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求められた助け

 トント村では最近診療所の隣にある建物が出来ている。部屋が一つあるだけの簡素な作りで、その中には数人が一度に仕える長机が数個並んでいる。


 村の子供達にもある程度の知識を持たせた方が良いという名目でクラウドが講師を務める学校が出来ているのであった。最も現時点ではお試しということで一度に10人程度しか入れないのであるが。


 村での暮らしは少しづつであるが日ごとに改善している。農作物を育てているトント村の収穫率はクラウドのおかげで今まで以上に跳ね上がった。今まではわざわざ手間をかける必要など無いと言っていた村人達も次年度からは真似るであろう。そうすれば今後の村の暮らしは随分と楽になるはずだ。


 余裕が出てきた家が増えてきたことでクラウドは次なるステップに進んでいる。識字率の向上と基礎的な知識の習得である。クラウドが考える『基礎的な』がどの程度かは置いておくとして、知識を持つことは悪いことではない。これからの自分の進む道、その選択肢を増やしてくれることに大いに役立つとロデリックを説得した結果村人達から理解を得たのである。

 一部の村人からは「子供達には家の畑を継がせるため勉強など必要ない」という意見も出たが、「だからこそ勉強が必要だ」というクラウドの主張が受け入れられた形である。


 なんせ算術は収穫物の販売や経費の計算に必要不可欠である。今まで通りにするだけなら問題無いが、より安い種や苗の仕入先の見直し、売上の予測等、新しい農法による収穫量の予測、それに伴う次年度の仕入量の計算等出来ることは山ほどあるのだ。

 知識があれば交渉も出来る。


 今後の事を考えれば必ず役に立つはずであるが、人間とは悲しい生き物ということか。


 自分が出来ないことが子供には出来るという事実を受け入れ難い親は多いようだ。彼らの説得が一仕事であったが、結局は子供達が勉強出来るのも親が頑張ったおかげであると子供達にしっかり伝えるということを条件に了承を取りつけたのであった。




 そして現在、その学校では算術や文字が教えられている。しかしクラウドはその学校でいずれは魔法物理学や魔法術式構成学といった専門的な知識まで広めようとしているが、それを知る者は現時点ではまだ居ないようだ。


 また、ルークには家で教えられるために学校には参加させていない。その代わりに身体を鍛えるために走り込みをさせている。


 クラウドの持論の一つに『魔法とは体力である』というものがある。


 研究を続けるのにも体力はいるし、強力な魔法を扱った時には身体への負担も大きい。身体の強化は何をするにしても必要なことである。そのために現在ルークの空き時間は全てトレーニングに充てられている。



 いずれはクラウドに並ぶ程の使い手になりたいと願うルークの特訓が始まったのである。








□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 事件はある日の夕方に起きた。その日トレーニングを終えて休憩していた王選魔術師の一人。彼が同僚と話しをしている時のこと。ほんの僅か視線を外した隙にその同僚が消えたのである。驚いた彼は辺りを見回すが何も見つからなかった。声を上げ狼狽える中、駆け付けた騎士に事情を説明する。集まった者達で周囲を探すが同僚を見つけることも出来ず不審なものさえ何一つ無かった。


 問題はそれが起こった場所である。


 それはユーテリア王国の王都レインフォード、その王城で起こったのだ。それはまさに国王のお膝元。解決出来ないでは済まされない。それは国王さえ行方不明になる可能性があるということなのだから。


 ユーテリア王国の北部では似たような報告が相次いでいたことで人さらいの組織が暗躍しているのかもという噂が立っていた。しかし王城の中に犯罪組織が侵入するなど考えられない。何か不可解な現象が起きていると感じたアンドリューは自身の子供達へ王城から避難するように伝えるまでに発展する。


 しかしエドワードを筆頭に子供達は「王族が逃げるところなど臣下と民に見せる訳にはいかない」と強く主張し疎開を拒否する。良い跡継ぎが育っていることが嬉しいアンドリューであったが解決は火急の要件となる。


 あらゆる貴族がこの機会に王族と伝手を持とうと考え、事態解決に向けて動き出す。


 しかし、行った調査も考えた仮定も全てが空振りとなり、この一件は国の貴族達までもが注目するに至るのであった。


 いつ次の行方不明者が出るか分からない。そんな焦りが出始める中、きっかけはアンドリューの三女リリーの発言であった。



「ん、クラウドを呼べば良い!」



 家族で話しをしている中、リリーがとある田舎町にいる薬師を呼ぼうと言い出した。最もクラウドの実力はエリックにより既に国王初め貴族達の知るところとなっているが、クラウド自身が手柄や名誉を必要としないことに加え王都に居ないことで名前くらいは知っている程度の知名度であった。



「何!?しかしリリーよ、クラウド殿を呼んでどうするのだ?実力は認めるが、いくら強かろうと誰と戦えばいいかも分からんのだぞ?」



「ん、それも探してもらえば良い。」



 リリーは王族はおろか国中の貴族が注力しても分からないことを1人の人間にさせようとしていた。しかし、それは失敗すればせっかく高まったクラウドの評価に傷がつくどころか、反王家派の貴族達から攻撃を受けることとなるだろう。窮地を救われたエドワードがそれを良しとしなかった。



「待てリリー。今やこの一件は国中の貴族が注目している。これでクラウド殿が失敗すれば必ず彼に迷惑がかかるぞ。それを分かっているのか?」



「ん、でも・・・」



「まあ待てエド。クラウド殿に会いたいのは分かるが無茶を言うものではないぞリリー。彼にはただでさえ迷惑をかけておるのだ。」



 国の一大事なら助けにすがることもあるだろうが、貴族や王族の危機に国に仕えていないクラウドの力を借りる訳にはいかないとアンドリューは家族に告げる。唯一、家族以外でその場にいたエリックはその言葉に胸を打たれるが、それ故にこの問題は置いておく訳にはいかない。


 家族の話しの場にまで呼んでもらえるという事はそれほどに信頼しているということ。自分をそれほど評価してくれるアンドリューの身に危険が迫っているかと思うと気が気でない。




 その結果、エリックは独断によりミルトアの街へ助けを求める手紙を送るのであった。



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