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幕間–6 古代の吸血鬼

<???サイド>

 かつては好き放題生きていた。敵対する相手は人間だろうと魔物だろうと例外無く息の根を止めてきた。


 満月の夜ならばドラゴンの鱗さえ指の力だけで引きちぎることさえ可能。まさにあらゆる存在の頂点に立つ存在。自分を止められる者など皆無と信じて疑わなかった。



 力こそが全て。それこそが世界の真理なのだ。



 不死王ノーライフキング、夜を統べる者、命を司る大妖等々・・・付けられた異名は数えきれない。他を圧倒する実力であらゆる相手を向こうに回して叩き伏せてきた。



 そもそも吸血鬼に生殖機能は無い。種族は眷属化によってのみ増やすことが出来る。他種族を眷属へと変える力を持つ『牙』は吸血鬼にのみ持つことが許された力。どれほど剛性が高い鱗だろうと堅牢で頑強さを誇る皮だろうと容易く突き立てることが出来る。



真祖の吸血鬼ヴァンパイアロード



 それが自分の種族。かつて凄腕の魔術師だった人間が転生を果たした姿。命を全て魔力へと変え、圧倒的な強者へと生まれ変わる秘術。それに辿り着いた時使う事に躊躇いは無かった。


 気に入った者達を眷属に変えながら気の向くままに生きる。それが日常であったが、いつしか虚しさだけが残っていた。


 かつては狂う程に恋焦がれた。それは『強者への憧れ』。しかし自身が強者へと変わったことで強さへの憧れはいつしか消えていた。新しい力を模索することもなく日々をただ生きるだけだった。








 不覚を取ったのはただの一度だけ。生涯で唯一の敗北が自分の未来を黒く塗りつぶした。どれほど昔の事かなど既に覚えてさえいない。


 絶対強者へと生まれ変わった自分の目の前に現れた3人の人間種。


 

 2人は問題にすらならない程の雑魚であった。問題はその2人が倒れた後に出て来た男だった。



 圧倒的な強者の自分に臆することも無く前に立ったその男。憎らしい程の余裕を感じさせる笑みを浮かべてゆっくりと近づいてきた。




 その実力は圧倒的だった。




 こちらの攻撃はただの一度も届くことは無かった。最強と信じていた牙すらがその魔法障壁を破ることは出来なかったのだ。繰り出されえる攻撃もまた異常。山から吹き出す溶岩さえ容易く防ぐほどの耐性を誇る身体がいとも簡単に傷ついていく。


 更に脅威的だったのはその戦術と魔法の実力


 なんとか攻撃を凌いでいたがこのままではジリ貧。そう考えたその吸血鬼は敢えて一撃をその身で受けることで距離を一息に詰めようと考えた。攻撃が直撃したことに油断するなら反撃の余地はあるとその一点に懸けた。しくじれば即死とも思える程の極大魔法が襲ってきたとき、全力を振り絞り防御力を引き上げた。


 周囲の岩さえ蒸発する熱を帯びた炎の塊がこの身を襲ったが、紙一重で死を免れた。「勝機!!」思わず心の中でそう叫んだその時、身体がピクリとも動かなくなる。確か箱舟を縛る鎖アークバインドと言っていたな。拘束すると同時に凄まじい負荷が身体を駆け巡った。ただでさえ大きなダメージを負った今の自分ではとても耐えられるものでは無かった。

 あの敵は自分が死を覚悟するほどの魔法を操りながら、耐えられた時の備えとしてその火球の中に別種の魔法を隠していた。同時に魔法を繰り出す二重詠唱という魔法を使うことで可能な技術らしい。何が「大きな魔法を使う時の隙に備えるのは当たり前」だ。いつ思い出してもむかっ腹が立つ。


 魔法の同時使用。その実践は正気の沙汰では無い。前に進みながら後ろに歩けと言っているようなもの。同じ魔法の連続使用とは次元が違う。違う魔法の同時使用とはそれほど困難なこと、言い換えれば不可能とされていたのだ。


 かつて自分が弱者と切り捨てた人の身でありながら・・・。ぐうの音も出ない程の敗北であった。


 次に相まみえることがあれば必ず乗り越えてみせる。倒れながらもそう心に誓った。久しぶりに心に灯った力への渇望。まるで心が躍り出すようだった。






 しかし、起き上がって来たあいつの仲間の一言がそれを打ち砕いた。「こいつは野放しにしておけない」と言い出したのだ。その結果、私は封印される。


 とても自分の力では抜け出せないほどの強力な封印


 何一つ出来ず拘束されるだけの日々。それは強さへの想いを抱いた自分には死に勝るほどの苦痛以外のなにものでもない。


 あの時の雑魚の一人が自分を見張るためだと言って残っている。どうやらこの場を地下にして上に建物を築き村を作る気のようだ。



 それから一体何年過ぎたのだろうか。村を治める者が役目を引き継ぐ時にこの場に来ては話しをしていく。それ以外で人を見ることは無くなった。いつしか村の長は街の長となりついには国の長がやって来るようになった。

 どうやら長い年月の中で自分を倒したのはこの場に残った雑魚ということになっているようだ。自分にはどうでも良いことだ。喋る事も出来ないし、出来たとしても教えてやる気は無い。あれほどの強者と戦った記憶はいつのまにか自分に唯一残る思い出となっていたのだから。


 だからこそ憎い。この場に自分を押しとどめる封印が。早く私をここから出せ!一体どれだけの時間を無駄にさせれば気がすむのか!血の涙を流す思いで心の中でそう叫び続けた。







 今日もまたあの日のことを思い出す。そういえばあいつは戦いの最後に何て言っていたのだったか?


 消えかけそうになっている思い出を手繰り寄せた時、何とか思い出すことが出来た。そうだあいつは確かに笑いながらこう言った。








『魔法使いをなめるなよ』








 今も捨てることが出来ないこの思い。必ずやなして見せる。いつか相まみえてみせるぞ、我が愛しき好敵手よ・・・







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