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クラウド先生の魔法講座②

「す、するとクラウド殿は今魔術師達が使っている各属性を操る精霊魔法の他にも魔法があると言われるのか?」



「ああそうだよ。そもそも精霊魔法ってのは魔力そのものを自分だけで属性魔力に変えられない未熟な魔術師が使うもんだ。一番最初に精霊魔法を習得して魔力の操り方を覚えたら、そこから上位魔法や他の魔法を習得するのが普通だろ。」



「いや、普通と言われましても・・・」



 余りに予想外な答えが返って来たエリックが返答に詰まる中でエドワードが気になった事を聞く。



「つ、つまりクラウド殿が使っているのは精霊魔法では無いのですね?それより強力な上位魔法というやつですか?」



「いや、違うけど詳しくは内緒だな。」



 本来ならば使える魔法の情報などトップシークレットである。気遣いが出来ないエドワードに内心で呆れながらも答えるのであるが、



「えぇっ、ク、クラウドって精霊魔法以外の魔法が使えるの!?凄いなぁ~、何ていう魔法なの?」






 聞かれたところで答える筈が無い。




 本当ならば、であるが。しかし聞いてきたのがルークとなれば話しは別である。礼を尽くす立場のエドワードならば気遣いが無いと不快になるが、ルークは何の悪意も無く好奇心のみで聞いている。苦笑いを浮かべながらもクラウドは素直に白状することを決めた。



「俺が使えるのは上位魔法と召喚魔法、魔導具の作成時には秘伝魔法も使うよ。だけど一番得意なのは『源世の魔法』と言われる古代魔法エイシェントマジックだよ。ちなみに分類は禁術魔法だな。」



 衝撃的な告白が行われる中、ルークが素直に凄いと騒いでいる。



「・・・よろしかったので?」



 声をかけてきたエリックにクラウドは何の照れも無く返した。



「何を今さら。他の奴ならいざ知らず、俺はルークになら何をされても迷惑とは思わないし知りたいと言うなら何だろうと答えてみせるさ。」



 改めてその思いの強さを感じるエリックはクラウドの言葉を聞きながらルークの扱いを軽くすまいと心に決めていた。



「で、ですがクラウド殿自身がさきほど『禁術は人では扱えない』と言われていましたが・・・?」



 余りの内容に狼狽えながらエドワードが聞いてくる。



「うん?まあそうなんだけどな。使えるようになったんだから仕方ないだろ?」



 ルークへの返答との差に苦笑いが出てくるエドワードであるが、不思議と不快にはなっていないようだ。



「しかし普通なら何を馬鹿なと笑っておしまいですが、クラウド殿の実力を見たことがある者からすれば納得出来るというものですな。」



「あれ?ファンクさんも居たのか?何でそんな後ろにいるんだよ、分からなかったじゃないか。」



「あのですねぇクラウド殿。王族の方々を前にして自分が前に出て行ける訳ないでしょうが・・・」



 ファンクが呆れながら返答していた。



「クラウドは凄い!知ってたけど、本当に凄い!」



 騒いでいるのはリリーである。



「魔導具を作る時に、と言っていたがクラウド殿は魔導具が作れるのか?ひょっとして例の絨毯って?」



「ん?ああそうだよ、空飛ぶ絨毯は俺が作ったのさ。」



 バダックの質問に答えたクラウド。その答えを聞き再度リリーが凄いとはしゃいでいた。



「そ、空飛ぶ絨毯・・・?実在する魔導具だったんですか・・・?」



 エドワードは理解が追いつかない状況に少々戸惑いを感じているようであった。結局その日魔法についての説明を数時間かけて行ったクラウドであったが、その内容を聞いた全員は開いた口が塞がらなかったようである。

 上位魔法は精霊魔法のように各属性があるが威力や幅広い用途が段違いであった。また、秘伝魔法など聞いたことも無い面々は話しに聞き入っている。特に興味を持っているのが騎士団長のファンクである。



「それではクラウド殿はその『秘伝魔法』なら我々騎士でも使えるというのですか?」



「ああ。正確には秘伝魔法の中には魔力が少ない者達のために考えられた魔法があるってことだけど。ただし魔力の代わりに生命力を使うから扱いを間違えるとぶっ倒れるけどね。」



「・・・」



 薄目で遠くを見るような表情に変わったファンク。もしかしたら自分も魔法を使えるかもと期待したのだが、話しが一気に危なくなったため引いているようだ。そんな事は知らないリリーが興味を持ったようで聞いてくる。



「それはどういった魔法?」



「うん?例えば契約魔法とかだろうな。」



「契約魔法?」



「秘伝魔法の一つだよ。魔力が少ない人達向けでね。簡単に言えば魔力の代わりに生命力を使って扱うんだ。と言ってもそう難しいものじゃない。魔法生命体と契約するだけだよ。使役する時に生命力を消費するんだ。」



「生命力?」



「そう。と言っても、使えば命を削るなんて物騒な話しじゃないよ。なんて言えばいいかな、元気やスタミナを消費するとでも言うか。例えば自分の代わりに魔法生命体を走らせたとしよう。走ったのは魔法生命体、でも疲れるのは自分って感じかな?分かるかい?」



「ん、何となく分かる!」



「なんとなくか・・・何だかもやっとするな。よし後でファンクさんに何か契約させてみよう。実物を見た方が早いだろ。」



「ん、面白そう!」



「ちょ、ちょっと!勝手に決めないで下さいよ!」



 何やら知らぬ間に実験に使われそうになっていたのをファンクが慌てて止める。それを見てリリーはケタケタ笑っているのであった。



「こんなに笑うリリー殿下は本当にお珍しいですな。」



 エリックがアンドリューへの良い土産話しが出来たと笑っている。





「けど、教えるって言ったって僕が魔法を覚えるなんて無理だと思うんだけどな・・・」



 弱音を吐いたのはルークである。かつて無役となった自分である、魔法適正が無いことは間違いないと考えているようだ。



「何の問題も無い。任せろって。覚えてくれなきゃ俺も困るってもんさ。」



「?何でクラウドが困るのさ?」



「そりゃマーサさんから許可が出ないだろうからな。」



「許可?」



「ああ。少し先の話しになるけどな。・・・なあルーク、俺と一緒に旅に出ないか?世界を見て回る旅に。危険もあるだろうけど、魔法や剣術なら教えてやるから。」



「え・・・、きゅ、急に言われても・・・」



 すぐには答えられないと言うルークにクラウドは笑いながら答えた。



「もちろんゆっくり考えてくれていいさ。マーサさんから許可をもらうならルークだって鍛えなきゃいけないしな。でも楽しいぞ!見たことも無いものを見るのはな。」



 そんな二人の会話を聞きながら反応するのがもう一人。



「楽しそう!私も行く!」



「お、お待ちをリリー殿下!国王が許されるはずがありません。」



 慌てて止めに入るエリックを見てリリーが口を突き出している。



「いいもん、直接お願いするもん。」



 アンドリューから聞かされているエリックはこの状態になったリリーの手ごわさをよく知っている。まず間違いなくアンドリューは許可しないだろう、しかし結果としてリリーに怒られているアンドリューの姿が容易に想像出来たエリックはゆっくりと目を閉じ祈るのであった。



「(アンドリュー様、心を強くお持ちください・・・)」



 その後は全員で昼食を食べようと言う話しとなったが、トント村にいる以上マーサさんとタニアちゃんが居ない所で食事は食べないと言い放ち帰ろうとするクラウド。それを見て笑っているのはリリーとバダックとエリス、困っているのはエリックとエドワードである。



「それならその2人に来てもらうことは出来るだろうか?」



 クラウドが大事にしている人がいるならそれが一番良いと考えたエドワード。エリックがその発言に心の中で「よし!」とガッツポーズを取る中、きっと2人は遠慮すると考えたクラウドが断ろうと考えていた。しかし村長ロデリックにより使いが出され2人は村長の家まで呼ばれてしまう。


 いざ食事が始まったものの、二人が緊張しているのを見て可哀想だとクラウドが言う。その結果、







「誰のせいさね!」

「もうっ、クラウドのせいでしょう!」



 頭の上がらない2人からの攻撃に為す術などある筈も無い。ひたすら謝るクラウドを見ながらリリー・バダック・エリスの3人は大笑いし、エドワード・エリック・ファンクの3人は信じられないものを見たと固まっている。


 彼らの目の前でひたすらに許しをこう男は国王、宰相、王太子に怯むことなく媚びることもなく目を見据えて話しかけてくるような人物だったはずである。それが小さな村の老婆や娘にペコペコと頭を下げている。



「バダック、これは一体どういう事なのだ?」



 そう尋ねたエドワードにバダックは答える。



「尊敬する相手には心を砕いて礼を尽くす。それがクラウドという男なのです。」




 話し始めるバダック達の横でルークとリリーがその言葉を嬉しそうに聞いているのであった。

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