魔物達に向かってドラン陣営から魔法が放たれ始めた。今ここに聖十字国が『聖戦』と呼ぶ戦いが始まったのであった。




□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ 


 その後、1ヶ月に渡る戦争の結果がユーテリア王国に届くことになる。



 ドラン連邦国の敗走という形で。





「むぅ・・・」



 難しい顔をして報せを受けているのは国王アンドリューであった。聖十字国の侵攻を知ったアンドリューは各地に密偵を放ちつぶさに聖十字国の動向を掴んでいた。そのためどの様にドラン連邦国が敗れたかを知る事が出来たのだ。


 敗因は非常にシンプルであった。『物量』である。魔物の侵攻が始まった当初、異世界人の勇者達はその圧倒的な実力で聖十字国の聖魔兵を抑えこんだ。ある者は無数のファイアーボールを周囲に浮かべオークやゴブリンを一度に数百体も焼き払った。またある者はファイアーランスといった上級魔法で敵を焼き払ったという。


 しかし倒しても倒しても次々に補充される魔物兵。その結果、ドラン連邦国の切り札である異世界人達に疲労が蓄積し一旦態勢を整えるために兵を引いたのであった。


 どれほど強い異世界人でもその数は僅か20名程度である。


 聖十字国にとって彼らの精神をすり減らすことは比較的容易かったようだ。しかし、それでも彼らは魔物兵の内実に5万を超える損害を叩き出していた。


 ゴブリンやコボルトといった低位の魔物は次々と討伐され焦った聖十字国はオークとオークの上位個体、オーガを戦場に投入する。しかしそれさえも撃破してのける異世界人達、まさに勇者の肩書は伊達では無かった。


 だが下位魔法で討伐出来るゴブリン等とは違い上位個体との戦闘は激戦となる。


下位魔法の連射では薙ぎ払えなかったのだ。威力を引き上げるために彼らは繰り出す魔法により強い魔力を込めた。その結果魔力を込める時間は手数の低下に繋がり魔物の接近を許してしまう。

敵の前衛が異世界人に襲いかかった時、後ろから聖十字国の魔術師達からの魔法までもが襲いかかった。


異世界人達は接近した魔物の対応に追われ、遠距離から撃ち込まれた魔法にまで対処出来なかったのだ。


しかし、それでも数万体の魔物と5000人を超える魔術師に襲われながら壊滅的なダメージを負わず撤退してのけたことは流石と言えるだろう。


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