王都の冒険者ギルド
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エドワード達の帰国を祝う宴にてそれぞれ褒賞の発表が行われた。
同行した騎士達にはそれぞれが手に入れた魔石の買取代金として1人につき金貨10枚の他、討伐したアンデッドの数によって特別報酬が出されることとなり参加していた騎士達からは歓声が上がったほどであった。
魔術師団も戦闘に応じてであるが、討伐数が少ない為1人につき銀貨3枚のみ。活躍出来なかった同僚達を他の魔術師達が睨みつける中、外交交渉を成功させたエリックには白金貨3枚とユーテリア王国から勲章が授与された。
騎士団団長のファンクもまた白金貨1枚と勲章を得る事となり魔術師団に睨まれる中騎士達の歓声は大きくなるばかりである。
そんな中、クラウドに贈られたのは一風変わったものであった。家族に無役がいることを発表された後、今回の一件にてその功績を称えた上で無役に課されている追加課税が廃止されると発表されたのである。その後クラウドも勲章を授与された。
発表の後の周りの反応は様々であった。無役を甘やかしてはいけないと言う者もいれば、微々たる追加課税を止めるだけでクラウドに金を渡さずにすんだと笑う者も居る。
周りの多様な反応の中、ルークの負担が軽くなるとクラウド本人は満面の笑みを浮かべていた。
そんなクラウドにとってその他の事など些事同然。誰に何を言われようが気にもしない。
その結果、褒賞の発表の後で食事をしていたテーブルの上に貰った勲章を忘れて帰るという珍プレーを見せ一緒に食事をしていたバダックとエリックを慌てさせる事になる。
宴も終わった次の日、バダックが挨拶回りに1日欲しいと言ったことで暇になったクラウドは冒険者ギルドに来ている。
いつかルークと旅に出たいと話した時にヘンリーに冒険者ランクを上げておけば役に立つと教えて貰ったクラウドはランクを上げるメリットについて詳しく尋ねてみようと考えたのである。
「随分と賑わっているな。どこも似たようなものか。」
以前に冒険者登録をしたミルトアのギルドを思い出しながら中に入る。建物の中は受付カウンターや隣接された食堂など見覚えのある造りになっていた。
違うことといえば人の数だろうか、ミルトアとはケタ違いに人が溢れている。
パーティを組んだ冒険者達が受ける依頼を探す横ではソロと思われる冒険者が受けた依頼の仲間を募っているようだ。喧騒に包まれた中を歩き一番近くの受付カウンターにやって来た。
「御用件は何でしょうか?」
明るい声で元気に話しかけてきたのは茶色の髪をボブカットにした女性。美人というよりも愛らしいその風貌は人好きのする顔立ちである。細くはあるが健康的な身体はルークよりもよりも若干大きいくらいであった。
「あぁ、冒険者ランクを上げると旅に出る時に便利と聞いたんだけど、どう便利なのかが分からなくて。ちょっと教えて貰えないかな?」
依頼を受けるでも無く、冒険者なら常識のような事も知らない男を見て受付嬢が笑った。
「あはははっ!お兄さん冒険者には成り立て?」
「ああ、そうなんだ。登録したはいいけどまだ一度も依頼を受けてない初心者なんだよ。」
「な〜るほど♫そういう事ならお姉さんに任せなさい!」
それほど大きくない胸をドンと叩きながらニッコリと笑ったその受付嬢が言うには、冒険者ランクを上げるとギルドが置かれた街や都市同士の間を移動する馬車の代金が割引になったりギルドが提携している宿の宿泊料が安くなったりするらしい。
「(長く旅をするなら決して馬鹿にならないな。宿代や馬車代が安くなるならありがたいかな)なるほどね。で、それってどのランクから受けれる特典なんですか?」
「はい、冒険者ランクはDからですけどCランク以上の方が割引される金額が大きくなってお得ですよ!」
「なるほどね。よし、大体分かったぞ。」
「それは良かったです♫それならどうです?せっかくギルドに来たんだし何か依頼を受けられますか?」
「そうだな。今日は1日暇だし何か受けてみるよ。あっちの板に貼り付けてある紙を取って来たら良いんだよね?」
「はい!その通りです!」
クラウドは終始元気な受付嬢に流され依頼板の前まで移動した。そこには様々な依頼が貼られている。どうやら貼る高さで冒険者ランクを表しているようだ。Eランクの依頼は一番下に貼ってある。探し物や届け物といった簡単なものから採取などの依頼がメインのようだ。その一列上がDランク。依頼の内容は中型の獣や小型の魔物討伐などがメインの様だ。
現在Eランクのクラウドは1つ上のDランクまでの依頼しか受ける事は出来ないらしい。どれを受けるかと考えていると食堂の方から一際大きい声が聞こえた。
「いい加減にしろ!無理だと言ってるだろうが!」
粗野な口調で威圧するかのように吐き捨てる冒険者。揉め事などは日常茶飯事なんだろう、誰も気にしている様子は無い。
クラウドは依頼板から1枚の紙を剥がすとさっきまで話しをしていた受付嬢に近づいていく。
「あっ!何を受けるか決めたんですか?」
「ああ、これにしますよ。」
そう言ってクラウドが出したのは採取依頼であった。物資が不足がちな冒険者ギルドでは常に薬草や解毒草の需要がある。
「なるほど、地味ではありますがこういった依頼をコツコツと続けてこそ、他の冒険者の方達が助かると言うものです!では、依頼を受付しますのでギルドカードを出してください。」
クラウドはそう言われて固まる。
「あれっ!?俺カード持ってないや。」
「へっ!?ど、どういうことですか?」
クラウドは以前にミルトアの街で冒険者登録をした際、作るのに時間がかかると言われた為に後で取りに行くと伝えてそのままになっていたのであった。
事情を説明するクラウド。
「はぁ、な、なるほど。」
冒険者にとって自分のギルドカードは重要なアイテムである。それを取りに行く事さえ忘れていたクラウドに受付嬢が呆れている。
「ま、まあ、無いものは仕方ないですね。幸いにもここは王都のギルドです、このギルドで全支部のカードを作っていますからね。普通ならカードを無くした方が再発行するまでの間に使う仮カードですが、今日はそれを発行しましょう。」
「おっ、なんだ?依頼は受けられるの?」
「はい。でもでもあくまでこれは仮カードですからね。なるべく早くギルドカードを貰いに行って下さいよ!一ヶ月以内にギルドカードと仮カードを一緒に冒険者ギルドに出してくれないと、仮カードに登録された情報が移せなくなっちゃいますから!」
「分かりました。ありがとうね。」
そう言って出て行こうとすると後ろに並んでいる男から声をかけられる。
「がっはっはっ!ギルドカードを忘れてくるとは豪気だな兄ちゃん!」
話しかけてきたのは気さくな口調な男である。年齢は30〜40くらいだろうか、冒険者にしてはやや高齢であった。
「ははっ、全くだ。流石に焦ったよ。」
「なかなか見ない顔だな、困った事があれば相談に来な!」
そう笑う男を見て受付嬢が声をかけた。
「ふふっ、この人はデスクンさんって言って、このギルドでも有名な世話焼きなんだよ!」
「がっはっはっ!そう言う事だ。コニスちゃんに受付されるたぁ運が良かったな兄ちゃん。」
どうやらクラウドの受付をしてくれたのはコニスという名のようだ。
そして話しかけてきたのは愛嬌があるデスクン、だからこそクラウドはひっかかる。
「なぁデスクンさん。さっきは何を怒鳴ってたんだい?」
いい加減にしろと怒鳴っていた男の声と話しかけてきたデスクンの声が同じであったことに気づいたクラウドは世話焼きとして有名なこの男が怒るとは一体何があったのか?と少し気になったようだ。
「んん?あ〜、聞こえてたか。たはは、みっともねぇな。」
そう言ったデスクンは指を指し食堂の片隅を見るように促した。
「あそこに立ってるガキが分かるか?」
そう言うデスクンの指の先には目を赤く晴らした少年が壁にもたれるようにして立っている。
「ああ。あの子がどうかしたのかい?」
それはこのギルドでは有名な話し。ここ数か月の間、毎日のように冒険者ギルドに来ては同じ頼みをして回る少年の話しであった。行方が分からなくなった父親を捜して欲しいと頼み込んでいるらしいが誰一人としてその頼みを聞く者は居ないというものであった。
「なんでだ?世話焼きのデスクンさんなら受けてあげそうな頼みだけど。」
「ここにいる奴はほとんどが事情を知ってるのさ。」
「事情?」
「ああ。あいつの父親はアッシュっていってな。俺に輪をかけたお人好し野郎でよ。数か月前にある新人共がゴブリンの討伐依頼に失敗したところに出くわしてよ・・・」
デスクンが言うにはEランクの新人が困っているのに出くわし、彼らの手助けを申し出たアッシュ。しかし、その新人達は依頼を失敗したせいで焦っていた。結果、アッシュが他のメンバーと話している内にメンバーの一人が勝手にパーティ申請をしたらしい。
アッシュが協力を申し出たのが受付カウンターの前であったため、やり取りを見ていた受付嬢が問題無く受付してしまう。
功績が欲しかったその新人達はアッシュのCランクに合わせて依頼を受ける。その内容はゴブリンよりも強い魔物、オークの討伐であった。しかし、ゴブリン討伐と思い込んでいたアッシュはそのまま依頼に帯同する。
依頼地に向かい新人達を庇いながらオークの一団と戦う羽目になったアッシュはその戦闘で命を落とすが、問題はただ一人逃げ帰ってきた新人冒険者であった。
アッシュのおかげで命が助かったにも関わらず、アッシュのことを役立たずと言い放った彼はある有力な王国貴族の三男であった。その結果、その新人冒険者に楯突いた数人の冒険者達はポーションが手に入らなくなったり装備品を見てくれる職人が居なくなったりと散々だったらしい。
「俺達冒険者にとってポーションや装備品は命綱だ。それを止める力を持つ貴族に正面きって立ち向かう奴なんざ居やしねぇ。」
「・・・デスクンさん・・」
苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべるデスクンを見てコニスもまたその表情を曇らせている。
「なるほどな。つまりこれは俺の出番だな。」
「「は!?」」
声を揃えた2人を余所にクラウドは涼しい顔である。
「お、お前話しを聞いてたのかよ?」
「そりゃ聞いてたさ。だからこそ何の問題もない。俺はレインフォードを活動の拠点にする気は無いし、王都の貴族に何のしがらみもないからね。」
「ば、馬鹿野朗!だからって死んだ男の事をどうしようってんだ?馬鹿な事を考えるな!」
「まぁ出来る限りのことをするよ。大丈夫、心配無いさ。」
後ろからかかる声に手を挙げて答えながらもクラウドは外へと出て行く。
身の程を知らない無謀な新人が忠告も聞かずに死地へと向かって行く。
が、頭を振りながら呆れている2人を余所にクラウドの心とその足取りは軽い。
「無事リリーちゃんの助けになれた上に困った子供まで助けてあげられたなら・・・、こりゃ初めてマーサさんからお褒めの言葉が貰えるかもな!わ〜はっはっは!」
王都の貴族の脅威などどこ吹く風であった。




