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その帰路にて

 レムリア皇国領土を横断するユーテリア王国の一行は何の問題もなく進んでいる。



「しかしこれは流石に信じてもらえないだろうな。」



 エドワードが言葉を漏らす。



「そうですね・・・流石にこれは・・・」



「ふっ、エリックが苦労したというのも頷けるな。」



 同じ馬車に乗るヘンリーとオリヴィアがエリックの心労を察している頃、その当人はというと・・・



「大丈夫だろうかエリック様・・・」



 本来彼が乗っているはずの馬車には現在ファンクが1人で乗っている。王選魔術師団団長ランドルフに続いてついに寝込んでしまったためだ。

 馬車を降り病人・怪我人用に準備していた広めの馬車に移り現在は簡易的に馬車に取り付けたベッドで横になっている。彼が馬車から降りる際の言葉を聞いてファンクは同情を禁じ得なかった。そのエリックはベッドに入った後の今も同じ言葉をうわ言のように呟いている。



「一体どうやって報告書をまとめれば良いのだ・・・」



 クラウドの同行を認めたのは他ならぬアンドリュー国王である。


『何処の馬の骨とも分からない者を国家の大事に使うのか』


 出発前の会議では反国王派とでも言う貴族達がそれを理由にアンドリューに執拗に釈明を求めていたのであるが、アンドリューは頑として聞かなかった。出発前に直々にエリックに会いに行ったアンドリューは「反対していた貴族達を黙らすような報告書を頼む」と伝えていたのだが・・・



「これではまるで滑稽な夢物語だ・・・」



 これから自分が作ることになる報告書のことを考えると気が休まらない。何故ならただでさえ反抗的な奴らなのだ、信じる筈がない。



「うぅっ、クラウド殿の魔法は多少脚色して信じやすくするとしても、帰りの道程を何と説明すればいいのだ・・・。」


 行き道はアンデッドが湧きかえっていた筈の旧レムリア皇国領土であるが、帰りに至っては只の一度も戦闘は起きていない。入手した魔石の数は途中報告として既に王城へと連絡済みである、入手済みの魔石を行き道と帰り道で半分ずつ手に入れたと誤魔化すことはもう出来ない。帰りに手に入れた魔石が0個となれば益々報告書の信用が落ちるだろう。



「い、一体誰が信用すると言うのだ、この現状を・・・」



 そう、帰りの旅路においてただの一度も戦闘が起きなかった理由、それは一行の最前列を歩くものが原因である。



「なかなか順調だな、この分ならどれくらいでユーテリアに着きそうだ?」



 順調な旅路をクラウドが褒めている。



「ウガァ・・・コノママイケバアト・・シゴニチカ・・・ト・・・。」



 一行を先導しているのは国落としと呼ばれるAランクの魔物デミリッチであった。近づいてくるアンデッドの群れもその存在に気づけば立ちどころに踵を返す、まさに魔物除けにはうってつけだと考えたクラウドが命を助ける代わりに雇ったのであるが・・・



「うぅぅ、申し訳ありませんアンドリュー様・・・」



 エリックの心労は増えるばかりであった。


 その後、問題なくユーテリア王国領に到着した一行はデミリッチを労うクラウドを横目に全員の顔から表情が抜け落ちたようになっている。



「・・・ようやくこの非現実な惨状から脱したか・・・」



 エドワードが呟くがそれに答えた者は居ない。何の問題も無く旅路を続けてこれた事を惨状と呼ぶ時点で既にその心情は見て取れるのだが。


 ユーテリア王国領に到着したことでエリックも起きてきている。ようやく異常な世界が終わりを告げ、自分が知る日常が帰ってきたのだ。



「色々ありはしたが、ようやくユーテリアに帰ってこれたか・・・・。」



 ユーテリア王国領土に到着したことをエドワード達に報告に来ていたエリック。報告が終わって馬車から降りた時に本音を無意識に呟いたようだ。



「あっ、居た居たエリックさーん。」



 掛けられた声に身体がビクッと反応する。



「ク、クラウド殿。一体どうされたのか?」



 もう説明が付かない事態になどならないだろうと気を抜いていたエリックに止めの一撃が突き刺さる。



「いや~、助けてもらった礼だと言ってこんなの貰ったよ。」



 ぽかんとしているエリックにクラウドがした説明は・・・



「何でも助けてもらっておいて旅の先導だけじゃ釣り合わないってさ。これはデミリッチの体の一部を魔力で変異させて作ったメダルらしい。自分と関係を持つ証拠になるんだとさ。そこいらの魔物じゃ近づくことも出来ない魔物除けのアイテムらしいよ。それに困った時にメダルを持って会いに行けば力を貸してくれるってさ。良かったねエリックさん。」



・・・ばたん



 無言で倒れるエリック。馬車の中で聞いていたエドワード達3人はその後全員で帰国後にエリックの力になろうと誓い合うのであった。




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