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許されざる者

 クラウドの話しもひと段落した時、アンドリューが休憩を取ろうと言い出した。腕を引きちぎられ部屋に倒れていた騎士は既にクラウドが治療を終われせているが、部屋には血痕がべっとりと付着している。

 自分達大人はともかく殺伐とした雰囲気では子供達の気が休まらないと考えたアンドリューが一息つくために休憩を兼ねて場所を移ろうと言い出したのであった。


 アンドリューの私室から会議室へと移る時、リリーを除くエドワード達王太子は誰もクラウドに話しかけることが出来なかった。


 見せつけられたのは圧倒的な実力差。


 自他共に王国随一と認める使い手ソフィアさえが俯いたまま顔を上げない。相手の技量を見誤った挙句に嘗ての仲間を死地へと追いやったことと、その後で見せられた異次元ともいえる攻防にショックを受けているようだ。

 以前にエリックが言っていた「クラウドを怒らせてはいけない」と言う言葉の意味をその場の誰もが実感していた。

 それと同時に彼らの取り巻き貴族から聞いていた「胡散臭い魔術師」や「取るに足らない平民」などと言う批評を思い出し怒りを感じていた。その言葉を真に受けていたらどうなっていたか、それを考えるだけで背筋が冷たくなる。


 しかし決して恐れている訳では無い。ただ、彼らは今まで実力者とは自分達に寄ってくるものと思っていたのだが権力に固執しないクラウドとどう接すればいいかが分からないようだ。



「しかし凄かったな・・・」

「ああ、ドランで助けられた時にその実力は聞いていたが、実際に見るとまた凄い。まさに桁違いっていうやつだ。」



 長男エドワードと次男ヘンリーが話しあっている。その横で三女リリーと次女オリヴィアも話しに花を咲かせている。最も驚くオリヴィアに胸を張りながら「凄いでしょ?」と自慢げなリリーの仕草にクラウドは思わず笑っているようだが。


 皆が話しをしている中でソフィアだけが俯いたままであった。今までは自分が強いと信じて疑わなかった彼女は今未知の領域を目撃したことを受け止められずにいるようだ。「私は一体何を見たのか」とブツブツ呟いている。



 会議室へと到達した一行が用意されていたお茶を飲んでいる。随分とゆっくりしているが、実は話し合う事などもう1つしか残っていないのだ。



「それで、先程の続きなのだが・・・」



 アンドリューの言葉で再開した会議はやはりこの危険な吸血鬼の処分をどうするのか、その一点に尽きるものであった。


 再度の話しあいの末、結局はクラウド預かりとなったこの吸血鬼。主な理由は、攫われた被害者たちが殺されずに生きていたこと(吸血鬼のスキル『血の隷属』により下僕へと変えられていたが)が大きかったようだ。

 そのスキルもクラウドが解除を確約。速やかに王城へと返すと言ったことでアンドリューが折れてくれたのであった。


 


 そして話しも終わりもう帰ろうかとしている時にそれは発覚した。きっかけはクラウドが何となく聞いただけの世間話のようなもの。



「そういやお前って攫った人達以外で知り合いっているのか?」



 自分が預かる以上、知人がいるなら挨拶くらいしに行こうかという話しになった時であった。その吸血鬼がした発言がアンドリューの表情を一変させた。



「は、私を解放した者くらいでしょうか。どうしても力が欲しいというので解放した褒美として眷属へと変えてやりました。」



 そもそも、過去に魔法使いが施した封印は吸血鬼自身の力で破れるものでは無い。ならどうやって解放されたのか?


 本人が言うには協力者が居たという。そしてその者はある相手へ復讐するために力を欲していると言ったらしい。


 吸血鬼を縛り続ける封印は当初は魔法による封印であったのだがある日魔導具での封印へ変わったらしい。理由は魔法は一度不測の事態が起こって解除されれば再度封印するのに同じ魔法を仕える魔法使いが必要であるが魔導具ならばその必要が無いからというもの。封印を施した魔法使い自らが作った魔導具が持ち込まれ、歴代の長がそれを所有してきたという。


 そしてその拘束用魔導具は一定の場所に魔水晶と呼ばれる水晶を配置することで封印が発動するものだったという。


 つまり、封印の外にいる人間は魔水晶の位置を変えることで簡単にそれを解除することが出来る。だからこそ、その場は秘匿され続けて来たのだ。最初は村長、しばらくしてから町長、領主、法王と歴代のトップの人間しか知らない場所に封じられてきたのである。


 そこまで話した時、アンドリューが声を荒げた。



「ちょ、ちょっと待て!法王だと!?お前まさか封じられていたのは聖十字国かっ!?」



 今の国の名など知らんと言いたいが、確かにいつかの法王がそんな名を言っていた気もするという。というより、現存する国の中でトップを法王が務めるなど聖十字国だけである。

 国が封じていた魔物に逃げられた上に、ユーテリア王国が被った被害は洒落にならないレベルである。なんせ一歩間違えれば王都が消し飛んでいたのだ。アンドリューが怒り狂いそうになった時であった。



「ちょっと待て。嫌な予感がするな・・・。お前、そいつがどうやってお前の事を知ったか聞いたか?」



「はい。我が封じられていた村に流れてきた男らしいのですが、村の司祭に大金?とやらを渡して聞き出したとか言っておりましたが。」



「もしかしてこの街に魔術師団があると教えたのはお前を解放したやつか?」



「?はい、左様でございます。」



 クラウドの質問にそうだと答える。



「クラウド殿?」



 エリックが不思議そうに尋ねる。



「エリックさん、聖十字国ってのは信仰心があついやつらの国なのかい?」



 自分の質問には答えて貰えなかったエリックであるが、それを不満に思う筈もない。現在この国で最もクラウドの扱い方を知る男の対応は流石であった。



「いえ、以前は確かにそうでしたが。最近、特にここ数年は急速に俗世化している印象を受けますね。事実私が放っている密偵も賄賂次第でかなりの権力者たちに取り入って情報を仕入れてきますし。」



 完全に国の機密であった。



 何の躊躇いも無くそれを話すエリック。しかしアンドリュ-がそれを咎める様子は無い。エリックが話したという事は必要と判断したということ。クラウド専門の外交官に任命したのは伊達では無かった。



「クラウド殿、一体何を心配しているのだ?」



 アンドリューがそう尋ねた時であった。突如エリックが声をあげる。



「ま、まさかっ!!」



 揃っているのはあくまで状況証拠である。しかし、その協力者の願いを目の前の吸血鬼が聞き入れたというなら、その協力者と吸血鬼はある程度意思の疎通が出来ていたということ。

 ならばこの吸血鬼が求めているものが強い力を持つ騎士や強力な魔力を持つ者だと聞き出している可能性は高い。もしそうなら魔術師団を餌にこの吸血鬼をユーテリア王国にけしかけることが出来る。



「次はエリックか?だから一体何を言っているんだ!?」



 進まない問答にエドワードが痺れを切らしたようだ。



「はい、エドワード様。おそらくクラウド殿が考えていることも同じでしょう。私はその協力者に心当たりが御座います!」



「な、何だとっ!!本当かエリック!!」



 今度はアンドリューが声をあげた。



「は、まず間違いないかと。我が国では無い聖十字国にいること、賄賂など簡単に行うであろう程に金に汚く、魔術師団を餌にこの吸血鬼をこの王都へとけしかける。更には復讐する相手に勝つために力が欲しいという話、つまりは恨んでいる相手はかなりの使い手という事。そのような男がただ一人おります。そうでしょうクラウド殿?」



「ああ。そういうこったな。」



 そこまで聞いてようやくアンドリューも一人の男を思い出していた。



「ま、まさか・・・」


 アンドリューの呟きを聞きながらクラウドが吸血鬼へと最後の質問に入る。



「おい、そいつの名前は憶えているか?」



「あのような矮小な者の名など・・・。申し訳ないですがよく覚えていませんな。・・・確か・・・ハンクスとか何とか言ったような・・・」






 ハンク・ベリティス。それはかつてバダックの妻エリスに毒を飲ませていた王国貴族である。敵国の侵略戦争に備えるようアンドリューから勅令が出たにも関わらず、王国の重要戦力であるバダックへ行っていた仕打ちにアンドリューが激怒し爵位・財産を没収した上で王国を追放された男であった。




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