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幕間-4 初体験の夜

ユーテリア王国の王都レインフォード、その王城の一室ではもはや恒例ともなったやり取りが繰り広げられている。



「な、リリー、少しぐらい良いじゃないか。」



「駄、目!」



 ドラン連邦国へと交渉に行ったエリック、その彼が出発前にした報告が今王城で問題となっていた。


 曰く、「リリー殿下が待つ魔導具があれば二度と誘拐の危機にさらされる事は無い」


 国王アンドリューの懐刀をしてそこまで言わせるリリーの魔導具、それはもちろん『騎士ナイト』と『守護騎士ガーディアンナイト』のクリーチャーカードであるが、問題はその性能であった。


 常に携帯出来、必要な場所でのみ呼び出すことが出来るクリーチャーカードは言わば国のVIPからすれば自身の護衛としてこの上ない使い勝手の良さである。


 報告を聞いたアンドリュー立ち合いの下で性能を検証するべく一度だけ使って見せたリリーであるが、呼び出した黒騎士の強さはその場に居たどの騎士をも遥かに凌駕するほど。しかもリリーは更に優秀な守護騎士すら持っているという。

 それ以降、アンドリューは自分の公務の時間にリリーを部屋へ呼ぶ事が増えたのであるが、それは優秀な護衛を持つリリーが居れば安全性が大きく向上するという建前の下で公然とリリーと一緒に居ることが出来るという親馬鹿ならではの思考でもあった。


 諫めるエリックが居なかったことで部屋へと頻繁に呼ばれるリリー。


 その理由を周りが知るのは早かった。なんせ警備上の理由もあり説明を行う上でクリーチャーカードの話しはせざるをえない。結局は秘密裡に行った検証などどこ吹く風とでも言わんばかりに外部へと漏れることとなり、話しを聞きつけた者達からリリーは質問攻めとなっている。



 そして現在部屋を訪ねて来たのは兄エディン・ランカスターである。


 リリーには3人の兄と2人の姉がいるが、うち3人は現在は囚われの身となっている。長男エドワードは24歳。国王の座を継ぐべく日々精進に励むストイックな性格である彼には歳が離れていることもありリリーは少し近寄りがたささえ感じている。現在はドランに囚われている。


 次男はヘンリー20歳。優秀な兄が国を治めるならば何の問題は無いとして、自分は有事には兄の支えとなれるようにと武芸を磨く熱血漢。軍務卿ガルド自らの手ほどきを受ける程にまでなっている。エドワード同様、現在は囚われの身である。


 そして部屋を訪ねて来た三男エディン16歳。非常に好奇心旺盛で政治や武芸といったものへ執着をあまり見せないが、自分が知らないことへの強い欲求を持つ。リリーからしてみれば兄の中では一番接しやすい性格なのだが、人との接触そのものを苦手とするリリーからすればぐいぐいと押してくるエディンにはやはり苦手意識があるようだ。


 長女ソフィアは22歳。自由奔放で自分の考えが最優先という兄弟きってのトラブルメーカーである。


 そして最後の姉がドランに囚われている次女オリヴィア13歳。もの静かな性格であるが芯は強い。歳相応の幼さもあるが、総じて大人びて見える彼女のファンは国中に存在している。



5人の兄と姉の中でも比較的相性が良いはずのエディンであるが、カードに興奮している今リリーはその対応に困っていた。



「なあ、いいじゃないか、父上には見せたんだろう?」



「こ、これは玩具じゃ・・な・・い」



 無邪気に使って見せてくれとねだる兄をよそにリリーは軽々しくカードを使うことは無い。彼女もまた2度も誘拐されかけたことや、その時にバダックが死にかけたことで危険への警戒が非常に高くなっている。


 意味も無く使って必要な時に魔力が足りないなどあってはいけないのだから。


 そしてドラン連邦国の勇者に隠密スキルで狙われた経験から、リリーは王城の中でさえ警戒し続ける程になっている。



「でも良いよなぁリリーは。私も父上に頼んでみようかな。」



「ち、父上じゃ、つ、作れない・・・」



 作れるのはクラウドただ一人であるが、エディンからすれば命令して作らせれば良いと考えているのだろう。父親のアンドリューから了承さえ取れれば手にいれたも同然と考えているようだ。



「ふふ、大丈夫さ。それよりリリーはミルトアに行った時、そいつにそのカードを貰った以外には何も無かったのか?」



 ほとんど世間話のつもりでエディンがリリーに尋ねた時、少し考えたリリーは突然に満面の笑顔を見せる。



「ふ、ふ、ふ。だけじゃ・・・ない!」



「おっ!なんだその嬉しそうな顔は?」



 突然の豹変に驚きつつも滅多に見ない妹の変貌ぶりにエディンの好奇心が刺激される。しかし、それは・・・



「は、初めてだった・・・あんな夜・・は・・・」



「・・・・・・・・・は?」



 いきなりの妹の言葉に思考が停止したエディン。もちろんリリーが思い出しているのはトント村で見た空一面の星空であるがエディンがそれを知る術は無い。むしろ見たことも無い程にとろんと蕩けてしまいそうになった妹の顔を見てエディンが焦りだした。



「ちょ、ちょっと待てリリー!お、お、お前まさか肌身を許したのかっ!?」


 肌身を許すの意味が分からなかったリリー。肌身=自分と考えたリリーは自分が許す、つまり「心を開いたのか」と聞かれたのかと勘違いする。



 その結果



「うん!・・・そ、その後は自分からも・・・次もって・・お願い・・した。」



「お、お、お、お前っ・・・」



 村娘じゃあるまいしと続けようとしたが言葉が出ない。溺愛する父親が聞けば卒倒するのは間違いない。



「でも・・・すぐには・・し、してくれなくて・・。何度も何度もお願い・・して・・。け、結局汗だくに・・なるまで・・・」



「う、うわぁ~リッ、リリー!」


 汗だくになるまでかけっこで競争した説明を(リリーなりに)したところでエディンがわめき出す。その結果、話しはアンドリューまで聞こえることになる。激怒したアンドリューがクラウドにことの次第を説明させると息巻く中、その飛び火は同じく村に滞在していたバダックまで巻き込んだ。





 部屋にリリーを連れ突撃してきた国王に驚くが、話しを聞いて大笑いすることになるバダック。村での経緯を説明することになるのだが、その話しを聞きながら父親達が何に怒っているのかを知ったリリーの顔は耳まで真っ赤に茹で上がっていたのであった。

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