接敵
すいません!パソコンとスマホが同時に壊れるという非常事態で全く更新できませんでした!何とか修理も終わりましたのでこれからも何とか更新していけたらと思います。どうぞお付き合い下さい。
復讐を誓った憎い相手にようやく会えた事で凶悪な笑みを浮かべるハンク。
その進行を妨げるように立つバダック。
互いが不倶戴天の相手である両名。一見すると現状ではハンクが圧倒的に優位に見えた。ここに来るまでの間に遭遇した魔物達を眷属化する事で手に入れた手下を引き連れているし、更には自身と同時に追放された元王国貴族が4人。つまりハンク側の戦力は下級吸血鬼5体と魔物30体である。それに比べて相手はバダック1人なのだ、ハンクの表情は負ける気がしないとでも言わんばかりに笑みが浮かんでいる。
しかしそこでハンクはおかしなことに気づく。
「・・・お前何故一人でこんな場所にいるのだ?」
不意に口をついて出た言葉。勿論それに答える義理はないバダックは無言であるが。しかし、貴族であるバダックが1人で街の外という危険地帯にいる理由が分からない。それも会ってすぐに自分達を止めようとしたことを考えれば相手の目的がそれだったということである。
不信感は警戒へと変わる。
不穏な空気を感じた他の下級吸血鬼も警戒し始める。下級吸血鬼の内の一人が魔物にバダックを取り囲むよう指示を出した。
しかし魔物に周囲を囲まれてもバダックに焦った様子は無い。それを見て不愉快気な表情を見せるハンク。それも当然である。彼はバダックの慌てる表情や後悔にむせび泣くところが見たいのだ。そのためにミルトアへ向かう時に色々と計画を立てている。
当初はバダックが何より大切にしている妻エリスを攫い、取り返しに来たバダックの前でエリスを凌辱するつもりであった。しかし先にバダックに出会った以上無視して通り過ぎることなどハンクに出来る筈が無い。
戦闘態勢を整える中数人の下級吸血鬼が自分達を率いるハンクに近づいてきた。耳打ちするように会話した後、それにハンクが頷いたところでようやく準備は整ったようだ。
「バダーーッック!!貴様はすぐには殺さん!嬲って嬲って嬲って嬲り尽くしてくれる!貴様がどうぞ殺してくださいと懇願してきた時、私の奴隷へと変えたエリスの手で首を刎ねさせてやるわ!」
品格など微塵も無くなった元王国貴族が大声でバダックに言葉を投げかけた時、バダックは初めて目の前にいる男の狙いが自分だけでは無いと知った。
他にも譲れないものは多々あるが、バダックにとって最も許すことが出来ないもの。それが家族である。だからこそ家族を何より大事にするクラウドと馬が合うのだろう。ハンクの言葉を聞いたバダックの顔は怒りに染まっていた。
「・・・毒を盛るだけでは飽き足らず・・・、よくもそこまで言ってくれたな!かつては王国貴族として同じ国に仕えた者と思い情けを掛けてやる気でいたが、もはやこれまでよっ!ハンク・ベリティス、いや、吸血鬼ハンクよ!貴様だけは何があろうとこの場で仕留めてくれる!」
言葉と同時に駆け出したバダック。周囲を囲まれた場合、同時に掛かってこられるから危ないのであって自分から敵に向かっていけば後方の心配は無い。あくまでも後ろの敵が追いつくまではであるが。
突進してくるバダックを見てハンクが指示を出した。
「オーク達は前へっ!」
ハンクが引き連れている魔物はゴブリンが16体、オークが8体、コボルト5体と複数いるが中でも目玉は間違いなくそれであろう。人間よりも二回りは大きい引き締まった体躯に頭部から伸びた2本の角。周囲の魔物の生息地の中では群を抜いて危険度の高い魔物大鬼である。
2体のオーガはハンクの左右を固めておりその周囲にオークが、バダックの周りをゴブリンやコボルトが包囲している。狙いは非常に分かりやすい。比較的動きの早いコボルトや小回りの利く小さな身体のゴブリンを後ろに配置したのはバダックがどこか一方へ進んで囲いを突破しようとした時への備えであろう。ハンクに向かってきた時は生命力が強くタフなオークが突進を止めてオーガが襲い掛かる算段なのであろう。
しかしバダックの取った行動はそのどれでも無かった。
距離を詰めていた筈のバダックが止まったのである。オークを見て警戒したのかと思ったハンクを余所にバダックはその距離で剣を抜いた。
青い柄に葉が重なるような意匠が施された黒の鍔には金色に光るラインが浮かび上がっている。
「いくぞっ、【落雷】!」
バダックはクラウドよりライトニングソードを譲られて以来、その習得に腐心してきた。しかし魔法を扱う立場に無かったバダックは剣に魔力を流す時にどうしても極度の集中を要するため一瞬足が止まってしまうのである。いつかはそのロスを無くして使いこなす程になりたいと思ってはいるようであるが、現状ではそれは無理というもの。そのため後方からの攻撃を警戒して距離をとるため前方に走ったのであるが、そもそも何の情報も持たないハンク達がそれに気づける筈が無い。かといって、多分大丈夫だろうなどという不確かな考えで戦場に立つバダックでは無いが。
バダックの発声で胸の前で掲げるように構えた剣から4本の稲妻が奔った。
ズガアァアン!!
「グゥアアァァァアッ!」
「ギィヤァアァァッ!」
ハンクの前を固める肉の壁ともいうべきオーク達が雷により薙ぎ払われる。直撃したオークはもとよりその周囲にいた個体さえも巻き込んで致命の一撃を与える。
元よりクラウドの手により作られたライトニングソードの性能は現代の魔剣などでは及ぶべくも無い性能を持っている。
魔法を操るタイプの魔剣は注がれる魔力に反応しその属性魔法を操る力へと変える。通常は注ぐ魔力が多ければ多い程威力は上がるのであるがそれでも上限というものがある。しかしライトニングソードには上限が無かった。いや、正確には上限はあるにはあるが、その上限となる魔力量はクラウドを基準に作られている。クラウドが全力で戦う場合を想定し、全魔力量を注ぎ込んでも使用可能なように設計されている。
さらには使用者への魔力回復の補助効果を持ち使用者の魔力欠乏をフォローしてくれる。あげくにその補助効果はクラウドの魔力を回復させる目的で作られているためバダック程度の魔力なら0.01秒もあれば全快させるほどの効果を持つ。
つまりバダックは・・・
「うおぉぉおぉぉおぉぉおおお!!」
怒りを含んだ声が周囲に響く。それと同時に構えた剣からは雨あられと雷が降り注いだ。全力で魔力を込めた場合、威力を重視すれば発生させられる雷は4本が限度であったが何の問題も無いようだ。打ち放題ともいえる雷を所狭しと降らせていく。
剣から飛ぶ雷が止んだ時、周囲の魔物は殆どがその場で屍を晒していた。ハンクが頼みとしていたオーガでさえ既に事切れている。
ここで初めてバダックは我に返る。
バダックは当初落雷を魔物の足止めに使い剣術で戦うつもりであった。魔剣の力だけで戦うのは剣士としての矜持が良しとしないと考えていたことと、クラウドから聞いたエーテルコーティングによる剣の切れ味を試してみたかったというのが理由である。しかし、蓋を開けてみれば怒りに我を忘れてのこのありさまである。
「・・・やれやれ・・・。俺もまだまだだな。エリスやクラウド殿には内緒にしておくかな・・・」
人には言えないような痴態を晒したと思っているバダックの前でハンクは口を大きく開いて固まっている。
「な、な、なんだそのふざけた魔法は!いや、それより貴様が魔法など使える筈がない、一体何をしたのだ!!」
「貴様などに説明する必要などあるまい!」
あっという間に間合いを詰めたバダック。振り上げた剣を一呼吸で振り下ろし、そのまま跳ね上げた。その結果、両腕を切り落とされたハンクが悲鳴を上げた。
「ぐあぁあぁぁぁ!きっ貴様ぁ~!」
「ここまでだハンク。観念してもらおうか。」
「・・・ふっふっふ・・・くくくっ!はーっはっはっ!」
「何がおかしい?気でもふれたか?」
両腕を切り落とされたハンクが突如として笑いだす。バダックがその理由を考えた時であった。
不意に気づいたこと。それは周囲に転がる魔物の屍である。
「っ!しまった!一体いつの間に!」
周りで倒れているゴブリン、コボルト、オーク、オーガの屍。それを見てバダックが声を荒げている。
最初に居た筈のハンク以外の下級吸血鬼の姿が見えないのである。
「馬鹿が!最初に貴様を囲む時の動きに紛れて先に進んだわ!我々には影移動があるからな!今頃はエリスを裸にひん剥いている頃かもなぁ、バダァ~クッ!」
「なっ、き、貴様!!」
「全くもって忌々しい。本来なら押さえつけた貴様の前で凌辱しないと気が済まないと思い奴らに攫いに行かせたというのに。まさか人質として使う羽目になるとはな!だが、結局はこうなる運命なんだということよ!貴様は私達によって報いを受けるのだ!はーっはっはっ!」
バダックは自分の愚かさを悔やんでいた。大切な者を守る為の力だというのに・・・。しかも今のエリスの横には最愛の息子アレックスがいる。それに気づかない奴らではないだろうし、気づけば見逃すはずも無い。例えこの場でハンクを討とうが家族が殺されてしまえば何の意味も無いのだ。
「・・・どうすればエリスを助けて貰える・・・?」
悲痛な表情で絞り出した言葉。それを聞いたハンクがニヤリと笑みを浮かべるのであった。
普段の生活でネタが出来たらスマホのメモに残していたんですが、スマホが使用できなくなったせいで控えを取るまでの間に忘れたネタがかなりあります・・・
ナケルー




